第150話 過去とは追いかけてくるモノらしいです
城壁が破壊してすぐに雄一達は動き始める。そして、壊れた城壁の手前に来ると立ち止まる。
立ち止まる雄一を不思議に思うホーラとテツ、そして、歩くのを止めて目の前に見えるところに行けない事を不満に思うミュウが雄一の頭に噛みつく。
「どうして、王都に入らないんですか?」
「こういう時は、代表である女王の部隊が最初に入る事で示しが付く。それなのに俺が最初に入っていったら、主役は俺だと主張してしまって女王の面子を潰すからな」
このまま戦いに雪崩れ込むのであれば、その限りではないが、既にパラメキ軍は戦意喪失状態で戦いになるとは思われない。ならば、その王都入りは女王がすべきことであった。
「ご配慮有難うございます。ユウイチ父さん」
「当たり前な事だ。気にするな」
ペコリと頭を下げるゼクスだが顔を上げると苦笑に変わる。
何故なら、「ユーイ、早く! ミュウ、あそこ行ってみたい!」と騒ぎ、雄一の頭を叩いたり、噛みつくミュウの存在を見た為である。
ミュウ、いや、アリアにしてもそうだが、この状況下でもいつもと変わらずに居てくれるのは色々、逞しいと嬉しく思うお父さん、こと、雄一であるが、特にミュウはいつもより甘えん坊さんになっていた。
それに苦笑をしながら嘆息する雄一にゼクスが笑みを浮かべて教えてくる。
「アリア達はユウイチ父さんがいない間、本当におとなしくして、お母様の言う事を良く聞いてましたから我慢した分、ユウイチ父さんに構って欲しいんですよ」
そう言われて悪い気分になる訳がない親馬鹿の雄一は、「そうか、そうか、良い子にしてたか」と言うとミュウの頭を撫でに行くと手を取られると手の甲を噛まれまくる。
アリア達が褒められ、良い子と証明された雄一には噛まれるぐらい平気で相好崩した顔を晒していると横に居るリューリカが鼻を鳴らす。
「まったく我慢できん駄犬じゃ。似るのは顔だけで良いものを頭の中身まで似るとは不幸じゃな」
楽しそうに笑うリューリカに犬歯を見せるミュウにアリアが懐から取り出したドングリに似た木の実をミュウに手渡す。
受け取ったミュウは迷いもない動きで投げるのを見た雄一が、声を洩らすがデレていて油断していた事により阻止し損ねる。
投げた先にいるのは後ろを向いて、楽しげに笑うリューリカの後頭部で狙い違わず、ペシッという音を響かせる。
笑うのを止めたリューリカが体をプルプルと震わせるのを見た雄一はアチャ……と顔を覆う。
「どっちが上が教えてくれるわ! 覚悟せいよ、駄犬っ!」
言葉と同時に飛びかかってくるリューリカを迎え撃つようにミュウは雄一の肩の上でファイティングポーズをとる。
慌てた雄一は飛びかかってくるリューリカを空中で抱きとめるが勢いが付いており、雄一の空いてるのが左手だけだったので抱き寄せる形になり、オデコとオデコがぶつかりあう。
「今のはミュウも悪かったが、さすがに導火線が短すぎないか? ここは俺の顔を立てて我慢してくれ」
至近距離で見つめられる事で真っ赤になるリューリカが殊勝な態度でコクリと頷くのを見た雄一が肩の上で威嚇を続けるミュウに目を向ける。
「ミュウ、腹立つ事を言われたからってすぐに攻撃したら駄目だろ? お姉ちゃんにごめんなさい、は?」
雄一の言葉にすぐに「ヤッ!」と拒否するミュウを見て困った顔をする。
ミュウらしくない行動が目立つところから、これはリューリカの妹の遺伝子がリューリカは敵だと継承されているのではないのかと疑うレベルである。
だが、ここで謝らない事を許す雄一ではなかった。
「そうか、じゃ、悪い子のミュウはダンガに帰ったら作る予定の御馳走をみんなで食べてる時はクルミパンでいいんだな?」
御馳走のメニューを口にする度にミュウの目が泳ぎだし、口許がだらしなくなっていく。
