第285話 着々と継承されているようです

 遂にペーシア王国に到着したアリア達は、お世話になった商隊の人達に頭を下げていた。


「お世話になりました! 同乗させて貰えたので無事に到着しました」

「いやいや、道中に現れたモンスターや獣の大半を倒したのは君達だよ。まったくウチの専属とトレードしたいほどだよ」


 代表でダンテが礼を言うと商隊のリーダーが後ろにいる専属の冒険者を見つめ、悪戯するような顔を見せる。


 それに苦笑する冒険者達であったが、本当の所は肩身が狭い思いをしてるアリア達の気持ちを汲んで仕事を譲ってくれてただけであった。


 勿論、商隊のリーダーも気付いているのでからかってるだけであるのはみんな分かっていた。


 アリア達もそれに気付いていたので後ろにいる冒険者達に黙礼をする。


 商隊のリーダーは、アリア達に向き直ると掌を叩いてみせる。


「本当に大変なのはこれからだ。頑張るんだぞ? これは少ないが餞別代りの今回の仕事料だ」


 そういうと6人の掌に銅貨50枚を配って行く。


 商隊のリーダーの行動に驚いたダンテは首を横に振る。


「ただで馬車に載せて貰っただけでなく、お金まで貰う訳には……」

「ダンテ、そしてお前等も良く聞け」


 ダンテ同様、どう扱ったらいいか困ってたアリア達に商隊のリーダーは見つめる。


「仕事とは雇用した者が満足したかどうかが一番大事なんだ。極端にいえば、何も成せてなくても依頼人が満足すれば仕事完了。まあ、その辺りの線引きが難しいから契約書などがあり、冒険者ギルドが仲介するんだがな」


