異世界で双子の娘の父親になった１６歳ＤＴ－女神に魔法使いにされそうですー

第132話 やっと会えたようです

　ホーラとテツは先行して対岸に渡ったが、パラメキ国がやってくる前のようで姿はなかった。

　そこで事前に２人で相談して目星を着けていた、パラメキ国の魔法部隊か弓兵部隊が配置されそうな拓けた場所を張っていた。

　そして、パラメキ軍がやってくると２人の予想通り、その拓けた場所で魔法部隊が陣を張り出すのを見て、陣ができるのを眺めた。

「ホーラ姉さん、少し仕掛けますか？」

「いや、両軍がぶつかり出してからでいいさ。今、動いたら、山狩りされる可能性がある。それをされたら面白くないさ」

　焦れたテツがホーラにそう聞いてくるが、ホーラは冷静に判断を下す。

　今の状況でもう伏兵がいると分かると冷静に処理され、捕まるとは思わないが撤退する必要が出そうである。

　やはり、戦ってる最中に見えない敵に襲われるというのは恐怖を募らせる。

「でも！」

「まあ、焦る気持ちは分かるさ。でも、それほど待たされる事はないさ」

　ホーラが指差す場所に両軍を隔てる川を繋ぐ橋が見える。

　ナイファ側はどっしりと構えているが、パラメキ側は、すぐに攻められるように隊列を組み始め、後続部隊が陣を形成を始める。

「あの様子だと、すぐに始めそうさ。どうやら血気盛んなのか、馬鹿なのか分からないけど、功を焦ってリホウの策の思うツボさ」

「……リホウさんって何者なんだろうね……」

　今回の策の大半がリホウの発案である。

　リホウは、敵がこちらを舐めて力押ししてくるから、それを力で押せる状況になっても決して押し返すな、と言い、均衡を保たせ、と出発前の軍議で言ってた。

　焦れた所で押された振りをして下がって上流にある堰きとめている水を解放して水攻め、戦力の分断を狙って各個撃破。

　こちらは、兵の損失を抑え、向こうは数も心も削られる。

　ホーラは今だから思う。

　ホーラ達の行動はリホウの予定の内だったのではないかと……

　きっと、いくつか用意してた策の中でホーラ達がこの行動を取るのを前提にしていた策があったんじゃないかとホーラは疑う。

「リホウねぇ……アタイはさ、王都でフリーガンを潰して、戦争の準備に追われている時に話しかけた事があるさ」

　前方のパラメキ国の動向を見ながら、テツの質問に答えるべく口を開く。

　テツもリホウとは、ゆっくりと話した事がなく、雄一を通して信用はしてるが、リホウの事が良く分からず、どういうスタンスで接したらいいか分からずにいたのでホーラに顔を向けて聞く体勢に入る。

　そんなテツに目もくれずに、「耳だけ向けて、目は監視」とテツの頭を叩く。

　慌ててテツが言われた通りにするのを横目で見て、こっそりと溜息を吐く。

「アタイは、アイツの仕事の出来過ぎるのが不思議だったさ。最悪、他国の間諜じゃないかとまで疑ったさ」

　テツが、ビックリし過ぎて「なっ！」と声を上げそうになるのと、目がおサボりしたので遠慮少なめの右ストレートを頬を抉るように入れる。

　ホーラはテツが声なき悲鳴を上げる事で耐えるのを横目で確認すると続ける。

「結論から言うと、それはアタイの勘繰りのし過ぎだったと思うさ」

「それはどういう事ですか？」

　テツは頬を摩りながら、また折檻食らいたくないので辺りを警戒しながら聞き返す。

「アタイはストレートに聞いたさ。正直、腹芸をしても勝負になるとは思えなかったしね。『リホウ、アンタは冒険者じゃなく、国で軍師や宰相を目指したら良かったんじゃ』って言ったらアイツは……」

