第230話 ええ? そういう感じなの? らしいです
雄一がホーラ達に覚悟を問う前に状況説明をしていた時の話である。
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ソードダンスコミュニティから依頼を受けた雄一は、『精霊の揺り籠』がどういう所か、そこで土の精霊によって封印されている魔物がいる事。
そして、ソードダンスコミュニティ創設者のノースランドの思惑を話し、正直、黙ったままにいようかと悩んだ、厄介な異世界人の2人と自分も同じ異世界人である事をホーラ達3人に話した。
「土の精霊の居場所が分かったのは好材料だけど、精霊が宝玉を使ってやっと封じるような魔物となると……アイナが明らかにサボり過ぎさ」
確かに、ホーラの言う通り、アイナが仕事をマメにやるか、会った事がないアクアとアグートの同僚の土の精霊がなんとかしてれば、ノースランドの悲劇は起きてなかったかもしれない。
「でも、ノースランドさん格好良過ぎます! すると決めて20年という月日をかけて力を蓄えていた。男ですよっ!」
「そうは言うけど、ユウイチさんの話だと、そちらにかまけて息子の育て方は失敗してる辺りは駄目親父そうよ?」
ノースランドの信念と妻の意思も継いで進む姿にテツは男泣きをするが、呆れた顔をするポプリが駄目だしをしてくる。
テツの言い分もポプリの言い分も理解できる雄一であったが、話した内容でもっと気になるポイントがあるだろう、と声を大にしたいが堪え、3人に話しかける。
「まあ、その辺りも気になるのは分かるが、異世界人と俺もそうだったと言う事は興味なしか?」
正直、3人に驚かれたり、距離を置かれる事を覚悟に話したつもりだった雄一だが、ホーラ達は雄一が異世界人という話をした時、たいした反応をしなかった。
その時までは、驚き過ぎてフリーズしてるのだと思っていると話し終えた後の3人の言葉を聞いて、雄一の方が逆に驚かされた。
雄一にそう言われた3人は顔を見合わせる。
しかし、その交わし合う視線と表情は、嫌悪も驚きもなく、どちらかというとキョトンとしていた。
「えっと、ユウイチさんはバレてないと思ってらっしゃったのかもしれませんが、私がユウイチさんの所で住まわせて貰ってる段階で疑いは持ってましたよ? 女王になった後もホーラと時折、手紙のやり取りをして、ホーラからの普段のユウイチさんの情報と過去の文献を私が調べた結果、確信しておりました」
今更、とばかりに肩を竦めるホーラも頷いてくるのに驚く雄一であったが、本当の驚きはここからであった。
「あのぉ~僕もユウイチさんが異世界人である事を2年程前に知りました」
「な、なんだと! ま、まさか、テツにまで気付かれているとは……」
驚いたのは雄一だけでなく、ホーラとポプリも驚愕の表情をする。
天然で鈍いテツが気付けるとは思ってなかったのは雄一だけではなかったようだ。
驚き過ぎる雄一達を見たテツが拗ねたような顔をしながら、ボソリと言ってくる。
「エルフの習慣を教わってる時にロゼアさんが……」
テツの説明を受けた雄一達は、顔を突き合わせてホッとした表情を浮かべながら「そうだよな、テツだもんな」と頷き合う。
テツが知ってた理由が納得はいったが、3人が雄一に対して態度を変えてない事が気になるので聞いてみる。
「俺の事を知って胡散臭いと思わなかったのか? ポプリに至っては文献を調べて厄介な奴等が多かった事は知ってはずだろ?」
「ああ、アタイもポプリから聞かされてたから知ってたさ。多分、ユウの反応を見る限り、あのジャスミンと名乗った女も異世界人で間違いないさ? 過去の文献も捨てたもんじゃないと思ったもんさ」
「それを知っても私とホーラは、こういうとユウイチさんは傷つくかもしれませんが、「だから?」という思いしかありませんでしたね。ミレーヌ女王と2人は話せた時にユウイチさんは異世界人だけど、どうします? と牽制しましたが、「知ってて旦那様にしようとしてる」と切り返される程、私達にはどうでもいい事です」
多少は身内に嫌われたらどうしよう、と危惧してた雄一だったので喜んでいいのやら悲しむべきか悩みどころと頭を抱える。
やはりミレーヌも知ってたかと納得しながらテツを見つめる。
「えっ、僕ですか? ユウイチさんは凄い遠い所から来たんだなぁ~って思いました」
そんなテツの頭を雄一は慈愛が籠った視線を向けながら撫でる。
ホーラとポプリもテツの肩をポンと叩いて手を置くと「ドンマイ」と言ってくる。
何故、3人がこういう行動をしてくるか分からないテツは右往左往する。
「まあ、ユウについてはアタイ達はそんな感じさ。ユウがその辺りに拘る辺り、今回の異世界人も厄介という事?」
「ああ、厄介さで言うなら前回のジャスミン以上で違った意味で厄介だ」
雄一の言葉を受けた3人は、気を引き締め直したように表情を切り替える。
「まず、男の方が啓太というらしい。この男の持つ力は相手を一発で殺す力で普通は視認できない。ホーラ、ポプリ、相手が殺す気なら見つかった時点でお前達は殺される、なす術もなくな」
雄一にそう言われた2人は、「まさか……」と呟くが雄一の瞳が嘘と言ってないと感じて絶句する。
絶句から立ち直ったホーラが絞り出すように言葉にする。
