第176話 父の背中のようです
レイア達は、アクアに先導される形で避難していた。
子供達は自分達の軽はずみな行動からこれほど事が大きくなってしまった事に打ちのめされていた。
確かに不可抗力な部分も確かにあった。
だが、あの召喚陣が危ないと言われた時点で静観を選んでいれば、雄一と合流するのはいつか分からないが、ホーラ達とは合流できて、とっくに召喚陣は破壊が済んでたはずである。
ゼペット爺さんに帰れと言われた時点で少なくとも応援をクロを使って出していれば、村人の避難誘導を自分達が担う形で宿の女将が人質にされる事もなかったであろう。
村長に宿はないと嘘を吐かれた事を知った時点で……
などと思考のループに陥り、ブツブツと呟く。
身の丈合わないのに依頼なんて受けたから、という考えに至った時、振り返ったアクアが声を大きくして言ってくる。
「それだけはありません! 確かに、強引な手段で来てしまいましたが、高みを目指そうとしたその心意気は否定してはいけません!」
アクアは、子供達に失敗を恐れて小さく纏まるのを良しとせずに訴える。
これからの子達が天井の低さを意識してはならない。
5人はビクッと肩を揺らせる。
それを見て、5人とも似たような事を考えてたと知り、少し恥ずかしくなったようである。
それと同じ時してシホーヌが合流してくる。
目尻に涙を浮かべるシホーヌといるはずの2人がいない事に動揺する子供達。
アクアは冷静にシホーヌに事情を問う。
「ホーラとテツは?」
「みんなを逃がす時間を稼ぐと言って飛び出したのですぅ」
シホーヌの言葉とその涙で全ての事情を察した。
ホーラ達の状況は絶望的である事が。
レイアはシホーヌの服を掴んで揺する。
「どうして、アンタはこっちにきたんだ。アンタ、女神だろ? ホーラ姉達の力になれたんじゃないのかよ!」
「ごめんなさいなのですぅ……」
ただ謝る事しかできないシホーヌに代わり説明する。
「ここに来る前にも言ったでしょ? 私達の能力は制限がかけられていると。今の私達ではレイアの全力にすらついてはいけません。そんな私達がホーラ達を助けようとしても足手纏い以外の何物でもないのです」
それでも納得できなさそうなレイアの肩をアリアが押さえる。
「レイアが願うような事ができるなら、ユウさんに連絡する前に2人が召喚陣を破壊してる」
でも、でも、と呟くレイアの視界の端に激しい閃光が目に入る。眩しさから一瞬、目を閉じるがすぐに開けると光が発した方向は洞窟がある場所の方である事に気付く。
空中から地竜を攻撃した時に見た似た光が放たれるのを見て、ホーラの健在を知る。
だが、その光に向けて吐かれたブレスと思われるモノに飲み込まれるのを見たレイアは考える前に飛び出す。
「ホーラ姉ぇ!!」
飛び出して100mも行く前に酩酊状態に襲われるレイア。
すぐに躓き、勢いだけは残っていたので吹っ飛ぶように草むらに突っこむ。
木にぶつかり、弾かれるようにして2~3mある高さのところから落ちる。
体をしこたま打って痛いという事もあるが、頭の中を掻き混ぜられるような感覚のせいで満足に動けず、立ち上がれずにいた。
すると正面の草むらから、ノッソリと明らかに動きが鈍く口許から涎を垂らし、瞳の色がおかしくなってるレッサードラゴンが現れる。
腹のところが陥没しているところからテツがツーハンデッドソードで岩に叩きつけたヤツのようである。
まるでゾンビのようにゆっくりをレイアを見つめたと思ったら口を大きく開けるのを見たレイアが悲鳴を上げる。
レイアの悲鳴に気付いた残るメンバーがレイアを発見するが、明らかに距離が遠く、必死にみんなが駆け寄るが間に合うようには見えなかった。
それは後ろを振り返ったレイアにもはっきり分かり、正面を見て、涙を瞳に盛り上げ、震えながら助けを求める言葉を吐く。
「お……お父さん、助けてっ!」
その言葉と同時にレイアの視界に映った幻視は、学者肌のヒョロリと背の高い男の背中ではなく、黒いカンフー服を纏った大きな背中をした男であった。
「な、なんで……?」
その言葉と同時にレイアとレッサードラゴンの間に見覚えのある青竜刀が突き刺さる。
背後から土を踏みしめる音が一定の速度でするのに気付いたレイアは震える体を押さえながら振り返るとレイアが今まで見た事がない表情をする雄一がそこにいた。
