第74話 みんな発展途上だそうです

 3人を連れて帰ってきた雄一は、シホーヌとアクアに泥のように眠るホーラとポプリを預ける。


 雄一は、同じように眠るテツを米を担ぐように肩に載せる。


 ホーラを抱えてヨタヨタするシホーヌが思い出したかのように言ってくる。


「そう言えば、お髭を汚く生やしたオジサンがユウイチを訪ねてやってきたのです」

「ああ、おっさんか。手続きの準備ができたって?」

「ええ、その通りですけど、オジサン、おっさん、て……確かアレクさんじゃないのですか?」


 名前を言わないでも誰の事を言っているか、お互いが理解できるという酷い話だと思ったようでアクアがコメカミに汗を流して言ってくる。


「でも、オジサンにオジサンって言ったら嬉しそうにしながら、「今度、オジサンとご飯食べに行かないかい?」と言ってきたので問題ないのですぅ」


 シホーヌは、女に見境がないなと苦笑する雄一に「目がえっちぃかったから、断ったのですぅ」と言うのを見て、一応はシホーヌにも危険意識は僅かなりにある事を知って驚く雄一。


「私にも、「今度、一緒に酒でも飲みに行こう」と誘われましたが勿論断りました。


 アクアの話だと舐めまわすように視線を上下させるのを誤魔化さない辺りは、評価するが気持ち悪かったと言ってくる。


 雄一は、心の中で、おっさんは自分に素直に生きているだけで悪い奴じゃないんだ! と擁護する。

 自分でも何故してるのか分からないが、そうしなければという使命感が背中を押した。


「まあ、学校を作るうえで俺が必要なところまで仕事が進んだようだな。本当に見かけによらず仕事はできる、おっさんみたいだ」


 窓から見える空の色を見て、今から行っても夕飯には帰ってこれそうだと判断した雄一は2人に伝える。


「じゃ、俺は、テツをベッドに放ってきたら、おっさんに会ってくる。夕飯までには戻れるとは思うが、あんまりにも遅くなるようだったら出来合いの料理を買って帰る」

「はい、分かりました。ところで今日の夕飯の予定はなんだったんですか?」


 雄一は、パスタがメニューの予定だった、とアクアに伝えるとポプリを抱えたまま雄一に迫ってくる。


「主様、頑張って帰ってきてください。なんとしても夕飯を作る時間があるうちに!」


 アクアの迫力に圧される雄一は、うんうん、と首を縦に振る。


 パスタはアクアの大好物なのである。


「さっさとテツを置いて行ってくるわ」


 そう言うと雄一は、テツの部屋に行くとカバンを放るようにテツをベッドに放り投げる。


 強い子のテツはその程度の衝撃で目を覚ます弱者ではなかったようで、気持ち良さそうに寝がえりを打つのを見て雄一は家を後にした。





 商人ギルドに来ると安定のアレクの前には客はおらず、他の受付は満員御礼である。


 初めに来た時は気にしてなかったが、外でたむろっている面子が少なからずいる。


 中で商談が済むと出てくるとそのたむろっている奴らに終わった事を告知している姿を目撃した雄一は、カラクリを理解してしまい、おっさんの為に涙してみようかと悩んだりした。


 つまりアレクの所には、飛び込みの客か、急ぎの客ぐらいしかやってこないからいつも暇らしい。


 雄一が、商人ギルドにやってきた事に気付いたアレクが、雄一に向かって手招きをしてくる。


 それに抵抗せずに近寄り、アレクのカウンターの椅子に座る。


「シホーヌ達から俺と連絡を取りたいという話を聞いたが、手続きがだいぶ進んだのか?」

「ああ、許可書のほうはサインを入れて貰ったら終わりのところまで済ませてある。ただな……聞き忘れてたというか、建物の希望の造りは聞いたが齟齬を減らす為に画師にイメージ画を書いて貰うか? というのを確認してなかったなと」


 「少し金がかかるが、どうする?」、と声だけで確認をしながらカバンから、おそらく許可書の書類を取り出してカウンターに置く。


「そうだな、俺もいつ街にいるか分からないから、大工などと話をする時に円滑に進められるだろうから書いて貰えるようにお願いしておいて貰えるか?」

「分かった。明日の朝にそちらに画師を寄こすから擦り合わせをしておいてくれ。後、この書類にサインを頼む」


 カウンターに置いた書類を雄一の前に滑らせてくる。


 雄一は、書かれている内容を一読すると10枚近くあった書類にサインをする。


「よし! 書類関係で、お前さんの手を煩わせる事はもうないだろう。後は、任せて置いてくれ。画師の絵が届いたら俺が見繕ってる大工と仕事の打ち合わせを進めるが問題ないか?」


