八日目 午後四時

その時だった。


爆音と怒声、そして何かが崩れる音が背後の扉越しから聞こえてきた。

しかも、その音は徐々に近づいて来る。


少年は私に断り、席を立って扉から顔を出す。出した瞬間、顔を戻しバタンッと扉を閉めた。


「……給料が良いって良いことばっかりじゃないね」


少年は非常に疲れた顔でそう呟いて額を押さえた。

い、一体何を見たっていうんだ。


私も立ち上がり、そっと扉を開く。



そこには、優矢背負ったガルドが全力疾走して此方に向かっている姿があった。


廊下にギリギリ入るかどうかの巨大な黒い塊が無数の足を動かしてガルドを追いかけてきていた。


……何あれ。

カオ◯シとシ◯ガミ様を足して出来上がったキメラなのか。そうなのか。

私達がお茶している間に何があった。

ヴァイアス……私の方が先に死ぬかもしれない、これは。


巻き込まれたら最後、命はないと確信した私は扉を無言で閉めようとした。


「おいッ! そのまま開けてろッ!!」


そんな私にガルドの無情な怒号が飛ぶ。



ちらりと後ろに迫るキメラを一瞥し、さらに走るスピードを上げていく。


丁度私達が入っている部屋の前の壁。

その壁をガルドは片足で蹴り、スピードを落とさぬよう軌道を強引に変えた。



「血ぐらいとっとと克服しやがれバカ勇者!!」


そして入ってくると同時に背負った優矢を背負い投げした。


ああああ……そういえばそうだった。致命的な弱点があったんだった。

勇者らしいのに大丈夫なのか。




後ろを追っていた化け物はガルドの急カーブについてこれなかったようで、扉越しに通り過ぎていく様子が見えた。もう来るな。来るんじゃないぞ。


いつの間にか肩まで登っていたウォンが「キュ、キュァ……」と初めて聞く鳴き声を漏らし、ふらっと背中の方に転げ落ちた。

あっ、危ない! キャッチ、セーーフっ! 確かにあれは怖い。



「おい、ユーヤ。俺らの残りの仲間は今どこで何してやがる」


目を回している優矢を張っ倒して起こすと、ガルドがそう問いかけた。


「……無茶苦茶するなあ、マジで……頭いてぇ……一人は本部の教会に戻ってて、もう一人は」


側頭部を片手で抑えながら優矢が立ち上がった。


「今ここに向かってる」



***



「何この音!?」


「よそ見している暇があるの?」


女の鋭い攻撃が、ハルの背後の壁を叩き割る。

避けたことに寄って体重を崩し、ハルは後ろに倒れこむ。


危うく落ちかけたが、直ぐに体勢をを立て直す、その途中にハルはあるものを見ることとなった。



城を取り囲む、幾千もの軍勢を。



***



「テメェもアンフィスェバナの仲間だな」


「うん、そうだよ」


臨時だけどね、とほけほけ笑う少年と目付きの厳ついおじさんことガルド。因みに前者が逮捕される側である。普通逆じゃないか。

私の視線に気がついたのかぎらりと睨みつけられた。ひ、ひええ。


「んー、もう潮時だね」


「俺らが返すと思ってんのか」


復活した優矢が睨みを効かず。酔いはもう大丈夫なのだろうか。まだ若干顔が青いんだが。



「帰るよ、別に君の許可はいらないからね」


そうさも当たり前のように言って、扉を背に立っていた少年は戻ってきていたキメラとともに消える、直前。


「ああ、そうだ。これあげるよ」


折り畳まれた一枚の紙を私に投げ渡した後に。

その紙を開くとその中身は材料の書き殴られた古びたメモだった。


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