「おい、トカゲ、お前か? 家の子泣かせたのは? 調子こいてると魂まで斬り刻むぞ?」
怒鳴ってる訳でもないのに、良く聞こえ、ジャスミンに操られて自我などないはずなのに恐怖で震えるようにして後ずさるレッサードラゴン。
今の雄一が浮かべる表情は、いつもの情けない表情ではなかった。子供達は、特にレイアは知らない。
雄一の男としての一面を……
レイアが知る雄一はヘラヘラ笑っていたり、レイアに怒鳴られてシュンとしてたり、ホーラ達に追い詰められて逃げるといった情けない所ばかり見て育ってきた。
だが、どうだ、今の雄一の表情は猛々しく、睨む相手には畏怖を与え、庇護する者には安堵を与える。
強き男の顔をしていた。
そして、レイアは思う。
あの月夜も、シホーヌとアクアと一緒に夜間飛行したあの日の雄一もあんないい顔をしていた事を思い出す。
雄一が腕を一振りするとウォーターカッターが飛び、レッサードラゴンが真っ二つになるのを見たレイアは、もう大丈夫と安心すると意識を手放した。
意識を手放したレイアが地面に頭が着く前に抱き抱える雄一。
片手で抱き抱えると立ち上がりながらレイアを見つめる。だいぶ大きくなったとは思うがまだ片手で足りる小ささに微笑みを浮かべる。
「レイア、焦るな。どんなに急いでも、体も心も着いては来ないぞ?」
気を失って聞こえないと分かっても言わずにいれなかった。そして、雄一は涙の跡を親指で拭ってやる。
雄一の姿とレイアの無事を理解した面子が笑みを浮かべてやってくる。
シホーヌが雄一の背後に廻ると背中をポクポクという擬音がなりそうな叩き方をしながら文句を言う。
「遅いのですぅ! 遅いのですぅ! もっと早く来るのですぅ!」
「すまん、すまん、これでも超特急でパラメキ国との国境から飛んできただぞ?」
それでも憤りが収まらないらしいシホーヌの肩グルグルパンチは止まらない。
だが、若干冷静だったアクアと子供達はびっくりする。
「国の端と端ですよ? クロがどれだけ頑張ったかにもよりますが、とてもじゃないですがこんな時間ではこれないでしょう?」
「こっちには最速なのがいたからな、クロは今も死んだように寝るほど頑張った」
そういうと胸元からクロを取り出すとアリアに渡す。
「後で労ってやってくれ。頑張った、てな?」
受け取ったアリアは、頷くと眠るクロを頬ずりしながら目を細める。
それを見て和む面子と雄一にシホーヌが珍しく突っ込み役をする。
「こんな事してる場合じゃないのですぅ! ホーラが、テツが危ないのですぅ!」
それを聞いて思い出したアクアと子供達は慌て出すが雄一が笑みを浮かべて落ち着かせる。
「ここに降り立つ時に見えたが間に合ったようだからな」
そう言う雄一にシホーヌも含んだ残りのメンバーが、へっ? と間抜けな顔を晒す。
雄一は会心の笑みを浮かべると告げる。
「いっただろ? こっちには最速のヤツがいるって」
余裕を滲ます雄一がホーラ達がいる方向へと歩き始める。
シホーヌ達も顔を見合わせると雄一の後を追って歩き始めた。
▼
しばらく歩いて、洞窟前に戻ってくると後ろ手を着きながら座るホーラと大の字に寝転がるテツの姿が先に見えてくる。
「おう、生きてるか?」
呑気な声で言ってくる雄一を恨めしそうに見つめるホーラがフンッと鼻を鳴らす。
寝っ転がってたテツが起き上がろうとするが失敗して寝っ転がるが声だけで「生きてます」と言ってくる。
そんなホーラとテツを見たシホーヌとアクアが治療の為に駆け寄ろうとする。
周りの状況など気にもしてないような声音で雄一に声をかけてくるモノがいる。
「この煩いのどうしたらいい?」
首を傾げて後ろを向きながらも、ドラゴンのブレスを明後日に吹き飛ばしている緑髪の露出の激しい格好をした少女の緩い瞳を向けてくる。
「何なのコイツ! なんでこのドラゴンの攻撃を片手間であしらえるのよぉ!!」
雄一はジャスミンをチラッと見ると頭を掻いて考え込む。
その声を聞いた子供達が声を上げる。
「え、エリーゼ!?」
「んっ? そう、エリーゼ。自分の名前ぐらいはわす……多分忘れないから一々言わなくても大丈夫」
ホーラとテツのピンチから救ったのは風の精霊獣のエリーゼであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます