七日目 午後七時
優矢は私の方は見ずに、塀の上から危なげなく飛び降りた。
それは以前、シソーラス出会った時と同じ現れ方だった。
何となく優矢の顔が青い気がするが、気の所為、いや……私が原因か。まるで胃の中に鉛を入れているような気分だ。口は災いのもと、というが本当にそうだと身に染みて感じる。
過去の発言を取り消せる物なら取り消したい……。
優矢とガルド──シソーラスでハルと腕相撲していた人だ──は際限なく集まってくる一般人によく似た彼等と対峙する。
「……出来るだけ痛くないように落とすから。ほんとごめんな」
「操られてるだけの奴を殺っちまったら目覚めが悪いしな」
……あ、操られてる?
だから極普通の人に見えた……いやそのものだったのか。
……もしかして、今まで攻撃した人達……まさか死んで……いやいやいや。
恐らく死んでないとは思う。そこまで強力な魔法は、幾ら高濃度の魔力を使っても、所詮初級魔法。せいぜい気絶させる程度だ。 ……そうだよな……?
私が殺人犯になったか否かの簡易脳内審判をし終わった頃、ハルはヴァイアスの簡易治療を施し始めていた。
そして、そんなハルは無傷だった。傷ひとつ見当たらない。走り回ったからか少し桃色の髪が乱れている程度だった。流石だ。
ウォンとモナは走り回るヴァイアスの毛並みに必死にしがみついていたからか、結構ぐったりしていた。
優矢とガルドの方を見ると、二人以外の全員が地に伏していた。
血は一滴も流れていない。どうやら気絶しているだけのようだ。どんな早業……。
だが、再びぞろぞろと際限なく集まり始めていた。
そんな状況を見たガルドは舌打ちすると私の襟首を掴んだ。く、苦しい……。
突然襟首を掴まれ首が締まりかけたが、そのまま素早く引っ張りあげられ、樽のように肩に乗せられた。
一本釣りされた鰹の気分が良く分かる一瞬だった。
「一端、拠点まで引き上げるぞ!」
「拠点……? ねぇ、この街に何があったの? このままじゃ訳が分らないわ! 」
ハルが混乱した様子で叫ぶ。今までかなり感情を抑えていたらしい。それが事情を知ってるらしきガルドと出会って爆発したのだろう。
先程まではヴァイアスの治療をしていたから聞くに聞けなかったようだ。
ヴァイアスをちらりと見ると、大分体調が回復していたようでほっとした。私の方を見て、まだ倒れてたまるか、と言わんばかりにひと鳴きした。
それに私は頷く。ガルドの肩の上で。
……締まらないな。色々と。
「説明は後だ!」
ガルドがハルにそう言うと足に力を込め、塀の上へと勢いよくジャンプした。
その重量が否応なしに私にも掛かり、腹が痛かった。朝の木の実、吐くかもしれない……。
その後にハルも……優矢も続いた。
ヴァイアスも体調が悪いにも関わらず、塀の上に飛び乗ってみせた。
……身体能力……どうなってるんだ……。
頭がぐわんぐわんと揺れる中。
忍者さながらに屋根の上を走る彼ら彼女らを見て、とうとう私は気絶した。
***
目を覚ますと、古びた木目が目に入った。
……知らない天井、というか、ちゃんとした天井自体を久しぶりに見たな。
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