「つまり、相手に見つからない状態から1発勝負の不意打ちしか手がないと言う事さ?」
「それがそうも上手くいかない辺りが、更に厄介な所でな。もう1人の異世界人の女、恵というらしいが、こいつは、体を使う事には家の子供達にも負けるぐらいの身体能力だが、時空魔法を使う」
雄一が言う、『時空魔法』が分からない3人は顔を見合わせる。
「簡単に言うと空間を渡る力だ。その力はどれくらいの範囲か分からないが見えてない位置まで把握できる力がありそうだ。おそらく、力を使いこなしてないようだが、極めたら時間が止まってるような事もできるだろう」
最後に打てるかもしれないと思っていた手まで、駄目だしされたホーラは悔しそうに唇を噛み締める。
ホーラとテツはジャスミンが追い込まれる程、力が増していくのをその目で見てきているので、最悪、それと向き合う事に気付かされていた。
すると、あっ、と声を上げるポプリが雄一に質問する。
「私とホーラは駄目という事は、テツ君ならなんとかるのですか?」
「スペック的な話にはなるがテツには可能性がある。逃げるだけでいいなら、ホーラやポプリと比べたら、ひよっこ過ぎるダンテですらやってやれないこともないかもな」
その異世界人の啓太に関してはホーラもポプリもダンテ以下だと言われて、さすがにショックが隠せないようだ。
唾を飲み込むテツは雄一を見上げる。
「僕なら可能性があるのですか?」
「本当に可能性だけだがな。フルに今のお前を引き出せたとしても、あの2人が一緒にいる限り、時間稼ぎ以上はできない」
雄一の言葉に悔しそうにするテツを横目に見るホーラは何かを考え込む。
考え込むホーラが「視認、見つかったら……」と呟くと顔を上げる。
「歩法?」
「1つはそれで合ってるが、それだけだったら、男が1人になっても短い時間稼ぎも難しいな。逃げるのが精一杯だろう」
そういう雄一の言葉を聞いて、なんとなく雄一が言わんとする事の輪郭がぼやけてはいるが理解が進み始めたホーラ。
それを理解するとホーラは悔しげに認める。
「それが相手の力というならアタイとポプリにはどうする事もできそうにもないさ……」
そう呟くホーラの言葉を受けて、ポプリも遅れて理解に至る。
好き勝手すると思われる異世界人の最悪のスペックに苛立ちが募る。
その様子に嘆息する雄一はホーラ達に言う。
「正直な話、そいつらが喋ってる時のような馬鹿なら、最大の障害の俺を殺しに来るだろうから楽なんだが、中途半端に頭が廻るようでな? 俺を最初のターゲットにはしないだろう」
自分を襲ってきてくれたら2人同時でも瞬殺する事ができるのに、と今度は雄一が悔しげにする。
気持ちを切り替えた雄一が3人に問う。
「行き先もヤバイ。その道中には、お前達に手に負えない相手の異世界人の2人が襲ってくる。気付いてるかもしれないが、俺が襲えないから、ターゲットにされるのは、お前達の可能性が1番高い」
身も表情も硬くする3人を見つめて、はっきりと言う。
「以前のパラメキ国との戦争の時に決めた。黙って放置をしないという約束を守る意味で話はしたが、俺は今回、お前達が来る事を良い事だと思っていない。これは単純にまだ、お前達の力が足りてないと危惧してるからだ」
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と雄一に覚悟を問われ、挑む事を決めたホーラ達は雄一の試練を受けようとしていた。
肩に背負っている青竜刀、巴に声をかける。
「巴」
「分かっておるのじゃ」
そういうやり取りをすると巴は実体化し、脇にあった岩の上に腰かけて両膝をプラプラさせながら、ホーラ達を馬鹿だと言わんばかりの意地の悪い笑みを浮かべて見つめていた。
そんな巴を見つめるホーラが声音を低くして言ってくる。
「これはどういう事さ?」
雄一に怒りとも言えるような視線をぶつけるホーラであったが、岩の上に座る巴が代わりに答える。
「馬鹿だ、馬鹿だとは思っておったが、お前ら3人程度を相手にするのにご主人がわっちを使う必要などなく圧倒できるのじゃ。もっと言えば……」
「巴、レイアの時からだいぶ、お喋りになったな?」
イエローライトグリーンのオーラを纏う雄一にそう言われて、自覚症状があったようで、顔を顰めて口を閉ざそうとするが最後に捨て台詞を伝える。
「ご主人の1割でも本気出させたら、わっちが褒めてやるのじゃ」
「絶対にいつか泣かせて差し上げますわ、このツルペタ!」
負けずに言い返すポプリの言葉に巴の額に青筋は浮き上がる。
話が進まないと溜息を吐く雄一が、吼えそうな巴に言う。
「最初に挑発したのは、お前だぞ、巴。話が進まないから、おとなしくしててくれ」
2度も雄一に駄目だしされた巴だったが言い返せないようで、目尻に涙を浮かべると膝を抱えて拗ね始める。
目を閉じて気持ちを切り替えた雄一が目を開ける。
テツ達を挑発するように手招きをする。
「好きなタイミングでかかってこい」
自然体で構える雄一の言葉を聞いた、試練を受けると決まってから黙り込んでいたテツは、それが引き金になったようで馬鹿正直に真正面に突撃を開始した。
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