第151話 駆け引きは顔を合わせる前から始まってるらしいです
パラメキ城に着くと女王は部屋を取ると、別室待機していた北川家一同がいる所にポプリを呼ぶ兵士がやってきた。
「女王陛下が、ポプリ様と会談前に少しお話したいとのことです」
緊張しすぎて、声が高くなりながらも敬礼する兵士はチラチラと雄一を見ているところから誰に緊張しているかは丸分かりであった。
雄一はチラっとリホウを見る。するとリホウは耳打ちしてくる。
「おそらく、ポプリ嬢ちゃんの意思確認かと……その結果次第では……」
リホウの言葉を反芻するように目を閉じる。
兵士の言葉にポプリが、「分かりました」と答えると雄一が歩き出そうとしたポプリの肩を掴む。
「これだけは覚えておいてくれ。俺達は家族だ。決して俺は家族を見捨てない。だから、自分で抱え込まずに頼ってくれ、俺の為に」
真摯に見つめる雄一に花が咲くような笑みを浮かべるポプリは嬉しそうに頷く。
「そのユウイチさんの言葉があれば、私はどんな壁でも乗り越えて行けます」
背筋を伸ばして、凛とした佇まいを見せるポプリの表情には迷いの欠片すらなかった。
そのポプリは、出口を見据えて出て行こうとする途中で兵士に伝言を頼む。
「少し、寄り道してから向かうので少々、お時間を頂きますとお伝えください」
「いえ、お供します!」
そう職務に忠実ぶりを発揮してくる兵士にポプリは柔らかい笑みを浮かべる。
「レディの着替えまでですか?」
「し、失礼しました! 女王陛下には、しかとお伝えさせて頂きます」
顔を真っ赤にする兵士は直立して出ていくポプリを見送る。
色々、想定した状況から逸脱してしまってどうしたらいいか立ちぼうけする兵士に雄一が問いかける。
「ここの王女、4人はどうしてる?」
「は、はいぃ! 女王陛下の指示で王女達は王の間で拘束はしておりませんが、待たせているようです。そ、その、女王陛下の準備が終わるまで待たせる予定です」
「クックク、順位の格付じゃな。なかなか、ダーリンの国の女王はエグイ事をするのじゃ」
リューリカが楽しそうに犬歯を見せながら笑う。
ペットで良く聞く話で、家族の中で格付をするという話を聞いた事はないであろうか?
エサをくれる人、散歩に連れて行ってくれる人、良く構ってくれる人などで順位付けがされ、自然に自分の立ち位置を決める。
たまに甘やかし過ぎて、ペットなのに同じ人間と勘違いしたのがいたりする話である。
そういったのが飼い主を下扱いし出したりするのを防ぐ方法として、有名な話では、食事による格付けである。
ペットがどれだけ食事を要求してこようとも人間が食べ終わるまでは決してエサを上げない。
それを繰り返すと自然とエサをくれる人が偉い人と認識していく。
サル世界で最初に食べるのがボスである事で有名な話であるが、これに似たようなのが人間社会にもある。
実際に同じ事をやったら人間社会では後ろ指を差される事、受け合いだが、社会人なら実体験、学生だとかではテレビで見た事があるのではないだろうか?
会議、面談、そういったもので最後に登場するのが社長、もしくは、その場で一番偉い人ではないだろうか?
