八日目 午後一時

「私は魔物が好きよ!」


「それの何が悪いの!?」


そう叫んだハルの姿が変化していく。


耳は鋭く尖り、淡い桃色の髪も黒く染まった。

赤髪の女にハルが突き付けた指から光がホトバシり、魔力が煌めく。


「姉さんは間違ってるの! 分からないなら教えてあげる」


一方、女の方も詠唱を開始し反撃の体制に入っていた。



鳥型の女とエルフに良く似た姿に変わったハルが対峙している。

全く不思議なことにいつの間にか人外対戦に変わっていた。到底私にはついていけそうにもない。まあ元々そうだったが。


……これは、寧ろここにいた方が邪魔になるな。


私とヴァイアスはお互い見合うと、こくりと頷き迷子探知サーチを頼りにヴァイアスの子供の方へと走った。背後で激しいぶつかり合う轟音が響き渡っていた。


あれに巻き込まれたら、間違いなく死ぬ。



***


すぐ近くまで来ていた事もあり、直ぐにそこに付いた。南京錠が掛かっていたが、ヴァイアスのタックルにかかれば容易く引きちぎれた。


それを近くで見ていたウォンが少し飛び上がった。気持ちはわかる。

一方、モナは人間ならば大喝采しそうなほどテンションが上がっていた。肉を好むことと言い、一般的な兎とはかけ離れてきている気が、いや確信がある。肉食虎ウサギ……。


『コノナカダ』


ヴァイアスが駆け出す後ろを私達は追いかけた。




部屋の中には幾つもの檻が所せましと積まれていた。その中にはぐったりとした魔物が何匹もひしめき合っていた。

ウゥウ、と幾つもの呻き声が聞こえる。か細く小さな声、苦しそうな荒い息、耳を塞ぎたくなるような悲痛な声が重なり合う。


そんな中にヴァイアスの子はいた。


いくつも積まれた檻の下の方に、ひっそりと端に隠れるようにその小さな白い身体を縮めていた。


ヴァイアスはその前まで歩くと、安心させるように我が子へ小さく囁く。

小さなその子はぱっと顔を上げて母を見た。


先程まで垂れ下がっていた尻尾がゆさゆさと揺れ、檻越しに何度も鳴いた。


『サガレ』


ヴァイアスは短く鳴き、頑丈な筈の鉄格子を爪で切り裂いた。その切れ味は私も知っている。骨も綺麗にスライスできるのだ。


鉄格子がばらばらに壊れ、中から白い子毛玉が飛び出す。 ヴァイアスはにーにーと鳴いて飛び跳ねる毛玉のされるがままだった。それが何だか微笑ましい気分になって頬が緩んだ。



……ああ、良かった。本当に、良かった。

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