第245話 出発当日らしいです

 『精霊の洞窟』攻略当日、雄一達、4人はシャーロットとメリーに見送られていた。


「主、ご武運を!」

「俺の心配より、後ろの3人の心配してやってくれ」


 そう苦笑する雄一にシャーロットも苦笑する。


 雄一に駄目だしされてるのにも関わらず行くのを止めない3人にシャーロットは毎日のように言い聞かせていたが、効果は結果を見ての通りであった。


 その事を雄一も知っており、それでも意固地に来ようとするホーラ達に対する皮肉であったが、当のホーラ達は逃げる様子も見せずに静かに黙っている。


「揃いも揃って頑固な奴等だな、お前等は」


 これぐらいの皮肉で止めてくれるなら、とっくに止めているよな、と諦めの溜息を零す。


 シャーロットは話を変える為に他の子達の話を雄一に振る。


「アリア達も主を見送ってから出かければ良かったのに……」

「フフッ、俺達が『精霊の洞窟』を攻略するより先に最下層に行くと息巻いてたからな」


 前の晩、レイアとの会話の最後で言われていた。





「アタシ達が先に攻略するからな!」

「そう言われて引き下がったら父の面子丸潰れだな。受けて立とう」


 笑みを浮かべる雄一にレイアが「ぜってぇ―負けねぇ!!」と啖呵を切ると部屋へと戻っていった。


 そして、視線をアリア達が寝ている女の子部屋に向けるとニヤニヤと笑うアリアとスゥ、何故か気合いが入った風のミュウが眉を上げて見ていた。


「ユウさんに勝って、ご褒美を貰う!」

「楽しみですの」

「ニク!」


 勝手にそう言って雄一が答える前に窓を閉める3人を見て雄一は苦笑を浮かべた。





「俺は何も了承した覚えはないんだがな?」

「何かあったのですか、主?」


 不思議そうに首を傾げるシャーロットに、何でもないと笑ってみせる。


 シャーロットに抱っこされているメリーに顔を近づけてる雄一は大きな笑みを浮かべる。


「それじゃ、行ってくるな、メリー?」

「いってらっしゃい」


 雄一の頬をペチペチと叩くメリーがニパァと笑みを浮かべる。


 そうして、雄一達は2人に見送られて宿を後にした。



 宿を後にした雄一達が、目指したのはソードダンスコミュニティ本部であった。


 着いた雄一がその場を見渡すと準備が済んでいるのを確認する。既にソリに荷物などが積み込まれていた。


 やってきた雄一を離れた所でゼッツとガラントが忌々しそうにこちらを見ているが当然のように雄一に無視される。


 その横にいた少年少女、啓太と恵が雄一の下へと近づいてくる。


「覚悟は決めてきたのか?」

「何の事? 何を覚悟を決めたらいいのか分からないんだけどぉ?」


 雄一にそう言われて引き攣る笑みを浮かべながら小馬鹿にするようにおどける。


 ただ、雄一に目を細められるだけで顔中に汗が浮かぶが必死に笑みを維持し続ける啓太。


 その啓太の後ろで怯えるように雄一を見つめる恵にチラッと目を向けるがすぐに啓太の背中に隠れる。


「そちらはだいぶ余裕なんですね? 足枷を用意してくる……縛りプレイですか? 余裕があって羨ましい」


 そう言って雄一を見てるのがプレッシャーらしくホーラ達に視線を向ける2人に今まで黙ってたホーラが口を開く。


「アンタ等が、ユウの同郷?」

「あれ? お聞きになられてるのですか? そうですよ、だから尻尾巻いて逃げる事をお勧めしますよ」


 ホーラの言葉に余裕を滲ませる啓太の背中に隠れてた恵が相手が雄一でないなら怖くないとばかりに強気になる。


「まさか、アンタ達が3人揃えばアタシとケータのコンビに勝てると思ってるの? 馬鹿じゃないの?」


 それを見ていた雄一は実りのない話に馬鹿らしくなったのか、ノースランドの姿を見つけたので放って歩いていく。


 雄一が歩き出したから、一緒に歩き始めた3人。


 啓太とすれ違う間際でテツが捨て台詞を残す。


「いくらでも油断して見下してください。その僅かに生まれた油断を突いて喉元に噛みついてみせます」


 啓太に視線を向ける事なく通り過ぎるテツを背に啓太は、苦渋に満ちた声を洩らす。


「そんなものある訳ないだろ。こちらも一杯一杯だ……」


 下唇を噛み締めた啓太は手が白くなるほど拳を握り締めた。




 ノースランドと合流すると、すぐに出発する事になり、雄一達は一台のソリに乗り込んで『精霊の洞窟』を目指して出発した。





 一方、『試練の洞窟』の43階層の攻略を開始したアリア達は、早速と言わんばかりにゴブリンキングを筆頭とするモンスターが現れる。


 ゴブリンキングに遭遇したと認識した時点でレイアとミュウが飛び出す。


 得物、片手斧を持つゴブリンキングの懐に飛び込んだレイアは、振り上げようとしてる右手の肘を下から持ち上げるようにする。


 すると、たったそれだけでゴブリンキングは片手斧を振り下ろせない。


 レイアの行動で右脇腹が完全なノーマークになり、そこをミュウが脇腹を短剣で斬り裂く。


 切り裂かれた痛みから膝を着くゴブリンキングの頭を廻し蹴りを入れる。


 それだけで首が変な方向に曲がり、その場で倒れて息絶える。


 レイアの手際を他のモンスターを相手にしてたアリア達が見つめていた。


「日に日に、レイア、強くなってない?」


 トカゲ系の相手の首を刎ねたヒースが驚きを隠せないのか動きを緩慢にしてしまうが、その時に戦っていたのが最後だったようで安全に終われた。


「レイアは何度も同じ相手と戦うと弱点や癖を発見するのが早いからね」


 ヒースの言葉にダンテが答える。


 レイアは感覚的に見取り稽古の応用で相手の特徴を捉えるのが上手い。例えば、腕の旋回範囲などや、力が一番入ってない瞬間を狙って効果的な一撃を入れたり、今回のように力がのる前に無力化させたりする。


「体格も似たような感じだから、レイアがパターンを覚えたんだと思うの」

「ああ、ここのゴブリンキングは今のアタシにとって大きいゴブリンと大差ないな」


 強気なセリフが漏れるレイア。


 モンスターを倒し終えた面子が顔を見合わせると笑い合う。


 アリア達から見ても、もうゴブリンキングにレイアが不覚は取らないと思うが苦笑を浮かべる。


 明らかに調子に乗ったセリフに思えるが、今日は朝から良い意味合いで気合いが入っていた。


 その理由を知るアリア、スゥとミュウは優しげに見つめる。


「さあ、頑張ろうぜ? できれば44階層も探索を済ませたいからな」


 先頭をズンズンと歩き、罠を噛み潰していくようにするレイアを笑いながらレイアの背を追いかけるようにアリア達も動き始めた。

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