八日目 午前十時

ハルやヴァイアスと共に入り組んだ城内を走っている途中、私は自身に起きたある変化に気が付いた。


「……わかる」


ヴァイアスの子の場所がわかるのだ。


それもヴァイアスの子だけではない。何処に誰がいるのか、自分を中心にしてアーチ状に広がるように。先ほどまでは無かった筈の感覚だ。


一体何時の間に、私に迷子お探し機能が付いたんだ……?


内心首をかしげたが、そう困ったことにはなるまいと頭を振ってその疑問を払う。

そして私は隣を走るハルに、先程聞こえてきた会話の言葉を問いかけた。


もしかしたらハルは知っているかもしれない。


「そう言えばハル……さっきの、勇者やアンフィスエバナって一体何なんだ?」


山奥暮らしの私には正直ついていけそうにもない話だ。正直何言っているのか半分も理解出来なかった。

……早い事ヴァイアスの子供を取り返して、皆で森に帰ってまたのんびり暮らしたい。出来ればルーにもまた会いたいんだが、何処にいるのやら。

腕の中でぐてっとしているウォンを見つめながら内心でため息を吐いた。


ハルは私の言葉にキッと眉を吊り上げた。


「……勇者云々はさっぱりだけど、アンフィスエバナはよーく知ってるわ!」


魔王アンフィスエバナ信仰を掲げる反勇者組織で、アタシとアタシの故郷を滅茶苦茶にした奴らよ!!」


ハルは傷だらけの両腕で身体を掻き抱き、殆ど悲鳴のような声で叫んだ。

ハルは決して泣いてはいなかったが、何故か泣いているようにも見えた。


ハルのことについても私は知らないことが多い。

……これでも同士のつもりなんだがなぁ。いつか話してくれたらいいな。



「……ということは、ヴァイアスの子供はそいつらに攫われた、ってことなのか……」


「そうね、そうなるわ……まさかこんなことが……」


ハルはそう返した後、ほんの小さな声で「……とっくに壊滅したはずなのに……」と呟いていた。確かにそれは私に聞こえたけれど、なんと言えば良いかわからなかった。


何かを伝えようとするには、私はあまりにも知らなさ過ぎた。




その時、迷子探知サーチが反応を示す。

ふと数歩前を走るヴァイアスが振り向き、目が合った。こくりと私は頷く。

親子であるヴァイアスには分かるのだろう。


もう直ぐそこに子供がいることを。



***



重厚な扉の前に、妖艶な赤髪の女が足を絡ませて立っていた。

一見普通の女性に見えたが、その太腿には黒双竜のシンボルがくっきりと浮かんでいた。


「……やっと来たのね、姉さん」


細く長いその指で、白い肢体に唯一走る太腿の傷を撫ぜて微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る