異世界家族計画
としくん
第1話 プロローグ
退屈だぁ……
人生って、こんなに退屈なものなのか?
学校の屋上の片隅で、大の字になって寝転んでいる俺は、雲ひとつない青空を見上げて、そんな事を考えていた。
どうしてそんな事を考えているかと言うと、高校二年生でありながら、ついに人生の崖っぷちに立ってしまったと言う結論に至ったからだ。
思い返してみれば……
県下一の進学率を誇るこの学校に入る為に、小学一年生から塾通い。
中学一年生の時には高校レベルの勉強を強いられる毎日。
予習に予習を重ねた上で、いざこの高校の受験問題を見たら、思いの外スラスラ解けてしまったせいで、アッサリ受験突破……
聞く者にしてみれば、この上ない順風満帆な滑り出し。
ところが、これが違った。
一応俺なりに高い志を持って入学したこの高校だが、受ける授業の内容としては、高い次元にあるのだと思う。
しかし、俺にとっては中学生の時点で既にクリアしていたレベルであり、幾度と無く反復されてきた内容でもある。
はっきり言えば、面白くも何ともない。
そんな訳で、入学早々の授業を欠伸混じりで聞いていたのを教師に見られたから始末が悪い。
その授業の担当教師は学校内でもタチが悪い事で有名で、俺は直ぐに名指しで叱責された。
要するに、目を付けられた訳だ。
黒板に書かれた問題を解けと、禿げ頭バーコードの落ち武者がスーツを来たような教師に言われ、その問題をあっさり解いてそいつよりも分かりやすい解説をしたら、クラスからは賞賛の拍手。
禿げ上がった頭皮まで真っ赤になった教師が、直ぐに進路指導室に来いと俺を呼び出し、言われのない事を偉そうにツラツラと並べる落ち武者先生に頭来て殴り飛ばした。
そうすると両親が呼び出され、教師共は支離滅裂な理由を叩きつけ、俺はあっという間に問題児扱いだ。
教師に歯向かい、問題児というレッテルを貼られ、そんな俺から徐々に友達は去り、気がつけば高校二年生にして早くも『ぼっち』。
これが、俺が言う所の人生の崖っぷち。
人生ってのは、祝福と共に生まれ、生を全うした後は哀愁と共に棺に納められ、惜しまれながら天に召されるっていうシナリオに基づいて、この世界に散りばめられている物ではないのか?
なのに、俺は早くも人生に絶賛絶望中。
心に浮かぶのは、『こうじゃなかったよな』っていう悲壮感。
何でこんなに虚しさを感じるのだろうか悲壮感か?
これが俺の人生なのだろうか?
反抗期とかでもないし、恋に苦しいとか、部活が厳しいとか、親が仲悪いとかいう訳でもない。
何処にでもいる、俺と言う人間。
普通に学校に通って、友達とはしゃいで、売店でパンでも買って、それを頬張りながら授業を受けるっていう、ありきたりな日常生活。
そんな毎日を想像していた筈なのに……
それが今。
生まれた事を後悔している……
いやいや、そんな事言ってたら母ちゃんを泣かせちまう。
若干十七歳にして親を泣かせるなんて十字架、背負いたくは無いぜ。
あ、もう泣かせたけど……
……って。
やめよう、ネガティブ思考!
始めよう、ポジティブ宣言!
それにしても、空はいいなぁ。
あの雲なんて、ただ浮かんでるだけだろ?
何も考えずにプカプカ浮いてるのって、気持ち良いんだろうなぁ。
あ、でも何処かで雨振らさないと、とか考えるのかな?
考えないか!
雲、良いねぇ!
俺は生まれ変わったら雲になろう!
そして、世界中を旅して空から色んな国を見て回ろう!
そうしよう! 是が非でもそうしたい!
キーンコーンカーンコーン……
あーらら。
チャイムが鳴っちまった……
今日もとうとう授業出なかったな。
まぁ、いいや。聞いてても面白くないし……
またどうせ教師と喧嘩になるし。
それより、早く帰ろう!
帰って、犬の散歩に行こう!
俺のカラカラに乾いた心を潤してくれるのは、愛犬のポチだけだ!
そう思ったら、いても立ってもいられなくなった俺は、枕代わりに頭の下に置いてたカバンを持って、早々に屋上から退場!
向かう先は駅である!
やると決めてからとる俺の行動は、メチャクチャ速い!
だって、目的がはっきりしてるんだから!
思い立ったら吉日だぜ、このヤロウ!
全力で駆け出して、全力で靴箱に上履きを投げ込んで!
あ! 今、誰かとすれ違った!
けど、まぁいいや。
どうせ話しないし。
疎まれるだけだし、面倒くさいし!
俺はササっと靴を履き替えると、ダッシュで玄関から駆け出した!
さぁ、校門をくぐって!
勢いよく校門を飛び出し、目的地であるバス停に急いぐ!
チャイムが鳴ってからすぐのバスなら、駅に早く着くから早く帰れる!
そう思って、夢中で走った!
……でも、それが良くなかった。
人間、何かに夢中になると、視野が狭くなるものだ。
俺もこの方程式に乗っ取り、視野には目の前に迫るバス停しか入っていなかった。
だから……と言うと言い訳になるが……
…………脇から出てくる車に気付かなくてさ。
ドン! て音がして、初めて音の方を向いたんだ。
俺の左脇腹に突き刺さるように食い込んだ車の鼻っ面。
衝撃でボキボキ音を立てる俺のアバラと背骨。
ミチミチ、ブチリと、筋が切れる音も聞こえてきた。
ぶつかってきた車のフロントガラスの向こうでは、ハンドル握ったオバちゃんが口をアングリ開けて目をパチクリさせている。
おいおい、そんなしけた顔見せんなよ、目覚め悪いだろ?
って、あれ?
これって事故だよな?
多分、俺は重傷だよな?
下手したらもう目覚めないってオチがあったりして?
だって、俺。轢かれた訳だし。
俺は宙を弧を描くように舞って、地面に落ちた。
これで着地が決まれば、体操なんかじゃ高得点だろうが、生憎これは事故だ。
首が痛い。頭が痛い。背中も痛い。全身動かない。
口の中にはジワリと鉄の味が広がる。
目の前が黒くなってきた。
もしかして、これが死ぬって事?
……ドンマイだぜ……お、お……れ……
そして、俺の意識はプツリと切れた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます