八日目 午前七時
私の目は一瞬、白い筈の館が
その異様な光景に私は眉を潜めた。いつの間にか身を乗り出し、館を見詰めたが瞬きすると、館は再び白色に戻った。
……今のは見間違いか?
「あの館に正面から乗り込んでもいいが、その間に逃げられたら困るんでな」
後ろにいたガルドが私の肩に手を起いた。獲物を追い詰める狩人の目の眼光を光らせ、口の端を吊り上げる。
「地下から行くぞ」
……地下?
「マンホール、っつってもライラックにしか通じねーけど、地下道から乗り込む方が潜入し易いからさ、っと」
優矢が補足するようにそう付け足し、足元にある周りと少し色の違う煉瓦の一角を、踏み抜いた。がこん、と大きく外れ落ちていく煉瓦の塊は、暗い地下道へと落ちていく。
人ひとり分程度の入口から覗くのは、真っ暗な空洞と、錆びた
「へえ……アメサスタに地下道なんてあったのね」
ハルは暗い空洞を覗くと、そのまま梯子も使わずに飛び降りた。
「流石肝座ってんな」
感心したようにガルドが言い続いて飛び降りた。ガゥ、と一吠えして、ヴァイアスも飛び降りる。ここまで誰も梯子を使わない。なるほど、梯子は飾りだったのか。
「……皆、暗闇に飛び込むのに躊躇ねぇな……」
優矢も苦笑いすると飛び降りた。やはり梯子を使わずに。
ブルータス、お前もか。
……案外、地面までの距離はそうないのか。そうなのか。
「……キュ?」
少し躊躇した私に胸元からウォンが私を見て鳴いた。
うん。例え十メートルあろうとウォンは守ろう。
南無三。
……いっ!? あばばばばばば!!
***
……滑り台。
滑り台だった。
二メートル程落ちた後、滑り台で更に転がり落ちた。
物凄く驚いた。後結構虫が湧いてた。うわ、ムカデっぽいのが服に付いてる。やっぱりなあ。
「きゅきゅきゅきゅ! キュ!」
ウォンはと言えばどうやら楽しかったらしくご満悦だ。ウォンが楽しめたなら良かった。
「ライラック、こっちよ」
ハルの声が右側の奥から聞こえてくる。仄かな灯りも向こうに見えた。私とウォンは声の方へと駆け足で向かった。
「この地下道ってなんなの?」
ハル達に追いつくと、そんな会話が聞こえてきた。確かにそれは気になる。
「代々アメサスタの領主に伝わる館からの脱出経路らしい。
とはいえ、暫く使ってなかったらしいし、誰かに知らせるわけにもいかねーからこの有様って訳らしい。うわっ、カビ臭さっ……」
鼻を抑えながら唸る優矢の隣でヴァイアスも低く唸った。モナは先程からぴくりとも動いていない。……滑り台、怖かったんだな。
「カビ臭さは我慢しろ。もう直ぐ着くぞ」
ガルドは持っていた松明の火を地面に置き、壁を押した。
「……詳しいのね」
「まあな」
ハルとガルドがそう言葉を交わし、壁へと視線を走らせる。押された壁は鈍い音を立てながら、ゆっくりと左右にひらいていった。
……何処かで見たような……某魔法学校を思い出した。
その先に広がっているのはどこぞの横丁ではなく、梯子だったが。ここも梯子か。
「ユーヤあれだせ、あれ」
「ああ、あれな」
優矢は何処からか淡く光る赤い宝石の付いた指輪を取り出し、ガルドに投げ渡した。
一瞬見えた指輪の宝石にアメサスタの国旗が彫り込まれているのが見えた。……なんで国旗入りの指輪を持ってるんだろうか。
「指輪で入口の錠を一時的に解除しといてやるから、とっとと登ってこい」
……今度は梯子を使った。良かったな梯子。
ヴァイアスと彼女に引っ付いくモナは梯子を使わず、ひょいっと軽々登っていたが。
梯子を登った先は館内だった。恐らく物置倉庫だろう。結構埃臭い。
後、街で感じた気持ち悪さが、ここに来てより酷くなっている。
やっと慣れてきた気がしていたのにこれは酷い。
とはいえ、最初は姿形も分からなかった相手の館に乗り込めたのだ。……ここからが本番とも言えるな。
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