第13話 来訪者は突然に

 え〜と、それではここまでのおさらいをしたいと思う。

 まず、俺が転生したこの世界での家族について……からかな。


  父の名はジェイド。

 元カルソニア王国の騎士団所属で、その実力はトップクラスだったそうな。

 退団の理由はよく知らないが、何でも当時の団長をぶん殴ったから……とかなんとか。

 うちのパパンを怒らすなんてねぇ。

 温厚で有名なのにねぇ(家族内ではね)。


 ちなみに最初はブラ○ド・○ット似のイケメンかと思ってたんだが……

 最近はチョビヒゲを生やし、ブ◯ピからオー○ンド・ブ○ームぽくなっている。

 俺的にはこっちが好みかな。


 次に母について。

 よく出てくるからご存知と思うが、母の名は「マリー」。


 ママンも元カルソニア王国の宮廷魔導師で、やっぱりトップクラスの実力者。

 この若さで上級魔法を極めているという、凄腕も凄腕。

 魔導師を辞めた理由は、団長をぶん殴って片田舎に引っ込むと宣言したパパンに付いて来たから。

 そのまま結婚し、人妻。そして、今は俺の魔法の先生なのであります。

 ママンもこれまた美人でございまして。

 最初、見た目はアン○ェリーナ・ジ○リーそっくりと思っていたが、最近はミラ◯ダ・カ◯のような童顔に……

 可笑しいな、人の顔ってこんなに変わるかな?

 それとも、メイクのせい?

 ただ、変わらないのはそのスタイルであーる。

 ボン・キュッ・ボンのナイスバディは、俺を産んだ後にも関わらず、変化を感じさせないと言うのは、パパン談だ。




 こうして見ると凄いな、ウチの家系って……

 こんな二人から生まれた俺は正にサラブレッドではないか!

 いや、……虎の威を借る狐だったりして……

 あまり調子に乗ると碌な事にならないだろうから自重しよう……


 今更ではあるが、二人の息子であるこの俺が「マーベリック」。


 体こそまだ子供だが、その中身は異世界より転生した、高校二年生のフレッシュDT君。

 五歳児にも関わらず、凄腕魔導師であるママンに「魔法の天才児」と言われ、パパンから騎士団仕込みの剣術指南を受ける。

 普通の五歳児なら絶対ありえんな……

「魔法の天才児」とか、この年ならある意味チートじゃね? とか思うくらいだし。

 いや、意外とこの世界では常識かもしれない。

 生まれつき魔法の才能が豊かで、ちょっと練習したら出来ました〜なんてのは、よくある話なのかもな。


 それにしてもマジであったんだね、異世界転生。

 ラノベとかゲームの話かと思ってたけど……

 まぁ、前の世界に未練があるかと言われれば、そんなにない。


 繰り返す事になるが、前世に絶望していた俺にとって、この世界は最高だ。

 前世は振り返れば後悔の連続、積み重ねだらけ。

 何の選択権も与えられていなかった俺にとって、生きる意味すらほぼ皆無と言った毎日を過ごしてた。

 だけど、この世界では、俺は俺の選択で生きる道を選ぶ事が出来る。

 これが理想の人生とは、今の時点では言い難い。

 言い難いが、これだけは言える。



 人生をやり直す事が出来るなんて夢みたいだ。

 今度こそ後悔しない生き方をしなければ……



 そんな事を考えつつも過ぎて行く毎日。

 夫婦仲の良い両親に愛情をたっぷり注がれる毎日。

 それが六歳も過ぎ、そろそろ七歳になろうかと言うある日に、出来事(イベント)と言うものは突然にやって来た。

 これがテンプレという奴か……


 六歳を過ぎてからは、魔法だけでなく知識の習得も大事だと言われ、座学を始めたのだが。

 その日、俺がいつも通りママンと机に向かってお勉強していた時。


 突然玄関から「ドンドン!」と、激しいノックが聞こえてきたのだ。

 俺の脳裏には、ここ最近訪ねてくる事のない、あの訛りが酷い歯抜けのおっさんの姿が浮かんできた。

 家に来ないだけで村の中を歩いている姿は見掛けるし声も掛けられる。

 まぁ、普通の付き合いだよ。ご近所さんて奴。

 勘違いからのストーカーっぽい行動に移りやすいのがネックなのだろうが、話をするぐらいは問題ない。

 たまに、


「おめさ母ちゃんの作った飯さ食いでぇなぁ」


 と、何かに理由を付けて家に上がり込もうとする態度はどうかと思うが。

 虎視眈々とチャンスを伺っているんだろう。魂胆は見え見えである。


 俺は、きっとそのおっさんでも来たかと思いつつ玄関を開けてみた。

 可愛く愛敬たっぷりの声を添えてな。


「どちら様ですかー?」


 とドアの隙間からソーっと外を見ると……


 ズラーっと並んだ甲冑の群れ。

 その数、約二十人はいただろうか。

 俺は目を疑った。


 何なのだ、この光景は? 夢か?

 この村らしかぬ殺気立った景色は一体なんなのだ?

 目の前に群がるこれは、一体何と言う生き物なのだ?


 初めて見る光景に、俺はややパニクってしまったのだ。


 銀色に輝く甲冑は、馬鹿でかいGが蠢いているようにカチャカチャ音を鳴らしている。

 玄関先から敷地の出口まで、銀色に輝くGに埋め尽くされた光景は、さながら虫が蠢く巣のような光景に見える。

 それを見て驚いた俺は、咄嗟の勢いでドアを閉めた。


 初めて見る甲冑の軍勢に、俺の心臓は鼓動を速める。


 ……何なんだ? あいつら……?