 一旦、口を閉ざした商隊のリーダーがアリア達1人1人を見つめる。


「お前達は今日からここで自活する。もうお手伝いではない。受け取れる報酬は受け取る。それが大人だ。変な遠慮はお前達の次の者が苦労すると忘れるな」


 言い含めるように言う商隊のリーダーの言葉に気圧されるように頷くアリア達。


 異国の地にやってきて頼るモノがほとんどない状態である事を今更ながら感じ身が引き締まる。


 少しは気合いが入ったのを感じ取った商隊のリーダーは手前に居るダンテの頭をワシャワシャと撫でると、もう一度「頑張れよ」というと手を振って市場の方へと去って行った。



 去って行く商隊のリーダーを見送ったダンテは気合いを入れるようにヨシと拳を握り、振り返ると眉を寄せる。


 1人、凄まじい不安を感じさせる行動をする者がいた。


 掌の銅貨と屋台の串焼きを交互に見つめ、徐々に荒い息になっていくピンク頭の少女の存在であった。


 串焼きの屋台に意識を割いた瞬間を見逃さずに掌の上にあった銅貨を略奪する。


「ああっ! ミュウの串焼き!!」


 既にミュウの中では銅貨は串焼きに変換されていたようだ。


 手を伸ばしてくるミュウから銅貨を守るように背を向けるダンテが声を大きくして言う。


「もう無計画に使える状態じゃないんだ! ちゃんと計画的に使わないといけないの分かってる?」

「大丈夫、ミュウ、ちゃんと考えてる」


 キリッとした眉を寄せて、真剣に悩んでます、と表現するように眉間に皺を作ってみせる。


 呆れるダンテが必死にミュウから銅貨を守っているとアリアとスゥがミュウを抑えにかかる。


「ミュウ、嘘バレバレ」

「さっき、ミュウ、自分で「ああっ! ミュウの串焼き!!」って叫んだの忘れてるの?」

「スゥ、それ幻聴」


 無駄な足掻きを見せるが呆れた顔をしたレイアに言われて黙らされる。


「その串焼き食って明日から食う物ない状態になってもいいのか?」

「がぅ……それ、困る」


 おとなしくなったミュウを解放するアリアとスゥは肩を大きく落として溜息を吐く。


 その様子に、あははっ、と苦笑するヒースがダンテに銅貨を手渡しながら質問する。


「とりあえず、これからどうする? あっ、パーティで稼いだお金はダンテが預かって?」

「ええっ? 僕が!?」


 そう2人が騒いでるのを聞いたアリア達も頷くとダンテに手渡してくる。


「こういうのはダンテが一番向いてる。ミュウほど酷くないけど、私達も結構誘惑に弱い」


 素直な自己分析をするアリアが若干不服そうであるが認めてくる。


 スゥは単純に一番適性があると思っているだけだが、レイアは自分を信用できないと感じて乾いた笑いを浮かべる。


 渋々、カバンから違う小袋を取り出すと銅貨を仕舞う。


「分かったよ。何か必要な物があったら言ってね?」

「串焼きっ!!」


 条件反射で叫んだミュウの頭をレイアが良い音を鳴らして叩いた。





 ダンテの考えでまずは冒険者ギルドに挨拶とパーティ申請をしに行こうという話になった。


 アリア達は北川コミュニティ―の名が使えないので無所属のパーティとして申請する必要がある。


 そうしないと、例えば、家の家事をアリアに任せて、残る5人で依頼をクリアした場合、アリアに貢献度が加算されない。


 報酬は参加した者達だけだが、貢献度だけは等しく加算される。


 冒険者ギルドの仕事だけが仕事ではないのでパーティを正式に組んでる者だけに適用される。


「という訳で、パーティ申請したらミュウに遠出して貰って狩りに行って貰う事も可能になるんだ。あっ、漁でもいいけどね?」

「任せろ、大物仕留める!」


 鼻息が荒いミュウの心は既に山の中か、大海原に行っているようであった。


 そんなミュウに困った笑いを浮かべるアリア達、人に道を聞きながら冒険者ギルドに到着する。


 ダンガは街なのにペーシア王国の王都にある冒険者ギルドより規模が大きく、目の前にあるこじんまりとする冒険者ギルドを眺めるアリア達は微妙そうな顔を向け合う。


「ダンガとザガンが普通じゃないとは聞いてたけど、これは予想以上に小さいの」

「そうだね……僕もダンガの見た時はザガンいい勝負する大きさなのに綺麗で驚いてたけど、ここの冒険者ギルドは……ちょっとね……」

「潰れたりしねぇーよな?」


 スゥとヒースが何とかしてオブラートを包もうと努力したがあっさり空気が読めないレイアがみんなの言葉を代弁する。


 はぁ、と溜息を吐くダンテは振り返ってアリア達に言う。


「四の五言っても始まらないよ。僕達は今日から誕生祭までここで頑張るんだから?」


 アリア達も諦めの溜息を吐くと前を歩くダンテの背を追うように中に入って行った。




 中に入ると煙草の匂いと酒の匂いが充満しており、アリア達は鼻と口を覆うようにして顔を顰める。


 ミュウなどは激しくクシャミをし出し、涙目になる始末であった。


「ううっ、外からも臭いのは分かってた。でも予想以上、ミュウ泣きたい」

