第175話 力及ばずとも、らしいです
シホーヌの下から飛び出したホーラ達は、再び、ジャスミンと向き合っていた。
壊れた笑みを浮かべるジャスミンを睨むように見つめるテツにホーラが声をかける。
「勢いで結界から出てきたけどさ、大丈夫さ? テツ」
「ええ、覚悟を決めて腹に力が入ってるせいかなんともありません」
気合いの入った眼をするテツを横目に「アタイもさ」とホーラは笑って見せる。
実のところ、シホーヌに神気を送られた事で緩和されている。それでもホーラ達ほど鍛えられてないと気休めぐらいにしかならない。
子供達であれば間違いなく操られていた。
2人はジャスミンから視線を外し、ドラゴンに視線を向ける。
見つめる先のドラゴンは、テツが戦っていたドラゴンと違うヤツかと思えるほど威圧を発しているだけでなく、体も一回り大きくなっているように見えた。
それを見て嘆息するホーラにテツが確認するように聞く。
「シホーヌさんが言ってた心と体のリミッターを外すというのはこういうことですか」
「そのようだね、で、テツ。このドラゴンを1人で引き受けられるかい?」
ドラゴンを苦々しく見つめるテツは、悔しそうに呟く。
「ホーラ姉さん、すいません。抑えられるとして1分が限度です」
テツにそう言われたホーラは舌打ちすらせずに、「そうかい」と呟くだけに留まる。
ホーラも目の前のドラゴンの強さが肌で感じられ、いくらテツでもおそらく力づくで抑えてられるのは2手程度だろうと目算していた。1分という事ですらテツが最善を尽くして上手くいった場合の話である。
「テツ、さっきの手で行くさ。二番煎じというのが気に食わないけど、それが一番、効果的さ」
そういうと細かい事をテツに説明し終えて、前を見ると見下し、笑みを浮かべるジャスミンが声をかけてくる。
「作戦会議は済んだかしら? どんな作戦を練ったか知らないけど、勝ち目なんてないのにね。不思議なほど力が漲ってくるわ。アンタ達は私のドラゴンに敵わない。それが何故かはっきりと分かるのよ」
「アンタらしい発言だね、そんな勝ち負けでしか語れないから、力がないというだけで蹂躙される側になるのさ」
そう言うホーラの言葉を聞いて、顔を強張らせるジャスミンを放置して叫ぶ。
「いくよっ! テツ!」
「はいっ! ホーラ姉さん!」
呼ばれて返事をすると同時にテツは生活魔法の風で作った足場を駆けあがる。ドラゴンより高い位置から雄叫びを上げながら、ツーハンデッドソードを握り締めて下降した。
「無駄なのが分からない? やれっ!」
テツを馬鹿にするようにしてみるジャスミンだが、別の方向から声をかけられる。
「無駄じゃないさ、狙い通りさ」
余りに近いところから発された声に驚いて振り向くと、散らばってた投げナイフを掴んだホーラがジャスミンに斬りかかりに来る。
首元をナイフで狙ったが、悲鳴を上げたジャスミンに反応したドラゴンの尻尾でホーラは追い払われ、ヤケクソ気味に投げナイフをジャスミンに投擲する。
だが、当然のように距離誤認を受けている様で先程よりずれた場所にナイフが突きたてられる。
投げたと同時にジャスミン達から距離を取るホーラに悪態を吐きながら、ジャスミンは斬りかかるテツに視点を変える。
「焼き払えっ!」
テツに向けて口を開くドラゴン。
それを見たホーラがパチンコを引き絞ると迷いもなく打ち放つ。
放ったホーラの鉄球はドラゴンにぶつかると爆発が起きる。
起きた爆発でジャスミンは吹っ飛ぶが尻尾に当たり、ドラゴンはブレスを吐くのを中止するのを目撃したホーラはテツの名を叫んだ。
その隙にテツはドラゴンを上段切りをして、浅くではあるが切り裂く。
ドラゴンを蹴るようにしてテツはホーラの下に戻ってきたテツは荒い息を肩でしながら舌打ちをする。
その様子を見たホーラはドラゴンのプレッシャーは相当なモノだと理解すると踏ん切りを着ける。
もう躊躇してる場合じゃない、と腹を括ったホーラはテツに目を向ける。
「行くさ!」
「はいっ!」
ホーラはジャスミンとドラゴンに向けて2発の鉄球をパチンコで打ち放つ。だが、2発ともドラゴンが壁になり防がれるが爆発が起こり、土煙でジャスミンは勿論、ドラゴンを半分姿を覆う。
「周りが見えないわ、なんとかしなさい!」
そうヒステリックに叫ぶジャスミンの声を聞きながら、ホーラは軽く跳躍するとそのホーラに合わせてツーハンデッドソードの腹を利用して空高くにテツは運ぶ。