 すると、また「ドンドン!」とノックが……!

 何なんだよ、もう……


 俺は恐る恐るドアを少し開けて隙間を作った。

 そこから外を覗き込むと、視線の先に誰か立っている。

 どうやらそれは、先程の甲冑の連中とは違うようだ。

 視線を少しずつ上にずらしていく。

 ソロリソロリと……

 すると、そこには甲冑と違って、胸当てとナックルガード、膝当て……と言った具合の軽装備。

 腰にはレイピアのような細い剣をぶら下げている。


 顔立ちからして女か? メチャクチャ綺麗なんだけど……

 例えて言うなら、石◯さ◯みか?

 ショートカットをベースにうなじにブロンドの襟足が伸びている。

 あ、これウルフカットって奴か?

 やべぇ。ソソる……


「突然の来訪、失礼する。こちらにジェイド・グランバート殿はご在住か?」


 お? 綺麗な声!!

 ちょっとハスキーだけど声が高い。しかし、それが逆にこの女性の芯の強さを感じさせる。

 何と言うか、信念が籠っているというのかな。

 モテそう、この人……

 ……って。それより何て?


 グランバート? 何それ?

 うちの名字か何かなのか?

 あまり耳馴染みのない名前なんだが……


「えぇっと……?」

「ん? 違ったか?

 ジェイド殿がこちらにいらっしゃると伺ったんだがる……」

「あ、は、はい……えっ……と」


 驚きながら俺が返答に困っていると、奥からママンが顔を覗かせてきた。

 それはあれですか?

 子供が困ってたから? それとも、戻るのが遅くなって心配したから?

 どちらでもいいや、出来る事なら早めが良かったぜ。ママン……


「マーブ? お客様?」

「あ、うん……パパに……らしいんだけど」

「ジェイドに?」


 と、俺からドアノブを奪って、ママンは玄関を全開にしてしまった。

 そこで、女とママンの視線が重なる。

 これは何だ。

 ミラ◯ダVS石◯さ◯み?

 重なった視線から火花が出たらゴングだ!



 ……な訳ないですよね……


「あら、あなた……」

「お久しぶりです。マリー特級導師」


 女はママンを見ると、深々と頭を下げた。

 ママンもちょっと眉間に皺が寄り「あら、困ったわ」って顔になってる。

 いやいや、待ってよ。

 特級導師? 何だ、その如何にも位の高そうな名称。

 それって、宮廷魔導師の位なのか?

 俺の知らない事ばかりだ……

 むしろ知らない方がいいのか?

 ママンは少し気まずいそうな微笑みを見せた。


「……元気そうね、アンジュ」

「導師も、お変わりなく。ところで、そちらは……」


 と、アンジュと呼ばれた女剣士は俺にその視線を変えた。


「あぁ、息子よ。マーベリックって言うの。ほら、ご挨拶は?」

「あ、こ、こんにちは」


 俺はアンジュに視線を合わせながらぺこりと頭を下げた。


「聡明そうなお子様ですね。お二人によく似ておいでだ」


 アンジュは俺を見て微笑んだ。

 すげー、笑うと超綺麗!

 透き通るような青い目を見ていると、思わず惹き込まれそうになる……


 正直、惚れそう……


「ところで、ジェイド殿は?」

「えぇ、ごめんなさいね。今は留守にしているの」

「どちらへ? 鍛錬か何か、それか剣術の指南でしょうか?」


 アンジュは畳み掛けるようにママンに質問を連ねる。

 騎士団にいた頃のパパンを知っていれば当然と思われるようなフレーズが出てくるが、ママンの答えはアンジュを困惑させるだろう。

 だって……


「えぇ、畑にね」


 ママンがにっこり笑って答えると、アンジュの表情が固まった。

 と同時に「はぁぁ?」と言った顔で口をポカーンと開けている。

 思っていた答えと違ったようで、気がすっぽり抜けたようだ。


「は、畑ぇ?」


 素っ頓狂な声をアンジュが上げると、それを聞いていた後ろのゴ……

 甲冑の兵士達はザワザワしだした。


「あのジェイドが畑……?」

「カルソニア一の剣の使い手と言われていたんだぞ」

「剣の鍛錬の間違いじゃないのか?」

「誰だ? 国境沿いの村で警備員してるって言ったのは!」

「女の尻を追っかけ回していると聞いたが……」


 なんか、ろくでもない噂ばかりが流れているようだが……

 一体何したんだろう、うちのパパンは?

 アンジュは暫く惚けていたが、すぐに気を取り直し、ママンに聞いてきた。


「そ、それはともかく、いつお戻りに⁉︎」


 それはそれは凄い勢いだった。

 今にも噛みつかんとするその勢いに、ママンも少し後ずさりしていたのを、俺は見逃さなかった。

 ママンにも怖いものがあったか……


 て事は、ママン、ビビってる……

 子供ながらに、その光景には恐怖を感じる。


「えぇっと……そろそろ……かな?」

「では、待たせて頂いても……」


「その必要はなーい!」


 群がる甲冑共の奥から、その声は放たれた。

 視線が一斉にそこへ集まる。


 甲冑の兵士の最後尾。

 そこには土に汚れた腕で、鍬を抱えた男……


 我らがパパンが、不敵な笑みを浮かべて立っていた。

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