第224話 別件で受けざる得なくなったらしいです

 コミュニティ、ソードダンスの使いに案内されて、昨日もきた本拠地に雄一はやってきた。


 正直、雄一はなんらかのアクションがあるのは数日後だと踏んでいたが、こちらが思っていたより切迫した状況なのかもしれないと感じていた。


 それが事実であるなら、間違いなく面倒事なのは確定なのだろうと想像する。


 こういうパターンは、打てるだけの手を打ってあって、ご同業、つまりライバルがいるというオチが待っていそうだとウンザリしながら雄一は使いに連れられて入っていく。


 昨日と同じ部屋、執務室のような場所に連れて行かれ、中に入る。


 雄一が扉の中に入るのを見送ると使いの者はお辞儀するとその場から去っていった。


 中には昨日もいた歴戦の強者だったと思わせる爺さんと、代表のノースランド、そして、昨日はいなかった少年が2人いた。


 ノースランドと同じで青いというより紺色の髪色をしており、おそらく、ノースランドの息子であろう。


 ちなみに、雄一は知らないがヒースは、ここの家の子だが、母親の血を色濃く受け継いでいて、その為、髪が栗色で穏やかな表情をしている。


 この2人は、若いのに頭が固そうな顰めっ面が特徴で、無表情のノースランドより人間味はありそうだが、雄一の初見は、考えを巡らせ過ぎて一周廻って考えが足りないタイプであった。


 そうやってノンビリ観察してた雄一だったが、来たのに何もアクションを起こさないノースランドに話しかける。


「呼んでるというから来たが、違うなら帰るぞ? 俺も暇じゃない。次に同じ事をしたら、二度と呼べなくするから覚えておけよ?」


 そう言うと雄一は踵を返して出て行こうとする。


 帰ろうとする雄一に反応したのは息子の背の大きい方、おそらく兄と思われる息子であった。


「おい、待て! 新参者のコミュニティの分際でザガン1のコミュニティに捨て台詞とは強気だな!」

「おいおい、ハッタリは大事だが、すぐにばれる嘘は止めておけ。ザガン1というのは2日前の話だろう? それとも今日で逆転したのか、流出するコミュニティメンバーを止める事に成功したのか?」


 雄一にそう言われて、悔しそうに顔を真っ赤にすると俯く。


 馬鹿の相手をしたとばかりに肩を竦めた雄一が出て行こうとするとノースランドが声をかけてくる。


「せっかちなヤツだな。ちゃんと用があったから呼んだ。せめて、話を聞いてから行動を決めてくれ」

「だったら、さっさと話を始めろ。さっきも言ったが俺は暇じゃないんだ」


 呆れを隠さない強気な雄一の態度にも表情を変えないノースランドが口を開こうとする。


 だが、それを遮るように弟と思われる少年がノースランドに訴える。


「お父様! まさか、この男に本気で『精霊の揺り籠』の攻略を依頼されるおつもりか? 私と兄様が見つけた相手に任せてくれるのではなかったのですか!」

「ああ、そのつもりだ。ガラント、いや、兄のゼッツが見つけた相手が攻略する事に反対しなかっただけで、できるとは私は思っていない。あの者達の力は認めるが、あの者達には無理だ」

「悪いが親子喧嘩なら俺がいない時にしてくれないか? 本気で帰るぞ」


 本当に黙って帰ろうかと思ったが最後通告のつもりで頭を掻きながら伝える。


 ガラントの奮起に復活の狼煙を見たのかゼッツも騒ぎ始める。


「この大男が本当に使えるか私達が試してやりましょう! おい、出てこい、お前達!」


 雄一の思いも無視して進む流れに苛立ちを覚える視界に映った者達を見て、雄一の瞳が細まる。


 ゼッツの言葉と共に奥の部屋から出てきた少年少女を見つめる。


 見た瞬間、懐かしい思いに駆られるが、この場で見る事は不吉以外の何物でもない格好をした2人であった。


 2人はどこかの学校の指定のブレザーを着ていた。


 少年は、ブレザーを着崩して、ジャニーズにいそうな格好をしているが違和感を感じさせない程度に整った顔立ちをしている。


 少女は、ワイシャツの長袖を敢えて着て、腕を軽くまくり上げ、チェックの入ったスカートは限界まで頑張ったという長さに調節し、腰にはカーディガンを巻いて、首にはネクタイの代わりといった感じで赤いリボンがつけられている。