「ミュウ、我慢してなるべく早めに済ませるから?」


 そう言うダンテが辺りをキョロキョロして受付カウンターを捜すと薄ら笑いを浮かべた痩せ気味のモヒカン頭の男と頭が悪そうな大柄というより、デブがやってくる。


「おうおう! ここはガキンチョが来る場所じゃないぜ?」

「……じゃないぜ??」


 モヒカンの言葉を真似ようと思ったようだが、最後しか覚えてなかったらしいデブは相当な馬鹿のようだ。


 そんな典型的な馬鹿2人をポケーとした表情で眺めるアリア達はお互いの顔を見合わせて指を指し合う。


「なぁなぁアリア、これってアレじゃねぇ? 昔はダンガでもアイツがあったって言ってた?」

「多分、ソレ。名前が思い出せないけど?」

「そんな化石のような人がいたの、ちょっと感激なの!」


 ビビるどころかある意味、アイドル、珍獣が現れたかのような扱いをされるモヒカンはプルプル震える。


 それを見るダンテが申し訳なさそう見つめながらアリア達を諭す。


「『新人イジメ』だよ。せめて、困った顔ぐらいしてあげないと相手の自尊心が傷つくんだから?」

「でも荒くれ者が多かったザガンでもベテラン冒険者が酒を飲みながら「俺が若かった時にはな~」と管を巻いて騒ぐ昔話レベルだよ? さすがに珍しいと思うよ?」


 ダンテとヒースの言葉がトドメになったらしく、キレたモヒカンが剣を抜いて叫ぶ。


「このガキ共! ぶっ殺してやる!!」


 剣の構えもなってないモヒカンを少しも怖がった素振りを見せないアリア達が見つめ、それどころか先程の話の続きとばかりに楽しげに話していた。


「こういう時はどうしろって言ってたっけ? 遭遇すると思ってなかったから覚えてないんだけどよぉ?」

「えーと、なんだったっけ?」


 レイアに質問されたスゥであったがスゥも興味がなかったから思い出すのを苦労してるとミュウばボソッと呟く。


「ワンパン」

「それだっ!」


 放置されたモヒカンは顔を真っ赤にして「ナメんなぁ!!」と叫ぶと剣を振り下ろしてくる。


 振り下ろす剣より後から動いたのにモヒカンの懐に入ったレイアがモヒカンの顔を殴り飛ばして気絶させる。


 それを見て、モヒカンの様子を確認したアリアが注意する。


「ちゃんと手加減する。結構ギリギリ」

「分かったよっ!」


 一応、生きてると分かればいい、とばかりに治療する事を放棄する。


 もう1人のデブに接近したレイアが鳩尾に拳を打ち放つ。


 放った拳が深くめり込むがデブは苦しそうな顔をしない。


「お前の拳、痛くない。おで、倒せるのアニキだけ」

「痛くない? 嘘こけ、モロに鳩尾に入ってるからっ!」


 嘘じゃないとばかりに張り手をするつもりなのか振り被るデブを見つめるレイアの瞳が細まる。


「そうかい。なら、どこまでやせ我慢できるか見てやる」


 そう呟いた時、レイアと同じく気を扱えるヒースが慌てる。


「レイア、さすがにそれはマズイ!」

「ちゃんと手加減する」


 そういう意味じゃない! と叫ぶヒース。


 ヒースの心配は杞憂だとばかりに口の端を上げるレイアは短く息を吸うと力強い言葉を吐く。



『発勁』



 その言葉と共にレイアの気が一気に強まり、一歩前に突き出すとデブは後方に勢い良く飛ぶと壁にぶつかり突き抜ける。


 遠目でもデブがビクビクしてるのが見えるので息はあるようだ。


「よし、どうだ? 手加減できただろう?」


 ドヤ顔したレイアが振り返るが臭いから早く出たそうにしてるミュウを除くとみんなは同じ顔をしていた。



『やっちゃったよ、レイア』



 であった。


 さすがに何かやらかしたと分かったようだが、何か分かってない。


 そんなレイアを溜息を吐いたダンテが手を引いてカウンターに連れて行く。


 アリア達も溜息を吐きながらダンテを追うように向かうとカウンターの受付嬢が引き攣った顔を向けてくる。


「ど、どういった御用でしょうか?」

「えっと、こちらで活動しますのでパーティ申請をしにきました」


 書類を出しながら受付嬢が言ってくる。


「色々、ご説明する事はありますが、まず最初にしばらくは依頼料天引きさせて頂きます。非はあちらにありますので暴れた事は不問としますが、壊した物の弁償は別になりますのでご了承ください」

「……はい」


 項垂れるように言うダンテを見たヒースが「やっぱりそうなったか……」と呟く。


「えっ?」


 目が点になるレイアは吹っ飛ばしたデブが開けた壁の穴を見つめる。


 そして、もう一度、


「えっ?」


 と拳を見つめるレイアは泣きそうな顔になる。


 これでレイア達のペーシア王国での自活の難易度が跳ね上がる事を意味していた。


 6年前、馬鹿にした雄一と同じ事をして天引き生活がスタートするレイアは気付かぬ内に雄一の模倣を始めていたようであった。

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