幕間 残りのピース
お知らせ
次の更新から次章に移る訳ですが、次章の1話目を更新した後ぐらいに近況ノートを上げると思います。そちらを読む読まないは個人の自由ですが、読まないで問題発生した場合、バイブルは謝罪も対応もしませんので覚えておいてください。
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「途中報告は以上です」
「ありがとう、下がって少し休んでくれ」
ペーシア王国の城にある一室を臨時の会議室にしている場所でゼンガー王子が兵から被害、住人の様子の報告を受けて兵を下がらせた。
思ったより、被害も混乱もないらしい報告を受けたゼンガーは安堵の溜息を1つ吐くと周りを見渡す。
「という状況は報告の通りのようです」
「ああ、だいたいはこちらが把握している通りだと分かり、とりあえずは良かった……という事でいいのか? ユウイチ?」
「そうだな、家の奴等、ホーラ達の頑張りがあってこそだが、住人達の意識改革が思ったより進んでた様子からアリア達の頑張った結果が出て何よりだ」
ホーエンの言葉に雄一は頷いてみせ、ホーラ達、そしてアリア達の頑張りを誇るように微笑みを浮かべる。
雄一に褒められている内訳に自分がいる事を理解するポプリがアピールするように雄一に手を振って見せながら言ってくる。
「私、頑張りましたよ!」
「そうだな、そちらの戦況もおおよそ把握してたから分かってる。炎に意思を持たせる魔法も視てたぞ? 腕を上げたな」
そう雄一に素直に褒められて虚を突かれたポプリは頬に朱を入れて「えっと、まだ単純な思考しかできませんし、まだまだです……」と珍しくも謙虚なセリフを洩らす。
そんなポプリの頑張りを自分の目、アグートから聞かされているホーエンに「良かったな?」と言われて恥ずかしさから更に赤面するポプリ。
女王をしている間、こまめにやり取りをしてて交流する機会が多かったミレーヌにとって素の感情を見せない少女という評価だったポプリの素の表情に微笑ましさを感じつつも苦笑いを浮かべる。
「ポプリ女王達の頑張りもあって、負傷者は多数出ましたが死者が出なかったのが幸いでした。その治療をする為にナイファ、パラメキの両国から人を派遣する手はずを取っています」
「ありがとうございます。騎士団の事だけでなく、ここまでお世話になってどう感謝を返せばいいかも分かりませんが……」
「いや、被害が大きくなったのは俺の子達の我儘が一因になっている。これは俺、親として負うべき責務だから感謝を感じる必要はない」
そう言う雄一は、ナイファ、パラメキの両国には自分がなんらかの方法で償いをすると明言する。
それにゼンガーはブレもせず毅然とする雄一の行動に感嘆に震えながらも愚痴が漏れる。
「ウチの父にユウイチ様の爪の垢を飲ませたい……」
「うふふっ、あの方も娘への愛はそう負けてませんよ?」
慰めになるか分からないがフォローするミレーヌ。
ジンガー王がそうなっている原因が我が子、ゼクラバース、ゼクスと結婚したせいなので少し可哀想になった為である。
窓際に座り、眺めていたホーエンが雄一に問いかける。
「それでどうする? 新設して間の無く、傷ついたペーシア王国の兵では被害報告はできても抜本的な問題解決させるノウハウも体力も期待できんだろう?」
「ああ、その辺りはリホウに任せてある。ウチのコミュニティからも人を出すが……エイビスにも協力を要請した……嬉々して了承されて、準備完了されてた人員を派遣開始したようだ、パラメキ国とペーシア王国の国境から……」
初めて弱った風に、頭が痛そうにする苦悩する雄一にその場にいる者達から同情的な視線が集中する。
先程の報告の中にあった事だが、どこぞの商会が絡んだ救助隊が先程、到着したというのがエイビスに手配された者達であった。
ちなみに、アリア達が来る前にやってきてた商人達の半数以上がエイビスの子飼いである。
魂が抜けそうな溜息を吐く雄一にホーエンが難しい顔をして再び、問いかける。
「ユウイチ、この大陸の中核を担う王族が一同に集まっている良い機会だ。お前が愛する双子の娘に連なる話、俺にしている内容は勿論、今回、気付いた事を話す必要があるのではないか? 今回、見せた力の片鱗ですら放置するのはどうかと思える」
ホーエンの言葉で一斉に雄一に視線が集中する。
雄一は黙って目を瞑り、踏ん切りを付けるように肩を上げて下ろしながら吐息を洩らす。
そして、目を開くと覚悟を決めて話し始める。
「もう気付いている者もいるだろうが、俺は異世界人だ。女神、シホーヌにトトランタ、この世界に導かれた」
ホーエンを除いた3人が強い驚きをみせるのでホーエンが首を傾げてミレーヌとポプリに話しかける。
「ゼンガーはともかく、2人はユウイチが異世界人と知ってたのではないのか?」
「いえ……シホーヌさんが女神と良く言ってましたが本当だと思ってなかったので……」
ミレーヌの言葉にポプリが、ウンウン、と頷いてみせるのを雄一とホーエンが苦笑いを浮かべる。
「気持ちは分かるがそこを疑われると話が進まない。そして、こちらの世界に来た時にシホーヌに預けられたのが双子の幼女、それがアリアとレイアだ。2人も俺とは別の世界の子達のようだ」
「アリアとレイアもですか……それは気付きませんでした」