そして、抗議するように雄一の髪を引っ張るミュウに「ミュウは悪い子か?」と問うと情けない鳴き声を洩らす。
「ミュウ、私も一緒に謝るから」
助け舟を出すようにアリアが言うが、それを横で見ているホーラが呆れるように洩らす。
「シレっと無関係を装ってるけど、木の実渡したのアリアさ」
明らかに聞こえる距離で言われているが聞こえないフリを貫くアリアは、もう一度ミュウに「ねっ?」と問いかけて頷かせる。
2人が、ごめんなさい、をするのを見た雄一が左腕にスッポリ収まっているリューリカに目を向ける。
「これで勘弁してやってくれないか?」
「うんむ、許す。正直、少し得した気分じゃ」
はにかむリューリカの言葉の意味が分からず首を傾げる雄一の左腕に痛みが走る。
その痛みで思わずリューリカを手放すと痛みの場所を見るとホーラが投げナイフで刺していた。
「ごめん、手が滑った」
「滑る以前にナイフを出す理由がないだろ! というか何があったか知らんがすぐ暴力に訴えるな。そういうのをミュウ達が見て覚えるんだぞ?」
怒る雄一から視線を切って鼻を鳴らすホーラを見ていたゼクスが2人の間に入る。
そして、雄一を見上げると困ったような呆れるような表情を浮かべる。
「ご配慮足りてませんね。ユウイチ父さん」
それに、へっ? と間抜けな声を出す雄一。
8歳の少年に諭された16歳がそこで佇んだ。
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女王が部隊を率いてセーヨォに入ろうとするのを見つけた雄一達は女王を追いかけるように近寄る。女王の馬車に近づくと一瞬、兵達に警戒されるが面子を見て安心した兵達が道を開けてくれる。
女王に労いの言葉を貰い、ゼクスとスゥを馬車へと乗り込ませる。
一緒に乗るように勧められるが、それをやんわりと辞すると女王より少し遅れて歩いてセーヨォに足を踏み入れた。
中に入ると雄一は眉を寄せる。ホーラ達も同じように嫌そうな顔をする。
「ダンガより酷いさ」
そう、ここが王都であるというのが嘘のように感じた為である。
城壁は、かなり立派というか攻撃的なまでに力が入っていた。
だが、メインストリートはともかく、一本ずれると整備どころか土が見える道で、雄一が知る中世のヨーロッパのように糞尿がされていると分かる。
何故なら少し強い風が吹くと匂いが漂ってくるからである。
雄一達の様子を見ていたポプリは目を伏せて説明してくる。
「まだ父の時代の頃はここまで酷くありませんでした。私がこの国を出る時は、道路でされる方は皆無とは言わないでしょうが清掃されてたようですから」
「どうやら、そうらしいです。俺も昔に立ち寄った時はここまで酷くなかったですからね」
今までどこにいた? と聞きたくなるリホウが突然現れるとそう言ってくる。雄一は一応、接近には気付いていたから驚きはしなかったが他の面子は驚いていた。
「お前がわざわざ口を挟みに来たと言う事は、原因が何かを説明しにきたんだろう?」
「あはは、その通りでしてね、どうやら、ポプリちゃん、いえ、ポプリ王女の姉である第二王女と結婚した男がその辺りを牛耳る立場のようで……」
王女と言われたのをしなくていいとリホウに言うポプリが溜息を吐きながら予測を口にする。
「サラお姉様とネリートお姉様は、ああ、第一王女と第二王女です。昔から見栄を張るお方だったので……」
つまり湯水のように金を使う2人と言うのであろう。ついでの説明で残る2人は芸術、学者肌で引き籠り気味という極端な姉妹のようである。
「で、お前の調べでは、今、どちらが国の舵取りをしてるんだ?」
「はぁ、第二王女でした」
雄一はリホウが、「でした」と過去形で言うので首を傾げる。
