八日目 午後三時
「解毒剤……って、え? 誰に必要なの?」
少年はぴたりと手を止め、細い目を見開いて私達をまじまじと見た。
のほほんと茶を飲んでるとはいえ、魔物を攫う連中の
「……ヴァイアス、そこにいる白い虎型の魔物に必要なんだ。アンフィスエバナに襲われた時に毒を受けたらしい」
毒のことを知っているらしいハルがいれば、もう少し詳しい説明が出来ただろうが、現在彼女は戦闘中だ。人外戦争中なのだ。
「毒かあ……うーん、あの毒かな。多分、
再び茶を啜り始めた少年は、明日の天気が雨だと告げるようにそう言った。
「
初めて聞く名だ。自身の眉に皺が寄るのがわかる。あまり良い名前にはとてもじゃないが聞こえない。
「魔力の流れに異常をきたしている状態のことだよ。勝手に身体の中で魔力が暴発したり、体が上手く動かなくなったりとかする毒なんだ。
調べても基本的にはただの麻痺毒としか判断できないし、なかなか原因が分かりにくいから足がつかない、アンフィスエバナ御用達の便利な毒って訳」
まあ、殆ど聞きかじりだけどね、と言い終わると茶を継ぎ足す少年。
……調べても分からない。だから魔法書にも麻痺毒、とだけ表示されたのか。
「……それで解毒剤はあるのか?」
ヴァイアスに打たれた毒については大体わかった。肝心なのは解毒剤はあるのか、ここが重要だ。少年は数秒ほど無言で考えた後、口を開いた。
「うん、あったよ」
「『あった』?」
嫌な予感が、いや確信だ。過去形なのか。
ウォンが私の服の端を噛んで引っ張っているのを、手で抑える。
「十年前ぐらいまでは置いてあったらしいんだけど、製法が信じられないぐらい面倒くさいし、リスクは高いしで今は作られてない筈だよ」
作られていない。
ここまできて作られてない、なんて、そんな。何で。
やっとここまで回復して、子供とも会えたのだから、後は解毒剤を手に入れてハッピーエンドで良いじゃないか。
「……な、いのか」
呆然と立ち尽くす私の口から言葉が漏れる。
『……ソウカ、ナオセナイノカ』
ヴァイアスが背後にゆっくりと近づいてきて、念話で静かに語りかけてきた。知的で落ち着いた瞳が私をじっと見詰めている。
「……すまない、やっと会えたのに」
『ホンライナラ、アノ日 シンデイタ 命ダ』
ヴァイアスはそれだけ言い、私からすっと目を離すと、少年を射抜くように見た。
「……
少しだけ強ばった不自然な顔で、少年が笑った。
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