空の人になったホーラの眼下では、ドラゴンが翼を羽ばたく事で土煙を吹き飛ばすのが目に入る。
視界がクリアになった事でホーラが飛び上がっている事に気付いたジャスミンはイヤラシイ笑みを浮かべる。
「今度こそ消し墨にしなさいっ!」
その声と共に懐に手を突っ込んだホーラがキーワードを呟く。
「弾けろ」
そう言った瞬間、ジャスミンの足元に突き刺さっているナイフ、最後にホーラが投げたナイフにひび割れが起きたと思ったら眩しい光が溢れる。
ホーラもテツも瞼を閉じているが、瞼越しですら強い光を感じる。
当然、
「目がぁぁ!!」
と叫びながら地面を転がり続けるジャスミン。
ホーラは光が収まったのを感じて目を開くと同時に魔法銃を構える。
『ショット』
地竜に打った魔法より強いモノが込められた弾で打ち放つと視界に違和感を感じる。
その違和感を探すとドラゴンである事に気付く。
何故なら、ドラゴンは目をしっかり開けてホーラを凝視していたからである。
タイミングが悪く、ドラゴンが上を向いてる最中に使ってしまったようである。
ゆっくりと口が開いていくのをホーラが見守る。
いや、見守るしかないのである。
ホーラには空中での移動手段が生活魔法の風で作る足場しかなく、魔法銃を打った反動で飛ばされている今、それを使っても割れて終わりで飛ぶ事もできない。
開いた口から放たれたブレスがホーラ目掛けて放たれる。
打ち出した弾は拡散する前にブレスに飲まれて、ブレスの威力を少し抑えると消える。
「ホーラ姉さん!」
テツは足裏で生活魔法の風を爆発させると飛び上がる。4年の歳月の間についにテツもマスターした。
吹っ飛ばされているホーラに抱き付く。
抱きしめたホーラを範囲外に連れ出そうとするが、直撃を避けられるだけで避け切れないと判断したホーラがもう一発ブレス目掛けて魔法銃を打ち放つ。
魔法銃の反動と打ち出した弾によりブレスがズレ、ぶつかるのは避けれた2人だが、着地の姿勢も取れずに地面に激突する。
ホーラはふらつきながら立ち上がる。思ってたより怪我がないと思っていると地面にめり込むテツを見て納得する。
「テツ、助かったさ」
「いえ、当然の事ですが、ホーラ姉さん、もしかして少し太りましたか?」
めり込んだ地面から起き上がり、ツーハンデッドソードを杖にして震える足で立ち上がるテツは軽口を叩く。
今のセリフはホーラの閻魔帳に記載するだけで、鼻を鳴らすだけで留める。
「テツ、まだやれる?」
「と、当然です。僕は生きてしなくてはならない事があるんです!」
ホーラはテツがこうも執着するところが珍しく、「何さ?」と笑いながら聞く。
「ティファーニアさんとちゃんと記憶に残るチューをするんですっ! プロポーズした時のは記憶が飛んでしまってて……死んでも死にきれません!」
テツはプロポーズの時にキスした事は家族に全員に知られている。所詮、女の同士の秘密なんてそんなものである。
真顔も真顔で言うテツを見て、弾けるようにホーラは笑い始める。だが、前方の状況の変化を見て笑いを引っ込める。
「まあ、頑張れと言ってやりたいところさ。でも状況は最悪さ、あの女の視界もそろそろ戻るさ」
テツにどうする? と問うように見つめると鼻で笑うようにしてホーラを見てくる。
「本当にどうしようもないですね。みんなが避難する時間は少なくとも稼ぎました。力及ばず悔しくはありますが、心だけは負けないと笑みを浮かべて睨みつけてやりましょう」
「アンタの土壇場で頼もしくなるところは姉として鼻が高いさ」
お互いに笑みを浮かべ合うと目を擦りながら立ち上がるジャスミンを見つめる。
目を充血させて口から泡を吐くジャスミンが叫ぶ。
「よくも目が潰れたと思ったわ。せっかく見えたと思ったらアンタ達の顔が最初で腹ただしい! 今度こそ、死になさい!」
その声をが引き金になり、ドラゴンがブレスを放つ。
まったく言い回しが3流だと鼻で笑いながら、ホーラはテツと共にブレスから目を逸らさずに笑みを浮かべ続ける。
だが、ブレスは急に明後日の方向へと飛ぶ。どうやら魔法で横からぶつけられたようである。
そして、驚くホーラ達とジャスミンの間に降り立つ者が現れた。
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