幕間 ペーシア王国の親馬鹿さん

 和平会議から3日後、国境超えたナイファ側にある村で一晩明かしたミレーヌ一行とそれに着いてきたペーシア王国のジンガー達は、馬車に乗り込もうしていた。


「女王陛下、ユウイチ様の使いからジンガー国王へと書状を預かって参りました」


 馬車の前で声をかけてきた兵士が頭を下げて、そう報告してくる。


「ご苦労様です。ジンガー様にお渡してください」


 兵士は2つの書状をジンガーの前に差し出し、片方が会議で渡すと言っていた報告書で、もう片方が宰相一派に対する対処の予定が書かれている、と伝えると一礼して去って行った。


 受け取ったジンガーを見つめてミレーヌが声をかける。


「中身を見られるのは馬車の中で」

「そうですな」


 2人は頷き合うと馬車に乗り込んだ。




 出発するとジンガーは、すぐに書状を読み始める。


 最初に地盤沈下に対する報告書に手を着けたジンガーは読み進めながら驚いた顔をしながら、これなら! と呟いていた。


 次に宰相一派の対処の内容に書状を読むがたいした反応を見せずに、あっさり読了する。


 読み終えるとジンガーは両方の書状をミレーヌに差し出す。


「私もお読みしてもよろしいのですか?」

「ああ、書状を見られても困らないと思うならミレーヌ女王にも、と記載されておったのでな」


 ミレーヌは、拝見します、と告げると書状に目を通していく。


 地盤対策については、猶予が少なくとも1年あり、崩れ始めたら土の精霊獣のアイナの力を持ってすれば1年は堪えられるから、最低1年とされているらしい。


 その間にこの大陸にいたベへモスと同等の格のある精霊を連れてこれば解決と書かれている。


 このベへモスがこの大陸にいたとされる理由はゼクスとスゥを経由でミレーヌも知っていたが、これは伏せておいた方がいいかと苦笑する。


 ベへモスの代わりにもアテがあるそうなので悲観しないようにと書かれていた。

 最悪の場合、パラメキ国が受け入れ、良ければナイファ国でも受け入れて貰えると助かると書かれていた。


 おそらく、この1文を早い段階で読んで貰いたかったのと、ミレーヌならきっと受けると踏んだ雄一の信頼の証とミレーヌは受け取った。


 宰相一派の扱いに関しては、生かしておいて良い事はないから、雄一側で始末し、持ち出してる国庫にあった金銭も回収した後、返還する旨が書かれていた。


 それを見て、どこの腐った重鎮もやる事が一緒だと溜息を零す。


 ミレーヌは最初に簡単に片付く話から始める。


「宰相一派の扱いはユウイチ様にお任せになられるので?」

「ああ、むしろ、こちらからお願いしたいところだ。下手に国に連れ帰って処罰しようとすると無駄な混乱の元になりかねない。事故死、失踪という扱いが助かる」


 ジンガーの返事は早めに伝えた方が遅いより良いだろうと判断したミレーヌは御者席にいるものに、それを伝えて、雄一の下に報せを出した。


 ミレーヌが前を見ると咳払いをして聞き難そうにするジンガーの姿があった。


 思わず苦笑してしまいそうになるが耐える。


「ユウイチ殿の対策が上手くいくと私も思っておりますが、その……」

「大丈夫ですよ。最悪のケースになった場合はナイファ国もペーシア王国の国民を受け入れる用意があります。ご心配されずに……」


 ミレーヌが笑みを浮かべて言うセリフを聞いて、心底安心するジンガーを見て、やはり悪い王ではない、と見つめる。


 何せ、義理の娘になる父親が良い人柄に越した事はないのだから。


「胸のつっかえが取れる思いです。これで国民に正直に今の状況を伝える時に胸を張って、受け入れ先があると話せます。自信なさげに語ると大混乱の恐れがありますので」

「そうですね。公開しないほうが良いという話も出るとは思いますが、どうしても秘密とは漏れるモノ。漏れてから知らせても信を得るのは難しいですからね」


 ミレーヌにそう言われるジンガーは苦笑いをする。


 『ホウライの予言』をひた隠しにしたつもりだったが、あっさりと相手にするつもりだったパラメキ国に漏れたばかりなので言い返す言葉がないのであろう。


「これで安心して娘に会う事ができます」


 ホクホクの親馬鹿の顔を覗かせるジンガーを見てミレーヌはこの後の事を思うと苦笑せずにはいられない。


 おそらく、婚約解消などは考えてはいないとは思うが、国に連れて帰る気なのが見て透ける。


 ミレーヌは、ゼクスとハミュの仲睦まじい2人を思い出すとジンガーにとっては面白くない展開になるのではと思い、その時のジンガーを憐れに思う気持ちと楽しみにする自分に苦笑いをこっそりした。







 ナイファ城に着いた直後からソワソワし出すジンガーを見て、逆に不安になり始めたミレーヌであった。


 連れて帰れない事態になったらショック死しかねないように思えてくるが、さすがにそれは考え過ぎかと被り振ってその考えを振り払う。


 必死にそうと感じさせないようにしてるようだが、キョロキョロしてハミュを探してるのが傍目から良く分かった。


 逆に一緒にいる王子達がジンガーの行動が恥ずかしいようで俯いて顔を赤くしていた。


「んっ! その、久しぶりに会うハミュに失望されてはいかん。どうだ? おかしくないか?」

「父上、ハミュが国を出てから3カ月と経っておりません。もう少し落ち着いてください」


 これは相当焦れてると判断したミレーヌが近くにいた侍女にハミュを中庭に連れてくるように指示する。


 それを聞いていたジンガーは嬉しさを隠さない顔をして、


「中庭はあちらかな? 城の構造はそれほど他国でも差は出ませんからな!」


 娘を思う親馬鹿の嗅覚は絶大のようで、迷わずに中庭を目指して歩き出すのを王子達と共に見送る。


 ペコペコ謝る王子に、気にしないように伝える。


 ミレーヌはジンガーへの評価を改めた。


 『悪い人じゃないけど、駄目な人』




 中庭でソワソワしてハミュを待つジンガーを横目に侍女が持ってきたお茶を王子達と一緒しているとジンガーの待ち人が現れる。


「ハミュぅ!!」


 もう、他のモノが見えてないジンガーは噴水を廻り込むのも待てないとばかりに、ミレーヌもびっくりするぐらいの跳躍力を見せてショートカットする。


 飛び付くようにハミュを抱き抱えるジンガーは蕩ける笑みを浮かべてハミュに頬ずりをする。


「パパだよぉ! ごめんよ、長い間1人にしてぇ!!」

「大丈夫ですよぉ? ゼクス様がぁ、一緒に居てくれたのでぇ」


 ハミュがゼクスの存在を示し、ジンガーがそちらに顔を向けて驚く。



「びっくり、本当にゼクスの事を認識してなかったのね。一緒に出てきたのに」

「本当に申し訳ありません。父は、娘の事になると途端と……」


 先程から謝り通しの王子にミレーヌは好意的な笑みを浮かべる。


「重鎮達に無理矢理に嫁に出すという話を進められた時の様子が物凄く見てみたかったですね」

「恥ずかしい父で本当に……うぅうっ……」


 声を殺して泣き始める王子達に苦笑いして、悪い印象は持ってないと励ます。


 この後の展開を期待してミレーヌはお茶を楽しんだ。

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