ポプリは一緒に生活していた時間を遡るようにして思い出しているようだが、思い当たる節がないようだ。
「アリア達は俺のように分かり易い力はないからな。せいぜい、アリアが心の色から考えている事が読める。これは先天性でしかもシホーヌに能力を制限されてるらしいから本当はもっとはっきり分かるようだがな」
そちらの事には心当たりがあるようでポプリは納得したように頷いていた。
「アリア達にも力があった。それを知ったのは今回の出来事があったからだが、その片鱗だけで空間を斬り裂く力があった」
「少し、待ってください。そんな危険な力、制御できているのですか? 片鱗と言う事はもっとすごい事が出来るという事では?」
ゼンガーが身を乗り出すように言ってくるのを雄一は黙って受け止め、我に返ったゼンガーが話を止めた事に謝罪して席に着く。
「いや、ゼンガー王子の懸念はもっともだ。確かに危険だが、この力はアリア達自身が使える力じゃない。簡単言うならアリア達は武器なんだ。しかも、その力を扱うには特殊な才能がいる。そして、今回の事で少なくともそれができる者が2人いる事が分かった」
雄一の言葉に生唾を飲み込み、見守るミレーヌ達を見つめて躊躇いが見える雄一の肩に手を置くホーエン。
「1人は今、アリア達と一緒に行動しているヒースという子供だ。もしかしたら、父親のノースランドも可能性はあるが除外する。最後の1人が厄介な存在だ。『ホウライ』だ。こいつが剣の巫女のアリアと鞘の巫女のレイアのうち、アリアを強く求めている事から、まず間違いないだろう」
「『ホウライ』!? あの『ホウライの予言』の、あの『ホウライ』ですか!?」
目を剥きだすゼンガーに雄一が頷いてみせると予想以上の話の大きさに頭をかかえるゼンガー。
ポプリも驚いてはいたが、隣にいるミレーヌが、ブツブツと言っているのに気付いて目を向けた瞬間、ミレーヌは弾かれるように顔を上げる。
「ユウイチ様! 2人が巫女と仰いましたか!?」
「ああ、それがどうかしたか?」
ミレーヌは、悔しそうに下唇を噛み締める。
「何か知っているのか?」
「はい……パラメキ国との戦争時にスゥが光文字で皆に指示を出した話は覚えておられるでしょうか?」
「それは俺も聞いた事があるな。確か、銅像や石碑がそこらに作られてるのを見た事がある」
ミレーヌの問いかけにホーエンが思い出したかのように相槌を打つ。
「その時、昏睡状態だったレイアが突然、起きて指示した内容をスゥが光文字で書いたのです」
一同がその事を聞かされて、驚いた。取り分け、その中でも雄一の驚きようは大きい。
「まるで別人、いえ、成人したレイアの精神と入れ替わったように話していました。それについて、アリアは『お願い、この人が言う事を信じてあげて。上手く説明できないけど、この人もレイア』と言ってました」
ミレーヌがそう説明するのを聞いている雄一が考え込み始める。
更に気になる事と前置きする事でミレーヌが告げたレイアの言葉。
「今までになく、そして、今回にある彼を信じて欲しい。姉さんは言わなくても、信じているのは分かる。でも、それを他人に押し売りするほどまでは考えてないはず。誰、構わずとは言わない。この馬鹿な私、レイアにそれを理解させてあげて。今までにない理想的な今を、今後、訪れる事のないであろう未来の為に……」
それを聞いた雄一が音を鳴らして椅子から立ち上がるのにビクっとするミレーヌが謝罪してくる。
「ユウイチ様、すいません。一過性のストレスからくるモノか、ただの偶然かもしれないと思いつつ、スゥにそれとなくレイアの様子は伺っていたのですが何もないようだったので、報告する機会を作るのは、と思いまして……」
「いや、経過を見ててくれたのだから責める言葉なんてない……むしろ、照れからミレーヌから逃げ回ってた俺に責任がある!」
そう、雄一がミレーヌから逃げずにお茶程度の付き合いをしていれば、確信のない話であっても雄一の興味をひく内容、双子の娘の話をミレーヌであれば必ずしたであろう。
だが、報告という形になれば、緊急性もなく確証もない話を上げるのは違う話になるのでミレーヌに過失はないと雄一は判断する。
同じように難しい顔で考えていたポプリも短く声を上げる。
「あっ、もしかして、あの時のあの人達が言ってた『運命の導き手』というのは……」
「何か知っているのか? ポプリ」
雄一の余りの真剣さに飲まれ気味ではあったがポプリが頷いてみせる。
ポプリの説明を聞かされた雄一が体をフルフルと震わせ、憤りを目の前にある机に拳をぶつけて粉砕させる。
それに驚くミレーヌ達を余所にホーエンが溜息を吐く。
「してやられたな? 女神と水の精霊からしか情報の糸口がないと思い込んだ俺達の盲点だった。まさか、身近の者の情報を集めれば欲しかった残りのピースが見つかるとはな?」
「いや……いや、まだだ! 今からでも間に合うはずだ……」
そう捻り出すように言葉を洩らす雄一とホーエンが弾かれるように同じ方向に顔を向け、ホーエンは沈痛そうに目を瞑り、雄一は「クソッタレ!」と悪態を吐く。
「『ホウライ』がこちらの世界に干渉を始めた。もう残された時間は、そう多くはないぞ、ユウイチ?」
ホーエンの言葉に雄一は奥歯を強く噛み締め、拳を震わせた。
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