第172話 この2人もやっぱり成長してたようです
洞窟に逃げる村長と大男を横目にしながらホーラは子供達に近寄りながら、テツに指示を出す。
「テツ、あの2人が馬鹿やらかさないように取り押さえておきな」
「……はい、分かりました」
喉まで、だったらさっき2人を行動不能にしておいてよ、と出かけたが、きっと頭にきてたから考えるより先に手足が出たのだろうと理解するテツは虎の尾を踏むのを避ける。
苦笑いだけ浮かべると2人を追いかけて洞窟に向かう。
震える子供達を見下ろすように前にやってきたホーラがボソッと呟く。
「ダンテ、状況報告」
「はひっ!」
舌を噛んで涙目だが、止まる事を許されないダンテは立ち上がり、直立すると脂汗を流しながら説明を始める。
「ゴブリン討伐にやってきたところ、それは自然発生ではなく召喚陣によるものだという事が判明しました。その召喚陣は邪法とされるものとのこと。条件が揃えば神も召喚できる代物で、召喚陣の破壊をする為に僕達はここにいます」
「で、そんな危ないモノって分かってながらアンタ達だけでやろうと? 後、何故、邪法?」
ホーラの感情の籠らない声に恐怖して座り込みたい気持ちに必死抗うダンテ。
後ろでは明らかに説明を求められる立場じゃなくて良かったと安堵する4人の少女の姿があった。
「僕達の手に負えなくなる可能性があるとアクアさんの判断でユウイチさんにクロを使って連絡を出していますが、到着予定は未定です。その召喚陣の触媒が命そのもので、末端の神を召喚するのに数百という人の命がいるそうです」
もうほとんど軍人の上官に報告するような感じでするダンテは緊張と恐怖で目端に涙を盛り上げる。
ダンテの報告を受けたホーラは胸糞悪いという顔をして洞窟に目を向ける。
「となるとテツだけに任せておくのは不安さ。アンタらの折檻は終わった後さ」
剣呑な目で見つめてくるホーラにさすがに限界を迎えたダンテが後ろで身を寄せる少女達に抱き付き、泣き始めるがレイアに足蹴にされて引き離されそうになる。
「こっちくるな、とっばちりが来る!」
「安心しな、等しく丁寧に折檻をしてやるさ」
さめざめと泣く子供達を庇うようにシホーヌとアクアが間に入ってホーラを宥める。
「子供達も充分、反省してるのですぅ。もうちょっと手加減してあげてもいいと思うですぅ?」
「そうです。子供達なりに必死に頑張っていました。それはこの水の精のアクアが保障します」
鼻息荒く、ムフンという擬音が聞こえそうな顔で子供達を擁護する2人を半眼でホーラは見つめる。
ホーラ達がやってきた事で、事件の収束はできると見積もった事から生まれる余裕が子供達を庇うという行動に出た2人。
だが、ホーラの反応が芳しくないと気付いた2人は、顔を見合わせて、「あれぇ?」と首を傾げ合う。
「何を無関係を装ってるさ。アンタ達も同罪。ユウに「留守を頼む」と言われた意味がこう言う事とは違うぐらいは分かってるさ? しっかりユウには報告しておくさ」
嘆息するホーラは、
「どうもアンタ達の悲しむベクトルはアタイには理解不能さ。アタイの折檻じゃたいして効果ないから担当のユウに任せる」
と頭を掻くホーラに2人は目を大きく見開く。
飛び付くようにホーラに抱き付く2人は子供達より情けないほど涙を流す。
「それだけは勘弁して欲しいのですぅ。ユウイチは本当にそういう時、本気で容赦ないのですぅ! だから、報告にはアクアに唆されたと言って欲しいのですぅ」
「どうか、報告は恩赦を! だって……今までのお仕置きフルコースの可能性があるのです! アクアはとても反省をしてて、シホーヌは無駄な抵抗をしていたとどうかぁ!」
涙ながら嘆願する2人に笑みを浮かべたホーラが頷いてくる。
分かり易いぐらい表情が明るくなる2人は、ホーラに後光を見たような顔をする。
「今の言い訳込みでちゃんと報告しておくさ」
今度は裏切られたという気持ちが分かり易い表情で愕然とする2人は、フンヌゥ! とホーラの手を片方ずつ掴んで激しく揺すりながら声を上げて泣き始める。
うっとおしくなったホーラに両手を振られて外された2人は子供達の下に移動して見栄もへったくれもない大泣きを始める。
それを見た子供達は逆に冷静になり、嘆息しながら2人をあやし始める。
2人の様子に呆れたホーラは肩を竦めて洞窟の方に顔を向けるとテツが飛び出してくる。
「ホーラ姉さん、ヤバいです。手を貸してください!」
緩んでいた瞳を引き締めるとホーラはテツの下へと飛ぶように向かう。
テツの下にやってきたホーラが事情を問おうとするがすぐに止める。なぜなら聞くまでもなく洞窟から答えがやってきたからである。
「地竜は何体いたさ?」
「僕が見た限り5体ですが、まだ増えてるかもしれません。光った図形の中から出てきてたんで」
テツの話を聞いたホーラは舌打ちをする。ダンテが言ってた召喚陣であると目星を付けたホーラはテツに警告をする。
「もっとヤバいのも出てくるかもしれないらしいさ。何せ、条件がそろえば神すら召喚できるらしいからね」
「なら、時間はかけられませんね?」
そう言ってくるテツに頷くとテツは腰を落とし気味の前傾姿勢になると、ホーラはテツの背中に乗る。