 アレクの言葉に雄一は頷く。


「俺からの連絡はこれで終わりだが、お前さんから何か聞きたい事があるか?」

「いいや、今の所ないな」


 雄一の返事にアレクは、「聞きたい事や、進捗状況が知りたかったら、いつでも来てくれ」と伝える。


 雄一は、最後に伝える。


「結構、今、忙しいから、画師には早めに来てくれ、と伝えて置いてくれるか?」


 アレクが頷くのを確認した雄一は、「また来る」と伝えると商人ギルドを後にした。





 商人ギルドで簡潔に話を進めたつもりだったが、思ったより時間が過ぎている事に気付いた雄一は急いで帰り、夕食の準備に取り掛かる。


 お腹を空かせた面子が台所を覗きに来る姿に苦笑しながらテキパキと料理を作り続ける。


 パスタ料理を作り終えると各自の皿に盛っていく。


 今日は手早く、ナポリタンにしてみた。


 先程から特にうろうろしていたアクアが完成したのに気付いたようで盛られた皿を嬉しそうに食堂へと運び出す。


 食卓に各自の皿が並び終わるとまだ眠そうにしている3人、テツ、ホーラ、ポプリもテーブルに着く。


 いただきます、とみんなですると、いの一番にアクアがフォークを握ると嬉しそうにパスタを食べ始めるのを苦笑しながら見つめる。


 お腹を空かせていたのは、みんなだったようで隣の席のミュウは口元をケチャップで真っ赤にしているので、雄一が布で拭いながら3人に声をかける。


「明日の朝は俺が動けないからテツ達は、冒険者ギルドでスネ湖の常駐依頼があったはずだから受けて準備をしておくようにな?」


 学校のイメージ図を書く為に画師がやってくると伝えると納得した3人が頷いてくる。


「そのぉ……学校の話は、だいぶ前に進んでるのですか?」


 そう聞いてくるポプリに頷き肯定して、「書類関係は終わり、画師との話が終われば、工事の準備が始まるらしい」と伝えると3人は嬉しそうに顔を見合わせる。


「そうとなればぁ、ご飯を早く食べて明日の準備を!」

「アタイ達もノンビリしてられないさ」

「ユウイチさん、おかわりありますか?」


 3人の気持ちは理解できるが、雄一は言うべき事は、はっきり伝える。


「急いで食わないでも寝るまでに充分、用意する時間がある。だから、しっかり噛んで食えっ!」


 皿を持ちあげてたテツの皿を受け取りながら嘆息するとアクアも照れた顔をしながら皿を差し出してくるのを受け取ると雄一は台所へと戻っていく。


 そんな雄一の背中を見つめて3人は顔を見合わせて勢い込んで空回り気味である事に気付いて照れ笑いを見せ合う。


 おかわりを持って帰り、2人に渡すと、ちっちゃい3人がお腹が膨れたせいか、ウトウトしているのに気付いた雄一は、食べ終わってお腹を摩って幸せそうなシホーヌに、


「3人を風呂に入れて、寝る準備してやってくれ。俺はまだ洗い物があるから」

「分かったのですぅ、アリア、レイア、ミュウ、お風呂にいくのですぅ」


 目を擦る3人は、渋々といった風にシホーヌの後ろを着いていくのを笑みを浮かべて見送る。


「私も食べ終わったら行きますので、お願いしますね」


 アクアが、シホーヌに声をかけると手を振って、「待ってるのですぅ」と風呂のほうへと姿を消した。


 そして、食べ終えた3人は、ごちそうさま、と言うと急いでない自分を演出しているようだが、早歩きになってるのに気付いた雄一は、ヤレヤレと肩を竦める。


「3人とも、少し大人になったと思わせるところもあったりしますけど、やっぱりまだまだ子供なところがあって可愛いですね?」


 言ってるセリフは、お姉さんぽくて良いアクアだが、口許をケチャップで赤くしているので、お前もしっかりしろよ? と心で思うだけで留める。


 軽く肩を竦める雄一は、ミュウにしたようにアクアの口元を布で拭ってやるとアクアが顔を真っ赤にする。


 アクアは、口元を汚さないように意識をしつつも早く食べ終わらせると、ごちそうさまをする。


 テツ達とは違い、急いでるのを隠さずにシホーヌを追うように風呂へと小走りして行く。


 それを見送って1人になった雄一は嘆息しながら食器を片づける。


「さてさて……誰が最初に大人だな、て言われるようになるんだろうな? 意外にアリアが最初だったりしてな?」


 想像しただけで面白くなってきた雄一は、必死に笑いを堪えるようにして、食器を抱えて洗い物をする為に台所へと向かった。

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