恋する兎は何見て跳ねる?

狐付き

プロローグ 学生の島

 東京都第24埋立地。通称”第7実験島”、午後4時。1艘のフェリーが到着した。

 乗っているのは今年から中学、または高校に上がる男女だ。

 船内には乗組員以外に成年がおらず、全て生徒だけである。


 フェリーが接舷し、階段が陸とデッキを結ぶと少年たちはぞろぞろと降りていく。

 その先にいるのは先輩方であろうか、少女ばかりが立っている。


「うひょーっ、綺麗なお姉さま方がお迎えしてくれてるぜ!」


 1人の軽そうな少年が今どき使わぬような口調で興奮している。

 だがそんなことを言っていられるのも今のうちだけだ。全員が上陸した途端、男子は全て何者かに背後から押し倒され、顔をコンクリートの地面に押し付けられた。

 逃げようにも腕を極められ、後頭部に膝を乗せられ身動きが取れない状態である。

 同乗していた女子たちは、その光景を見て怯え縮こまっている。


「ようこそ、煉獄パラダイスへ!」


 猫耳を付けた黄色いブレザーの少女が平伏す男子たちを見下しながら叫ぶ。



「くそっ……」


 一体何事かと身を捩り、寄岩金時よりいわかなとは目線を周囲へ向けた。


 周りの男子は皆、金時と同じように潰されている。そしてそれを行っているのは全て女子だ。

 彼女らはいくつかの制服と、それぞれ異なる獣耳を装着していた。

 犬耳、猫耳、兎耳等、同じ制服でも別のものを付けていたりする。

 もう少しよく見ようとしたとき、後頭部を押し付けている膝に力が加わった。


「おい動くんじゃねえよ。腕へし折んぞ」


 少女の声が聞こえた。これだけ極められている腕を折るのは子供でもたやすい。金時は黙って従うしかできなかった。


「ふん……っと、あんたかわいい顔してんじゃないか。どうだ? あたしの男になっておかないか?」

「そ、それはどういう……」

「おい何勝手に喋ってんだ!」


 リーダー格なのであろうか、男子を捕らえていない腕を組んで仁王立ちしている黄色い制服の猫耳女子が怒鳴りつけると、金時を極めている女子は肩をすくめた。


「おお恐い恐い。あんたも黙っててくれよ。あたしが怒られちまう」


 少女の言葉に金時は無言で返した。


「ふっ、ふざけんなクソ女ぁ!」


 一人のいかつい少年が叫んだ。


「おぅおぅ、威勢のいいのがいるじゃないか」


 この場を仕切っているであろう黄色の制服の猫耳少女はにやりと笑い、先ほど叫んだ少年を極めている少女へ視線を向けた。すると極めている少女は無言で頷く。


 ベキッ


「ぐ……あああああああああぁぁぁっ!!」


 少女は少年の腕を何の躊躇もなくへし折った。激痛に喚き散らす少年の絶叫と波の音だけが周囲に響き渡る。

 そして間もなく二人の少女が叫ぶ少年の傍へ立ち、つま先で腹部を蹴りつける。


「がっ……ぁ」


 そこで少年は気を失い、波止場の隅に転がされた。



「さて、やかましいのが消えたところでてめぇらにがある」


 初っ端から話ではなく命令ときた。

 有無を言わせぬ、強制的に従わせようという態度が伺える。


「この島では女がルールだ! 男は奴隷! 黙って従え! 以上だ!」


 先ほどのいかつい少年は見せしめだったのだろう。逆らったらこういう目にあうぞという威嚇。当然誰も逆らえず、体を脱力させる。

 その姿に満足したのか、黄色い制服の猫耳を筆頭に、潰されていた男子を見下していた女子たちは踵を返し去っていく。

 彼女らが見えなくなったところで、男子の関節を極めていた女子たちが次々と手を放し、男子を解放して後を追うように行ってしまう。


「っと撤退だ。あたしは芍科しゃっか女子のサナ。なんかあったらウチに来な。可愛がってやるよ」


 金時を極めていた少女はウインクをし、他の女子たちと共に去って行った。


 腕を折られた少年はフェリーに乗せられ、そのまま二度と戻ることはなかった。

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