第250話 掌の上らしいです
ノースランドの言った通り、おやつ時になると切れ目すらなかった渓谷の壁に亀裂は入り出す。
それを眺めている雄一に入るぞ、と伝えると依頼主が先走るように先頭で歩き始める。
ノースランドの後先を考えているか分からない行動にホーラ達だけでなく、何故か啓太達すら目を白黒させるが雄一は溜息を吐くだけに留めて追いかけた。
中で合流した雄一達は先頭を歩き、殿を啓太達が務め、依頼主であるノースランドを挟む形で落ち着く。
雄一達、いや、ホーラ達3人が主導する形で現れるモンスターを駆除していく。
さすが『精霊の揺り籠』というべきか、レッサードラゴンクラスが雑魚ゴブリンのようにポコポコ出てくる。
ホーラ達が単独でも倒せない事もないが、3人揃ってると手数が違い、たいした時間もかけずに倒していく。
途中の少し拓けた場所で地竜が6匹現れた時は、依頼人のノースランドの気が急いている事を感じていた雄一が巴を一閃させて倒す一面もあったが、それ以外はホーラ達に任せて、『精霊の揺り籠』を攻略していった。
そして、雄一達は出発して2日目の夕方ぐらいの時間帯に19階層から20階層に降りる道の傍にある拓けた場所に着いていた。
「ノースランド、今日は19階層でキャンプを張る。明日の朝一番に最下層に降りる、問題ないか?」
「……ああ、それで構わない。準備を頼む」
雄一にそう言われたノースランドは目を閉じて何かを飲み込むようにすると少し離れた岩に向かい、腰を落ち着けると再び目を閉じて腕組みをする。
2人のやり取りを聞いていたホーラ達はキャンプを張る為に動きだし、啓太達は露骨に雄一達と距離を取った場所へと移動していく。
それを見た雄一がほくそ笑みが浮かぶのを隠すように口許に手で隠す。
初日のキャンプの時も離れていたが今日のような露骨ではなかった。
それを踏まえると……と考える雄一は笑みが引っ込ませると思考の海へと身を浸したしながら、夕食の準備を開始した。
できたスープをカップに入れた雄一は、ホーラ達に残りは気にしなくていいから、あるだけ食って良しと伝え、腕を組んで岩に凭れるように座り続けるノースランドの下へと近づく。
ノースランドにカップを手渡すと「すまん」と呟き、受け取り、迷いもなく口に運ぶ。
雄一も同じように横で腰を落ち着けるとスープを飲み始める。
「すまなかったな。本当は休憩も取らずにすぐに行きたかっただろうが……」
「いや、いい。おおよその流れは理解できていると思う。初日は何故、ケイタとメグミと言ったか? あの者達に戦わせないのだろうと思っていたが、そういう事なのだろう?」
そう言ってくるノースランドに雄一は頷いてみせる。
啓太達に考える材料と時間を与えるのが雄一の狙いであった。
確かにホーラ達であれば啓太達が勝つ未来を想像するのは難しくはない。だが、それはホーラ達だけを相手にした場合に限る。
その為にホーラ達の実力を敢えて見せる事で、希望的観測を打ち砕いておいた。何の障害にもならない可能性を考える事を。
雄一を攻撃しようとしてホーラ達が黙って指を咥えて見ててくれると思う程には馬鹿ではないと雄一は啓太を評価していた。
そんなホーラ達を掻い潜って雄一を狙う方法を考えていくと、どうしても選択肢が狭まる。
つまり、啓太達が取れる手段が限定されていき、雄一の隙が潰されるのが狙いであった。
「当初、あの者達は息子達に私の暗殺目的で雇われたと疑った時期があった。まあ、正確に言うなら残念な話、息子達は本当に『精霊の揺り籠』の攻略と共に依頼したようだ。断れたようだがな」
また一口スープを飲んだノースランドが雄一を横目で見つめて続ける。
「あの者達は、私がお前という存在を知る前から雇われていた。順番がちぐはぐだが、私には、お前が目的であの者達は息子の依頼を受けたように感じている。頭がおかしいと言われるかもしれんが、心当たりはないか?」
