九日目 午後四時
ドドドドド、音にするならまさにこれだ。
なのにそこまで怖くない。
短期間に余りにも体験しすぎたせいか、恐怖の感情が麻痺しかけている。
ハルも流石に子供たちが乗っているのに、そこまでハイスピードを出そうとはしなかったというのもあるのだろう。
それでもやはりかなりのスピードだ。だが当の本人は汗一つ流さない。顔だけ見るなら散歩でもしているかのようだ。
なんてことだ。
私もここを目指すべきなのか……? 果たしてこの領域に私が足を踏み入れる資格があるのか……?
籠から転げ落ちそうになった『ニィド』を受け止めて籠に戻す。最近反射神経は上がった気がする。
『イーグライフ』の雛が『ヨーデル』のもこもこした羊毛からひょこりと顔を出す。
きょろきょろと周りを見渡し、私を見ると「ぴぃ!」と元気よく鳴いた。
そして直ぐ様、羊毛の中にずぼっと埋まった。
そしてその後肩にしがみつきながら、もぞもぞと動くウォンを横見した。
……ウォンがもこもこの中に行きたそうな目をしている。
ふらっと視線がかち合う。私は首を横に振った。
『ヨーデル』の羊毛は既に定員が埋まっている。
優雅な『キャルロ』は揺られる籠の中でも羊毛を枕にしているし、雛っ子も中にいる。
そして『ニィド』も必死になって中に隠れていた。『ブラットウルフ』の灰色子狼はすやすや羊毛を布団に寝ていた。
ほかの子達に比べれば羊の『ヨーデル』は大きいほうだが、それでも私の腕にすっぽり、余裕を持って抱えれるほどだ。より具体的に言うならバレーボールより少し小さいほどしかない。
ウォンが入ると確実に窮屈になる。
あれだ。一人用ベットに二人が無理やり押し込むような、そして一人がぼてっと落ちるあの状態……。場所取りは弱肉強食だ……。
小さくなれるなら私も羊毛の中に入りたい。願わくばそのまま寝たい。
一ヶ月ぐらいなら余裕で安眠できる自信がある。
そんなことを思いながら、現実逃避をしていた。魔物達がこんなにも可愛い。
***
ブラットウルフのルーの場所までは、体感時間約二時間ほどかかった。
巨狼と呼ばれるほど大きくなったルーが、群れを引き連れて走っていたところにハルが追いついたのだ。
狼に追いつく人間を私は初めて見た。狼の群れの先頭を走るルーは久々に私達を見て驚いたのか、目を見開いた。……この体勢には深い理由があってだな……。
そしてそんなルーを見た灰色子狼が「くぅ! くぅぅ!」と途端に大きな鳴き声を上げる。
再びルーがぎょっとした顔をする。
「グルァ?」
私を見て、子狼を見て、ウォンを見て、私を見て……のループだ。混乱の極地にルーはいる。
そんなルーに、ウォンが私の方から飛び降り、ルーに説明役を買って出てくれた。
「キュ、キュキュキュ……きゅー……」
「グゥ……」
身振り手振りを使って表現するウォンと、首を傾げたり、頷いたりしているルー。
そんな様子を見ながらハルは「あの子大きくなったわねー」としみじみ呟いていた。私も同意だ。
泉にダイブしていたやんちゃ坊主は、今では立派な群れの首領です。
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