洞窟からは地竜が6匹出てくるのを確認するとテツは地竜目掛けて走り出す。
地竜を旋回するようにしながらツーハンデッドソードで牽制しながら、テツの上に居るホーラはパチンコを打ちながら動きを阻害しつつ、6匹を一塊に纏める。
「テツっ!」
「はいっ!」
テツの背の上に乗っていたホーラは飛び上がる。そのホーラ目掛けてテツはツーハンデッドソードの腹でホーラをフライを打つ要領で振り抜く。
ツーハンデッドソードが迫るのを見ていたホーラはタイミングを合わせて腹の部分に両足を乗せると反動を利用して飛び上がる。
飛ぶホーラを確認したテツは後方に全力で飛び避難する。
避難したテツを確認したホーラは魔法銃取り出し、地竜の集団の真ん中に狙いを定める。
「ショット!!」
ホーラの言葉と共に魔法銃から豪雨のような光の玉が降り注ぐ。
それをまともに受けた地竜は全身穴だらけにされ、ズッシンという重たい音をさせて1匹、また1匹と倒れていき、立ってる地竜は存在しなくなると攻撃が収まる。
魔法銃の反動で空高く飛んでしまったホーラを受け止めようと着地点にテツがやってくる。そして、手を広げて待ち構えるテツ。
降りてきたホーラが、「あっ、ごめん」と悪びれもしない声で謝ったと思ったらテツの顔を踏んだだけに終わらず、顔を踏みつけた反動で軽く飛び上がると洞窟の前へと着地を決める。
「ホーラ姉さん、酷いですよ」
顔に足裏の痕を付けたテツがホーラに文句を言いながら近寄ってくる。
半泣きになってるテツを見て、軽く手を上げる。
「んっ、悪かったさ」
凄まじく、ホーラの謝罪は軽かった。
「もう、いいですぅ」
鼻声のテツが色々諦めた声を出して、ホーラに並ぶと2人は洞窟に入っていく。
そんな2人を見守っていた子供達は、あの自分達が届かぬ強さを見せつけられて興奮していた。
「すげぇ、すげー、すげぇよ、ホーラ姉とテツ兄!」
「本当なの! あんな一瞬で6匹の地竜を仕留めたの!」
「でも、あんな事出来る人が身近にいるから忘れそうになるけど、身内以外じゃできそうなのって火のギフトを持つホーエンさんぐらいだよね?」
ほっといたらレイアが自分もできるはずと、いつか試しそうでクギを刺すダンテを不満そうに見返し、水を挿されたとダンテの頭を叩く。
「そんな事より、ホーラ姉達を見に行こうぜ! もう村長の命運は尽きた! アタシ達はその最後を見に行こう!」
レイアの提案に真っ先にミュウが賛同して、ガゥ! と頷いて見せる。
アリアとスゥも興味はありげだが、少し困った顔をする。
「まだ終わってないのに後ろでチョロチョロしてたら、ホーラ姉さんに怒られる」
「大丈夫だって!」
そう言うとレイアはアリアを、ミュウはスゥの背中を押して洞窟に向かう。2人も積極的に止まろうという気がないので、押されるがまま進んでいくのを見守ったダンテは溜息を吐く。
「大丈夫な訳ないよ。後で絶対に怒られるのに……」
そう項垂れるダンテに泣きやんだシホーヌとアクアが隣に来る。
「行こうなのですぅ、ダンテ」
「でもぉ……」
「あの4人が行った時点で折檻があるなら、ダンテもセットですよ、きっと……」
アクアの言葉に否定する言葉を持ち合わせなかったダンテは項垂れると2人と一緒に洞窟へと向かった。
向かった洞窟の中では壁際まで追い込まれた村長達がホーラ達と対峙していた。
どうやら、ホーラ達に降伏するように勧められているようである。だが、ホーラの目がそんな事で済ませる気がないというのが子供達には、はっきりと理解できた。
「だから、最後の1匹は余分だったんだよ、親父殿! あれがなければアイツを呼べたのに!」
「う、煩い、思わず召喚してしまったのだから、しょうがあるまい」
言い合いする2人に呆れたホーラがテツに指示を出す。
「2人を確保。抵抗したら斬ってヨシ!」
苛立ちを前面に出すホーラに苦笑いを浮かべるテツはツーハンデッドソードを構える。
すると、若い女の声がする。
「本当に使えない。しかも無駄に魂を使ったからアイツを呼ぶのにちょっと足らないじゃない。でも……」
村長と大男の胸から剣が生える。いや、後ろから突き刺されているのである。
壁から1人のソバカスが特徴の村娘が現れる。
「壁から人が出てきたっ!」
そう叫ぶレイアにシホーヌが被り振る。
「あの岩が幻覚なのですぅ。油断してたのですぅ」
シホーヌの言葉で幻覚と各自が自覚すると普通に通路があるのに気付く。
「あれは、確か、村長の娘さんですの?」
悪意溢れる表情を浮かべているが、村長に会いに行った時に出会った村長の娘で間違いなかった。
厄介な空気を感じ取ったホーラは舌打ちをする。
胸から突き出している剣を見て驚愕な表情を見せる村長達を鼻で笑い、更に押し込むと血を吐き出す2人を召喚陣の上に蹴り飛ばす。
召喚陣の上にやられた村長は「何故?」と信じられないという顔を娘に向けながら光に溶けるように大男と共に姿が消える。
「足りて良かった。これで、呼べるわ。本物のドラゴンをねっ!」
その言葉と同時に洞窟は揺れ出し、女の高笑いは激しくなっていった。
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