「直感というヤツなのか? さすが元、ザガン最強冒険者として名を馳せた事があるな、と言わせて貰おう。俺もあくまで推測の域は出ないが、ノースランドと同じように順番がちぐはぐなのに、と思いながらも否定できない」
雄一はこの時点よりも前、啓太達と出会った時から、ずっと引っかかって牽制と注意を向けていた。
啓太達の事ではっきり分かってる事は、ジャスミンと名乗った依子が得たチートと同じ経路で得ているという事だけだ。
そのチートを与えているのがペーシア王国の地盤沈下を予言したモノと同じであれば、と考えている。
もし関係しているというなら繋がる。
だが、あのペーシア王国の一件を雄一達が治める事に成功したが、失敗した場合はどうしたのだろう。
いや、失敗が本ルートだったのだろう、と雄一は考える。
ジャスミンにさせていた事は、どのように作用させるのかはホーエンが調べている最中だが、世界の壁、次元の壁を超える為だったようだ。
だから、こちらの世界に来るのが目的だったのは分かる。
それ以外の理由があるはずだが、それについては憶測の域もでないものばかりだ。
「その心当たりは?」
ノースランドに聞かれた雄一は隠す気がなかったので答える。
「知ってるかどうか知らんが、『ホウライの予言』」
「あの凶事を運ぶと言われるアレか、お前の相手は神という事になるな? やってやれなそうな所が末恐ろしいな」
ノースランドは、雄一の言葉を疑いもせずに受け止め、自分より大変なのがいたと笑みを浮かべて雄一の胸板をノックするように叩く。
それに肩を竦めて流す雄一は、自分の予想通りで、『ホウライ』だとするなら舐められたモノだと眉間に皺が寄る。
孫悟空のように掌の上で弄んでるつもりなら、手痛いしっぺ返しがある事をしっかりと伝えるつもりだ。
勿論、3倍返しは最低保証だ。
「『ホウライ』お前の筋書き通りには絶対にいかせないからな!」
▼
次の日の早朝、3日目の朝を迎えると雄一達は準備を整えると最下層へと降りていく。
降りるとだだっ広いフロアで中央奥に黄色の宝玉、おそらく土の宝玉を発見するとノースランドは夢遊病者のようにふらつきながら近寄っていく。
土の宝玉を見つめるノースランドが叫ぶ。
「ノ――ン!」
ノースランドが叫ぶ先にある土の宝玉から淡い光が漏れたと思ったら白いローブを纏った少女の姿が現れる。
その薄らと透ける少女を見つめて凝視するノースランドが急に駆け出す。
「待て! 焦るな……ちっ、聞こえてないな!」
ずっと冷静そうにはしてたが、常に気が逸る様子がチラホラさせていたノースランドが耐えれずに飛び出すのは当然な結果ではあった。
雄一は土の宝玉がある方向ではない方向から、プレッシャーを感じ取っていた。
放ってる位置とノースランドから聞いた話から考えて、魔物で間違いないだろう。
駆け寄った雄一が魔物とノースランドの間に飛び込むとイエローライトグリーンのオーラを纏う。
それと同時にプレッシャーのケタが跳ね上がったモノが2人に直撃する。
雄一はそのプレッシャーを受け止めるが、ノースランドはそのプレッシャーで我に返る。
慌てて戻ろうとしたノースランドに叫ぶ。
「もう飛び出しちまったんだ。腹をくくれ、20年前に断念した事をやり遂げろ」
真剣な瞳の雄一に頷いて見せたノースランドは土の宝玉に向かって走り、到着すると土の宝玉を抱くようにした。
到着したノースランドを見つめて、意識が拡散した瞬間、
「メグ、今!」
「うん、わかってる!!」
その会話と共にホーラ達の悲鳴がきこえた。
「クソッタレ、その手できたかっ!!」
悔しそうにその言葉を吐くと歯を食い縛った。
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