　テツがこちらに視線をロックしそうになってるのに気付いて、拳を振り上げると慌てて警戒に戻る。

　あの時を事をホーラは思い出す。

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「まあ、やってやれない事もないでしょうねぇ」

　眉を寄せて、嫌そうな顔をしてリホウは頭を掻く。

「だったら冒険者やってるさ？」

「その職業は取捨選択しなくちゃいけない事を迫られるでしょう？」

　ホーラは、「はぁぁ？」と声を出して呆れた顔を見せる。

　リホウはそんなホーラに起こった変化に動揺も見せずにいつものヘラヘラした笑みを浮かべる。

「ユウに振られている仕事も同じじゃ？」

「見た目は似てますね。軍師などは、国を中心に据えた物の考えで、使命とか胸に頑張るんでしょうけど……柄じゃないんですよ。護りたいモノを切り売りしてまで、国をとかね。そういう現実が見えてて、色々と嫌気をさして考えるのを止めて冒険者してたんですがね？」

　そんな時にアニキに出会った、とリホウは何かを思い出すようにして嬉しそうに語る。

「アニキは言ってくれました。『自分が護りたいと思えるモノを全力で護っていい。いや、護ってみせろ』と言われて、どう考えても被害が出ると思ったら？　と問いかけたら『被害が出るのが嫌だったら、頑張ったらいい、全力で足掻いていいんだ』と言われただけでも一杯一杯だったのに……」

「だったのに？」

　話を促したホーラは、とてもレアなリホウを見る。

　いつもヘラヘラとしてて表情を読ませない男が、頬に朱を走らせて戸惑う姿である。

　ジッと見つめてくるホーラに耐えれなくなったリホウは最終手段を取る。

　人差し指を立てて唇にあてる。

「ナイショです」

　そう言うと仕事に逃げようとするリホウを呼び止める。

「一番聞きたい事をまだ聞いてないさ」

　ホーラの言葉に首を傾げるリホウが見つめてくる。

「アンタにとっての護りたいモノって何さ」

　聞きたかった事を理解したリホウは１つ頷くと答えてくる。

「可能性の塊」

　笑みを浮かべて言うリホウに今度はホーラが首を傾げる。

「可能性の塊って何さ？」

「子供達ですよ」

　そう言いながら、ホーラを指差すリホウに反射で投げナイフを投擲する。

　リホウは、「うおっ！」と声を上げて仰け反るように避ける。

「なんで投げるの！　俺、良い事言ったよね？　ちょっと好感度アップで爽やかなお兄さんじゃないの？　今のかなり際どかったよ！」

「レディに指差すだけじゃなく、子供と言う失礼な奴には当然さ」

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「まあ、そう言う訳でリホウは来るべきところに来た、という事さ。ある意味、ユウと同類さ」

「なるほど、一時、リホウさんがホーラ姉さんを見かけると踵を返して去っていたのは逃げてたんですね」

　テツがポロと口にした事にホーラは反応してしまい、テツを凝視する。

　こちらを見つめてくるホーラを横目に「ホーラ姉さん、目がおサボりしてますよ」と言ってやり返す。

　口をへの字にしたホーラが前方に視線を向けると橋の中央で両軍がぶつかり出す。

　ホーラは手加減を意識せずにテツの頭を叩く。

「よし、お待たせの戦いの時間さ。いくよ、テツ」

「ホーラ姉さん、ポンポン叩かないでくださいよ。頭が悪くなっちゃいます」

　泣き事を言ってくるテツにホーラは手をヒラヒラさせて、おざなりにハイハイと答える。

　それを機に緩んだ瞳を引き締めた２人は、得物に手を添えてテツが呟く。

「僕達を脅威だと思い知らせて、動きを封じましょう。そうしたら、必然的に少数精鋭の者を僕達に寄こすはずです」

「そうなったら、ポプリが出てくる可能性は低くないさ。引きずり出すよ、テツ」

　飛び出していくテツを見送り、テツが斬り込んだタイミングでホーラが援護射撃を入れる為に位置取りに木々を飛び回る。

　テツが、最初の男に斬りかかるのを見たホーラは、それに気付いた隣の男にパチンコでヘッドショットを決める。

　ホーラが狙った者がどうなったかも確認の視線すらやらず、テツはそのまま前に駆け出し、魔法を唱える為に固まって集中してる者達の所に飛び込むとツーハンデッドソードを大きく旋回させて、一気に１０人ほどの首を刎ねる。