相手を待たす事で、この場のボスは俺だ、という意思表示である。
これが会議ぐらいであれば、多数で行われるので直接会話する機会がない限り、それほどプレッシャーを感じる人も多くはない。
だが、想像してみて欲しい。
面談、面接のような場合、待たされるとすこぶる緊張を促される。相手の意図がどこにあるかは別にしても緊張必至である。
それを使って交渉を上手く立ち回るという手法は存在する。スタート地点から有利な所からにしてイニシアチブを取り易くなる。
知識としてそれを知っていても、なかなか覆せない。
だからリューリカは、女王の考えを聞くと出た発言である。
3,4番目の王女については分からない事のほうが多いが、上の2人は相当性格に難がありそうと報告を聞く限り分かる。
その王女達はいつもなら待たす側だったのに無為に待たされるという屈辱と今の置かれている状況の悪さからの閉塞感からの心労は酷いモノであろう。
待たされている今、きっとアレコレと今後の流れを想像してどう切り抜けるか必死に考えているだろう。考えれば、考えるほど悪い方にずるずると深みへと向かいながら……
リューリカが言いたい事を理解している雄一は嘆息する。
「順位の格付けって、犬じゃないんだから……犬だったか」
おどける雄一に威嚇するように犬歯を更に見せるリューリカが「噛むぞ?」と言ってくるので、抵抗もせずに雄一は両手を上げてみせる。
そんな雄一にリホウが伺いを立てる。
「どうやら、俺の出番はなさそうなんで席を外させて貰いますね? こちらの方はアニキがいるんで問題なさそうですしね」
「ああ、こっちは任せておけ。例の件は任せた」
そう言うと一礼してリホウは退出していく。それを見送ったホーラが首を傾げる。
「例の件?」
「ああ、火の精霊というよりホーエンの所に行って貰った。ちゃんとみんなを戻したかどうかの確認とアイツ等にかけるペナルティを伝えさせる為にな」
そう言いつつ、リューリカをチラッと見る雄一。
その視線にリューリカは気付いたが、不機嫌そうな顔を見せてくる。
「本当は、リューリカが帰るついでにして貰おうと思ったら、即答で断られた」
「当たり前じゃ、わらわはダーリンの子を孕むまでは帰る可能性は皆無じゃ」
肺にある空気を全部吐き出すようにして溜息を吐く雄一に、
「わらわのどこに不満があると言うのじゃ!」
と噛みつくように言ってくる。
「考えなしに脊髄で反応してるような所?」
そう切り返す雄一に絶句するリューリカ。
絶句するリューリカを見て胸がすく思いをするホーラが話しかける。
「考えなしの女は、やっぱり駄目さ」
ずっと雄一にべったりなリューリカに少なからず面白くないと思っていたホーラが会心の笑みを浮かべる。
それに、グヌヌヌゥ! と唸るリューリカを横目に雄一がホーラに手を振ってみせる。
「ホーラも人の事を言えないだろう?」
「アタイは考えてちゃんと行動してるさっ!」
その言葉に雄一は「だって、なぁ?」とテツに語りかける。語りかけられたテツは何の事か分からないが本能の訴えにより雄一から距離を取り始める。
「考えがあるヤツがパンツ一枚で空をとばな……」
咄嗟に開いていた口を閉じると前歯に挟まれるようにして投げナイフが止まる。それを吐き出した雄一がホーラに問い詰める。
「さすがに今のは手が滑ったとか無理だぞっ!」
そう言う雄一をジッと見つめたと思えば視線を切るとタメを作って勢い良く雄一を睨む。
「狙ったさっ!」
「開き直りやがった……!」
そう言い切ったホーラが投げナイフを持てるだけ取り出すのを見た雄一がホーラを見つめながら横に向かって手を彷徨わせる。
しかし、空を切るばかりで何も掴めない事に不審に思った雄一がそちらに目を向けるとそこに居たはずのテツが部屋の隅に避難しているのを発見する。
「なっ!」
「1日に2度も同じ手に引っかかったりしませんよ!」
どうやら成長したらしいテツを喜べばいいのか、嘆いたらいいか分からない雄一は、目の前のホーラに問いかける。
「長男の成長をこの目に見ると嬉しいのか寂しいのか分からねぇ。そう思わないかホーラ?」
そんな雄一を酷薄な笑みを浮かべるホーラが静かに返事をする。
「最後の言葉はそれでいい、ユウ?」
瞳だけギラギラさせるホーラは叫ぶ。
「家ではデリカシーがないヤツは死刑さぁ!」
「俺もそこに住んでるけど、初耳だぞぉ!!」
雄一の言葉が引き金になったようにホーラは投げナイフが尽きるまで雄一目掛けて投げ始めた。
それから、1時間程経ち全ての投げナイフを投げた事でいくらか落ち着いたホーラにご機嫌取りするようにお茶を入れた事で許して貰えた雄一は、ついでにみんなにも配膳する。
お茶を飲みながらテツが雄一に問いかける。
「今、ポプリさんの為に僕達が出来る事はないんでしょうか?」
テツの言葉を受けた雄一は、「そうだな」と呟きながら天井を見上げる。
「俺達が出来る事は、もうほとんどないだろうな。俺達は脳筋だ。国同士の駆け引きについていくのが精一杯だろうからな。ただ、俺達の力が必要になった時にいつでも動けるように心構えだけはしておく、それでいいんじゃないか?」
「そうですね!」
嬉しそうにするテツに頷いてみせた雄一はお茶が入ったカップを口に付けたタイミングでドアがノックされる。
入室の許可を求められたので応じると入ってきたのはポプリを呼びに来た兵士であった。
「そろそろ会談が始まります。王の間へとご案内します」
黙って雄一が立つのを見た一同は、続くようにして立ち上がる。
それを見た兵士が、震える手で敬礼をすると「こちらです」と伝えると手と足を同時に出しながら雄一達を先導して歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます