第108話 欲しい情報の片鱗が見えたらしいです
老人を問答無用でベットに叩きつけた雄一は、やっと解放されたアクアに避難するように告げる。
解放されたアクアは子供が泣くように部屋を出ていく。
おそらく、魂の友のシホーヌの下へと向かったと思われる。
入れ違いで入ってきたゼクスがヤレヤレと言いたげな顔をして入ってくるのを見た雄一が残念そうに伝える。
「すまん、ジイさんはどうやら俺達の処置が悪かったようで後遺症でおかしくなってしまったようだ」
「ジイはそれが通常なので問題はない、いえ、問題はあるのですが、ユウイチ父さんの処置が悪かった訳じゃないですよ」
どうやら、ゼクスの話を聞いていくと城でもメイドにいつも同じようにしていて、普通の人なら何度死んでるか分からない攻撃を食らい続けていたそうである。
「ですから、今日初めてジイは老衰以外で死ぬ可能性があるんだ、と知りました」
そう苦笑するゼクスを見て、どういう老人か分かったような気がする雄一であった。
すると、首を振りながら起き上がる老人の姿に気付いた雄一は、見つめると老人は怒りの表情を見せる。
「か弱い老人に遠慮もない拳骨をするとは、どこの馬鹿者だっ! 男に叩かれても気持ち良くならん!」
どうやら雄一の想像を更に斜め上に行く老人だったようである。
「お前さん達が捜してた男だよ」
その言葉を聞いた老人は、一瞬で真面目の顔になり、雄一を頭から足までをじっくりと見つめる。
そして、再び、顔に行き着くと鼻で笑い、肩を竦める。
「女子に縁がなさそうな顔じゃな」
「ほっとけっ!」
雄一が魂の叫びを放つと玄関からテツの元気な「ただいまっ」の声が聞こえる。
それを聞いた雄一は、色々聞こうと思っていたが、リホウを混ぜて話を聞こうと切り替える。
「ジイさん、話を色々聞こうと思ってたが、夕食が済んでからにしよう。飯はできたらこちらに運ばせる」
「うむ、食事は先程の娘に運んで貰いたい」
鼻息荒く言う老人を見る雄一は、絶対にテツに運ばせようと心に決める。
老人は、「頼むぞぉ、若いのぉ!」と言うのを聞き流しながら老人を見つめる。
「これだけは先に聞いとく。俺の名は知ってるとは思うが雄一だ。ジイさんは?」
「ワシは、アーサーじゃ」
「いえ、ジイの名前はステテコですよ、ユウイチ父さん」
ステテコが、「ユウイチ父さん?」と首を傾げるのを見たゼクスは、「僕がそう呼ばせて貰ってます」と笑顔で伝えるのを見て、一瞬、眉を寄せるが本名を暴露されたほうが問題だったらしくゼクスに詰め寄る。
ステテコが、ゼクスの肩を掴んで、「坊っちゃん、それはあんまりでございます」とむせび泣くのを雄一は視野外にする。
「じゃ、また、後でな」
そういうと泣くステテコを無視して、ゼクスを連れだって台所へと歩き始める。
ふと、雄一は気になり、隣にいるゼクスに質問する。
「あのジイさんは、何歳からの女が危険なんだ?」
「そのぉ、10歳の子からだと思います」
苦笑気味で答えるゼクスを見つめ、これはホーラ達に警告しておく必要があると雄一は肝に銘じる。
とりあえずは、台所にいるティファーニア、アンナ、ガレットにはよく言い聞かせておこうと若干、早歩きで台所へと向かおうとする。
すると、玄関のほうで、「俺達はこれで失礼します」というダン達とリホウの声が聞こえ、ゼクスと一旦別れて玄関に向かう。
「リホウ、お前にはまだ仕事があるから飯を食っていけ。ダン達も良かったら食っていくといい」
ダン達は嬉しそうに「有難うございます」と言ってくるが、リホウは涙を流しながら、「オシゴト、タノシイナ」と棒読みしてくるが知らん顔をする。
そして、雄一は台所へと戻り、夕食の準備に戻りながら、先程思った警告を少女達にしながら遅れを取り戻す為に料理を急いだ。
寮にある食堂に出来上がった食事の匂いが充満した頃、食堂の入口には欠食児童達が50名以上が溢れかえるようにして雄一達を凝視していた。
それを見た調理班は苦笑をする。
みんなが雄一を見てくるので頷くと手を叩きながら叫ぶ。
「夕食の時間だ。配膳するから、ここにあるトレ―を持って順番に並べ」
雄一はテーブルの上にあるトレ―を指差して伝え、「良し、入ってこい」という掛け声と共に雪崩のように子供達がトレ―の下へと殺到する。
その子供雪崩を避けた雄一は、苦笑しながらチリビーンズの前へとやってくる。
すると先頭の見覚えがある2人を見て、雄一はおかしくてお腹を抱える。
「ユウさん、スープ頂戴っ!」
「ユーイ、早くする」
家の子が一番、食い意地が張ってる事が分かり、逞しいと喜んだらいいのかと苦悩しつつ、言われるがままスープを掬って入れてやった。
順番を乱そうとする者はテツ達に指導、(ホーラとポプリは物理的多め)で体当たり指導をしていた。
どうやら、事前に「いただきます」の指導も済ませてたようで、廻りを見つつ、見様見真似で真似る子達の姿が見られた。
家の子達は勿論、ティファーニアが連れてきた子達にも浸透しているので見本には困らない。
食事が始まると黙々と食べる者や騒ぎながら食べる者などがいるが、余程、暴れない限り放置する。
最初から色々言っても無理があるからである。