 今時の女子高生といった装いであった。


「おい、ケータ、メグ、この大男をのしてしまえ!」

「はぁ~い、了解!」

「ギャラの請求びびんないでね?」


 軽い返事をするケータと報酬を要求するメグは、雄一に近づいていく。


 そして、雄一の下にやってきた2人は小馬鹿にした笑みを浮かべて雄一にだけ聞こえるように話しかける。


「あはは、気付いてると思うけどさぁ、俺の名前、啓太」

「アタシの名前は恵」

「やはり、異世界転移してきたクチか?」


 そう言う雄一に、「言葉にしないと分からない?」と楽しそうに笑う。


 雄一を覗き込むようにする啓太は不思議そうに言ってくる。


「どうも、こっちで好き勝手やる為にはアンタが邪魔って言われてるんだよね。俺のチートで一発だと思うのに?」

「チート、という事はジャスミンと名乗ってたあの女の仲間か?」

「きゃははっ! あの中二のおばさんと一緒にしないでよ。アタシ達はそんな馬鹿じゃないって!」


 おばさんか、どうかは雄一は議論する気はないが、同じ馬鹿かどうかであれば議論が出来そうだな、と嘆息する。


 嘆息する雄一を見上げる啓太はイヤラシイ笑みを浮かべる。


「早速、俺達の楽しい異世界生活の為に死んじゃってよ」

「乙です。後はアタシ達に任せてよ?」


 楽しそうに笑い合う2人をくだらなさそうに雄一が見つめる。


 しばらくしても雄一は普通に立っており、啓太は徐々に笑うのを止めていくと同時に額に汗を掻き始める。


 啓太の様子がおかしい事に気付いた恵が、「えっ? 何が起こってるの!」と動揺始める。


 そんな2人の動揺も気にした風でない雄一は「なるほど」と呟く。


「お前の力は即死系のチートか。どうやら、自分が放った後の力がどうなってるか知覚できないようだな?」

「な、なんで分かる。というより、なんで生きてる!」


 何も答えない雄一が啓太の頭を掴もうと手を伸ばすと恵が啓太に飛び付く。


 恵が飛び付くと同時に啓太と一緒に姿が掻き消える。


 雄一は入ってきた出入り口の辺りに2人は姿を現す。


「私の愛の力でケータを守る! アンタなんかに捕まらな……えっ?」


 恵が啓太に抱きついた格好で雄一がいた場所を見つめる。


 だが、そこには雄一の姿はなく、それを認識すると同時に後ろから2人の頭を鷲掴みにされる。


「はい、いらっしゃい、待ってた」


 その言葉と共に2人は持ち上げられる。


 2人は痛みから自分の頭を掴む大きな手に縋りついて首と頭の痛みをなんとかしようと足掻く。


「どうして、アタシの行き先が分かったの!」

「そうだ、なんで俺のチートが効かない!」

「はぁ、俺がその質問に答えるメリットが……まあ、いいか、少しは教えてやろう」


 そう言うと後ろから鷲掴みされてた2人をクルッと回転させて雄一と向きあうようにする。


 笑みを浮かべる雄一が一度、目を閉じて目を開く。


「あ、あっああ……」


 言葉にならない呻き声のような声を洩らす啓太と目を見開いて絶句する恵。


 雄一の瞳が金と青に輝くのを見つめてしまったからであった。


 笑みを浮かべる雄一が、「俺は禍根は早めに断つ主義だ」と告げると掌に力を込め始める。


 それに慌てた啓太が必死に訴えてくる。


「俺をこの場で殺したら後悔するぞ!」

「はぁ?」


 殺すつもりで攻撃して来て、こんな命乞いをしてくる啓太に呆れて、思わず力を込めるのを停めてしまう。


「俺達も釈然としないが、指示に従ってて良かった。あの馬鹿女と違って俺達はこっちの世界で、まだ悪さはしてない。どういう意味か分かるか?」


 思わず、黙る雄一に光明を見た啓太が引き攣った笑みを浮かべる。


 今が畳みかける好機と思った恵も便乗する。


「おまけに、ザガンじゃ、アタシ達もちょっとは名の通った冒険者。無闇に殺したらアンタの立場はどうなるかなぁ? ケータに攻撃されたと言って、アンタ以外にそれを見分けられるのがいるの?」


 身を捩りながら、「どうして、アンタに掴まってると時空魔法が発動しないのよ!」とキレ気味に恵が愚痴る。


 雄一は舌打ちすると2人を解放する。


「つまり、お前らを殺すのは悪さをした後か、秘密裏にやらないとという事だな?」


 先程まで殺気どころか威圧すら発してなかった雄一の瞳に殺気が薄らと籠る。


 その薄い殺気ですら、2人は恐怖から足が震えて、その場で尻を着いて座り込んでしまう。


 置いてけぼりにされているノースランドとその息子達に雄一は獰猛な笑みを浮かべて話しかける。


「おい、ノースランド。昨日より、この依頼に興味が出てきた」

「それは有難いな」


 今までの雄一とこの2人のやり取りなど見てなかったかのように感情の乗らない声で雄一に返事を返す。


 バカップル2人の様子と雄一の態度にキレた息子2人は、雄一に詰め寄る。


「おい、お前達、戦いもせずに震えてるとは何事だ! お前もお前だ。歓迎されてないと分かってるだろう。さっさと帰れ!」


 ゼッツは雄一の胸倉を掴もうとして、ガラントは雄一を押しやろうとして近寄ってくる。


 雄一はその2人に目も暮れずに裏拳一発で壁に叩きつけるとノースランドに色よい返事を返す。


「受けてやるから、全部、話せ」

「ああ、話させて貰おう。だが、聞いた後で断るという選択肢はないからな?」


 笑みを浮かべる雄一が「犯罪行為じゃなければな?」と小馬鹿にするような笑みに切り替えると、ノースランドは初めて感情が見える苦笑を浮かべた。

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