　そのまま突っ切ると遅れて血のシャワーが起こるが、既にテツはそこにいず、異変に気付いた護衛に雄叫びを上げながらテツは突っ込む。

　護衛の者は盾をテツに構えて、応戦の構えを見せるが真横からホーラに弓で射られて混乱が生まれる。

　その混乱から生まれた崩れた陣形の盾の間をテツが飛び込み、走る勢いを殺さずに薙ぎ払うように斬りつけを数回繰り返す。

　テツはそのまま走り抜けて森に入る。

　護衛の者はテツを追いかけつつもホーラの攻撃を意識しながら森へと入っていくと来た方向から悲鳴が響き渡る。

　慌てて戻ると森に入ったはずのテツが魔法兵に斬りかかり、テツが通った後に転がる死体が２０は超えているのに怒り心頭になり、テツに突撃しようとすると横手から襲いかかる弓矢が狙い違わず、ヘッドショットを決めていく。

　倒れ行く護衛の男の視界に木の枝の上でこちらに弓を構えるホーラを収める。

「あんな、年端もゆかぬ子供に……」

　それがその男の最後の言葉になった。

　それから、ホーラとテツは定期的に同じような事を繰り返し、１０００は居たであろう魔法兵を３割削り、護衛はその倍近い数は１日かけて削る事に成功する。

　この出来事をキッカケにホーラとテツはパラメキ国から発信される二つ名が生まれる。

『戦神の秘蔵っ子』

　と言われ、その名前が独り歩きをする事になる。

　丸一日過ぎた頃、２人はゆっくりと休息を取っていた。

　既に魔法兵達は機能していなく、護衛の兵達も常に神経を尖らせていた為、休息も取れずに色々、限界に達していた。

　僅かなりに、逃亡兵も出ているようで士気はガタガタである。

　今じゃ、小動物が現れるだけで緊張が走り、風による木々の揺れですらビクつく有様である。

　そんななか、仮眠を取っていたホーラは異変に気付き、目を覚ますと正面で木に凭れて寝ていたテツも目を覚ましているのに気付く。

　鬨の声が聞こえ、橋の方に目を向けるとパラメキ軍が橋を渡りきり、一気に攻める為に橋を渡る時間も惜しいと思ったのか川に兵を飛び込ませて進ませる。

「リホウの釣りが始まったみたいさ。本当に予想通りにリホウが言うように釣れたし、後先考えずに川を渡り出したさ」

「まあ、今の川の水位は膝ぐらいですから、問題ないと思ったんでしょうね……」

　そう話しているとナイファ側から閃光弾が上がるのを確認する。パラメキ軍はそれが見えてないのか、気にしてないのか分からないが押せ押せモード継続中であった。

「終わりましたね」

「ああ、初戦はナイファ国の勝利さ。とはいえ、まだまだ油断はできないさ」

　濁流から生まれる音が２人がいるところまで響いてくる。

　そして、濁流にパラメキ軍が飲みこまれていくのを悲しげに２人は見つめた。

　それから、川の水が落ち着きを見せた頃、テツが近くに人の気配がある事に気付く。

　それを聞いたホーラが木の上に飛び乗って確認すると森の獣道を走る少女の姿を確認すると目を細めて呟く。

「見つけた……」

　テツはホーラに何がとは聞きはしなかった。

　ホーラの瞳に怒りの感情が宿っている時点で、誰を発見したなど聞く必要などなかった為である。

　２人は走り出し、その少女の前に廻り込むように駆ける。

　テツ達の接近に気付いた黒いローブを纏う少女は足を止める。

　２人は少女の前に躍り出る。

　その２人を見つめる少女は、泣きそうな顔をするが本当に一瞬で身構えて睨みつけてくる。

　それに合わせてホーラはパチンコを構え、テツはツーハンデッドソートを抜き放つ。

「待ってたさ、ポプリ！　覚悟はできてるか！」

　ホーラは悲しいのか腹立たしいのか分からないまま、ポプリに叫んだ。