美味しそうに食べる子供達の姿を見て、雄一達、調理班で顔を見合わせて笑みを浮かべた。
そして、食事が終わり、片付けの始めるとリホウがやってくる。
「アニキ、そろそろ……」
「ああ、そうだな。悪い、片付けを頼まれてくれるか?」
雄一が頼むと快く了承するティファーニア達とゼクス。
それに感謝を告げると雄一はリホウを連れだって、ステテコがいる部屋へと向かった。
ステテコがいる部屋に着くとドアをノックして返事も聞かずに開ける。
「まったく返事を待つ余裕もないのかの。オマケに飯は坊主に持ってこさせるし……飯は美味かったがな」
ブツブツと「若い娘は寄こさないケツの穴が小さい男じゃ」と言うので雄一は頭を掻きながら言う。
「悪いな、ゼクスに聞いている範囲で想像するにアンタがきっと何らかの情報を持って来てると踏んでて居ても経ってもいられなくてな。後、テツと一緒にスゥも寄こしただろ?」
雄一は、「何が不満なんだ?」とステテコの言いたい事と違う事は分かって言う。
ステテコは慌てるようにして「お嬢様は可愛いがそう言う事じゃないんじゃあ」と叫ぶが溜息を吐くと本題に入る。
「まあ、顔ほど馬鹿じゃないようじゃな。確かにお嬢、ゴホン、女王からの指示で事前に調べたモノは持ち合わせておる」
そう言うと手近にあったカバンを引き寄せると中から書類の束を雄一に手渡す。
受け取った書類を読み進めていき、想像以上の情報の多さに驚きながら一読すると隣にいるリホウに手渡す。
ステテコに渡された情報の中で特に気になった事を聞く前に情報の確度を確認する。
「どの程度、信頼できる情報だ?」
「10割じゃ! と言えたら格好が良いんじゃが、噂の領域を抜けない情報もだいぶ含まれておる。何せ、実質、ワシ1人で集めたようなもんじゃからな。裏が取れてる話となると2割といったところかの」
悔しそうにステテコは言うが、老人1人で集めたというのは驚愕の事実である。例え、これが全て噂話だとしてもだ。
少し残念そうにした雄一は、駄目元で確認を取る。
「この書類に書かれている捕まえた人を集めた場所というのは、奴隷目的で集められた人と言う事か?」
「そうじゃ、ただ、それは噂話の領域の話じゃ。あの辺りで悲鳴を時折聞くという話が多いのは事実じゃ。噂話では獣人を連れてその森の奥へと消えたという目撃情報もあるが、裏は取れておらん」
それを聞いた雄一は腕を組んで目を瞑り、眉間に力が入る。
すぐに飛び出したい衝動と戦う雄一を隣で見ていたリホウが声をかけてくる。
「アニキ、気持ちはわかりますが……」
「分かってる。下手に動けば、ミュウの親だけでなく、今後も他の誰かに被害が及ぶという事はな」
雄一は深呼吸をして、眉間に入った力を抜く。
「リホウ、この情報をミラーに伝えた後、この資料をエイビスに届けて裏を取らせろ」
「はい、またダン達に配達を頼むとします」
雄一が冷静に判断してくれたと理解したリホウは安堵の溜息を零す。
話が纏まったと見取ったステテコは目を細めて雄一に問いかける。
「つまり、これでワシの願いは聞いて貰えると判断して良いか?」
「頼まれなくても、ゼクス、スゥ、女王も救うつもりだったがな」
ステテコは、雄一の言葉を被り振る。
「そういう事じゃないのじゃ、これを受けるという事は女王の願い、この国を救うという事になるのだが、分かっておるか? 女王、坊っちゃん、お嬢様を助けるという意味をという事じゃ」
雄一は不敵な笑みを浮かべると当たり前のように言う。
「ゼクスとスゥと女王を助けるついでに国も救ってやる」
雄一の物言いを聞いて目を丸くするステテコであったが、噴き出すと声を上げて笑い出す。
「くっくく、面白い事を言う男じゃ、国がついでとは……頼むぞ、ノーヒットDT!」
「二つ名で俺を呼ぶなっ!」
雄一は、リホウとステテコに笑われて怒り狂うがすぐに諦めたように溜息を吐く。
「まあいい、リホウ、その裏取りと準備を頼むぞ、ジイさんは、この家に居る間はこき使ってやるから覚悟しとけよ!」
そう言うと雄一は大股でステテコの部屋を出ていく。
それを苦笑で見送ったリホウは、ステテコに目を向けると話しかける。
「女王への伝言があるなら承りますが?」
リホウはエイビスに送る手紙にその連絡を取る願いも付け加えようと考えて質問をした。
言われたステテコは、目を大きくして驚いた後、静かに頭を下げる。
「すまん、女王には、坊っちゃんもお嬢様もワシも無事だと、もうしばらくのご辛抱をとお伝えくだされ」
リホウは静かに胸に手をあてて礼をする。
「承りました。それとアニキは有言実行する人なんで大船に乗った気分で見守ってください。後、アニキがさっきのように言ったからには本当にこき使われると思いますので頑張ってくださいね」
そう言うと苦笑いをしたまま、リホウは部屋を出ていく。
「ふんっ、邪魔じゃからと言って部屋に閉じ込められるより、ずっとマシじゃ」
と憤慨するが早速、明日から若干後悔するステテコの姿が見られる事をステテコは夢にも思わず、ベットに横になって明かりを消した。
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