「つまり、ナイファ軍が到着と同時に逃亡の準備を開始し、最後に城壁を利用して死守する命令だけ出して逃げ出そうとしてました」
「また、ました、と言うところから阻止したのか?」
雄一の言葉に頷くリホウは、「今頃、王の間でヒステリックに叫んでるでしょう」と苦笑いをしてくる。
リホウの情報収集力に呆れるホーラと感嘆するテツに見つめられて照れたフリをするリホウ。
それを見ていたポプリがリホウに詰め寄り、質問を投げかける。
「お姉様、サラお姉様はどうされたのですか?」
「ええ、第一王女は、旦那を捨てて持てる限りの荷物を持って国外に逃亡を計られました。しかも、どうやら水攻めをされて劣勢になったと報せを聞いたらすぐに動かれたようで、かなり危険感知能力は長けた方の様ですね」
余裕のある表情と再び、過去形で話すリホウに半眼で見つめる雄一がアイアンクロウをかける。
「勿体ぶらずにさっさと言え」
「イタタタッ! 頑張ったんですから格好ぐらい付けさせてくださいよ……」
「お姉様は国外逃亡されたのですか?」
そう聞いてくるポプリの言葉を聞いた雄一はリホウの拘束を解く。
コメカミを摩りながら、リホウは被り振る。
「まあ、タイミング的には逃げ切れたんでしょうが、どうやら持って行かないといけない荷物が人一倍多かったようで……エイビスさんに借りた者達が拿捕してる頃……噂をすれば、ですねぇ」
駆け寄ってくる者がリホウの耳元で報告するのを見て、雄一はできれば忘れてしまったままなかった事にしたい名前を聞いてゲンナリしていた。
それと連動するように死んだ魚の目のようなエルフの「へっへへ」と言う笑い声が聞こえたような気がして頭痛を感じていた。
報告を聞き終えたリホウが本当におかしそうにクックク、と肩を揺らして笑い出す。
それを見ていた雄一が何があったのかと思い、催促するように睨むと笑いを収めたリホウが口を開く。
「持って行かないといけない荷物がこちらが思ってた以上に多かったようで、ここから数キロの所で拿捕されたようです」
「あのタイミングで逃げて、それだけしか進めてない? どれだけ持ち出していたんだ?」
そう聞く雄一に答えたリホウの言葉を聞いた面子、ポプリを除いた面子が馬鹿だという思いを隠さずに全力で呆れる。
妹のポプリは恥ずかしさの余り、穴があったら入りたいと言いそうな顔をしながら顔を覆いながら言葉を洩らす。
「国庫のお金を全部なんて……それを持って逃げれると思った事も愚かですが、国庫のお金は王族の財布じゃないと、お父様にも言われてたでしょうに……」
ポプリの父親は親としてはゲスな人だったようであるが、為政者として及第点な人だったようである。
ヤレヤレと呆れる雄一は、リホウに他の姉妹の状況を聞くとどうやら残る2人は部屋に立て篭もっているようである。
自分の肉親の余りの情けなさに肩を落とすポプリの背中を雄一は軽く叩く。
「これから、こういうのもなんだが、ポプリにとって恥ずかしい姉妹との再会だ。舐められないように気合い入れておけよ」
ここに来るまでの道中でポプリから、姉達が会ってくれなかったと言っていたので檄を飛ばす。
「はい。これ以上、自分の肉親の事にユウイチさん達の手を煩わせる訳にはいきません」
雄一とリホウを交互に見てくるポプリの視線から何かを勘づいているようであるが、2人は素知らぬふりを突き通す。
ポプリは2人に追及する気がないと言わんばかりに視線を切り、前方に見えるパラメキ城を見つめる。
「今日が私の過去の清算日。きっちりと支払ってみせます」
強い意思を秘めた目をするポプリを見て、肩を叩くと黙って頷いてみせた。
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