第21話 ミュウはミュウらしいです
ピンクの塊、正確に言うなら、ピンクの長い髪が地面に付きそうなぐらいあって、背中全体を覆うようになっているから、そう見えている、
おそらく少女、腰蓑だけしか付けてなく、上半身丸裸だが、幼すぎて判別が困難だが、可愛らしい顔つきから、そうじゃないのかと雄一に判断させていた。
ピンクの髪の頭頂部に、同じ色の柴犬のような可愛らしい小さな耳が見え、唸る口許には犬歯らしきものが見えるところから判断するに、獣人の子じゃないかと思われる。
唸るピンクの少女にどうアプローチを取ったらいいか分からない、雄一はとりあえず、トットトと舌を鳴らしてみたが、逆に警戒されたように眉を寄せられる。
ならば、チッチチと鳴らすという、先程の失敗を鑑みて、打ち直した手だというには稚拙な行動をする雄一だが、本人もどうしたらいいか分からなくなっているのである。
だが、それが功を奏したのか、ピンクの少女は、ガウゥ? と言いつつ、首を傾げると、雄一の指先を嗅ごうとするように近づく。
なんか分からんが上手くいったと思わず、ニヤっと笑った為、舌を鳴らすのを止めるとすぐに距離を取られ、慌てて鳴らし始める。
先程より、警戒気味ではあったが気になるのか雄一の指へと近づいてくる。
雄一の指先を嗅ぎ始めるのを見た雄一は、その手を少女の顎下に手を這わせ、ネコにするように擽りだす。
すぐに、これはネコにする方法だと気付くが、ピンクの少女が気持ち良さそうに目を細めるのを見て、
「よく分からん子だな?」
そのまま、擽りを続行していると、ピンクの少女の視線がある一点に向かって、ジッと見ている事に気付く。
雄一の左肩にかけるように持っている風呂敷に、目を奪われているようだと気付いた雄一は「なるほど」と呟く。
風呂敷に入っているロールパンを取り出し、ピンクの少女の鼻先に差し出してみる。
ロールパンをクンクンと嗅ぎ出すと、雄一の手からロールパンを奪い取ると迷いを感じさせずに、ロールパンに齧りつく。
齧りついた瞬間、目を大きく見開き、雄一を見つめながら、ピョンピョンと跳ね出す。
今朝のアリアを思い出す姿に、苦笑を浮かべる。
見た感じも、アリアと年頃が同じように見えるから4歳ぐらいであろう。
ピンクの少女は、ロールパンを咥えながら、雄一の背中に廻り込むと背中から登り始める。
登ってきたピンクの少女は、ガウガウと楽しそうに歌うように肩車の体勢で落ち着き、ロールパンを美味しそうに食べだす。
「やっぱり女の子か」
ガゥ? と雄一の顔を覗き込むピンクの少女に、なんでもないと苦笑する。
雄一は、ピンクの少女を肩車したまま、立ち上がり、「ふむ」と1つ頷くと頬を掻きながら呟く。
「餌付けに成功してしまったようだ……さっきから、ガウガウとしか言わないけど、獣人は話せない種類がいるのかな?」
「がぅ? ミュウは、話せる」
独白のつもりで呟いていた雄一は、今日一番の衝撃を受けたように慌てて、ビクッと体を揺らすが、ミュウは楽しそうにするだけで雄一の肩車を維持し続ける。
「びっくりした、話せるなら助かる。俺の名前は雄一。お前の名前はミュウでいいのか?」
「ミュウはミュウ。お前は、ユウチ?」
雄一は、「違う、ユウイチ」だと区切りながら伝えるが、しかめっ面しながら、一生懸命に何度も言おうとするが、飽きたのか止める。
「がぅ、分かった、ユーイ、覚えた」
「そこに落ち着いたか……まあいいか、で、話せると分かったから聞きたいんだが、なんで俺を襲おうとしたんだ?」
ミュウは、可愛らしく、ガゥ? と首を傾げて、何かを考えるような仕草をすると、思い出したのか、ペシペシと雄一の頭を叩きながら嬉しそうに言ってくる。
「ユーイ、強い。だから、戦いたかった」
「はぁ? 戦って勝てる自信あったのか?」
こんな子に襲われて、雄一が攻撃できたとは思えないが、ミュウはそれなりに戦えるだろうが、雄一の敵には成りえない。
「がぅがぅ、勝てない。でも、ユーイ、ミュウ殺さない。ユーイ、優しい、パパみたい」
ミュウは嬉しそうに雄一の頭にガシっと抱きつき、雄一の頭に頬ずりをする。
本能的に、雄一の強さと気性を見抜き、遊ぶ感覚でやってきたようである。
だから、ミュウは不意打ちなど、少しでも有利な戦法を取らずに真正面から来たのかもしれない。
雄一は、苦笑をしながらミュウに話しかける。
「そっか、なら、ミュウのパパとママのところまで一緒に行こう」
先程まで嬉しそうに騒いでいたミュウが、シュンとしたように静かになる。
雄一は、不思議に思い、ミュウの様子を見ようとするが、どうやら、雄一の頭に顔を埋めているようで、ピンクの髪しか見えなかった。
「パパ、ママいない。沢山の人間に連れていかれた」
雄一は、ミュウの言葉に絶句する。
持ち直した雄一が、思わず、何故? と問いかける。
「がぅ、ミュウ、分からない。ここと違う森でパパとママと一緒にいた。突然、人が一杯来て、パパとママが捕まった。森で遊んでて帰ったら、ミュウも捕まりそうになった」
雄一は、ミュウの話を聞きながら、まさか、と思い、異世界知識に問いかけるように、奴隷について、と思考する。
トトランタに来て、まだ短い期間ではあるが、奴隷がいる世界のように見えなかったから油断していたが、異世界といえばテンプレのように奴隷は存在する。
雄一は祈るように、結果を待ち続ける。
『トトランタには、奴隷を認める法は存在しないのですぅ』
その解答を得た雄一は、ホッとするが、その間隙を突くように続きの言葉が繋げられる。
『認められてないだけで、非合法な奴隷と同等、もしくは、それ以下の扱いをされる者、する者が存在するのですぅ。それは、決して少ない数ではない数が存在するのですぅ』
雄一が、異世界知識に問いかけている間も、ミュウの独白は続いていた。
「捕まりそうになったミュウを、パパは泣きそうな顔をして、遠くに飛ばすように蹴った。飛ばされたミュウは、川に落ちて、目を覚ましたら、この森の近くの川にいた」
パパ、ミュウにゴメンって言ってた、と雄一の髪を強く握るのが伝わるがなんて声をかけたらいいか逡巡する。
一度、目を瞑り、一息吐くと雄一はミュウに語りかける。
「じゃあよぉ? パパとママが迎えに来るまで、家に来るか?」
「ユーイの家?」
おお、そうさ、と意識して笑顔を大きくしてミュウに語りかける。
「家にきたら、今、食ってるモンより、美味いご飯が食えるぜ?」
「ミュウ! ユーイの家に行く!! そこで、パパとママを待つ」
雄一の肩から先に出てるミュウの足が、弾むようにピコピコ揺れるのを見て、微笑む。
自分がしてやれるのは、刹那的な安寧だけかもしれないが、与えられるモノは与えてあげたいと雄一は、独善と知りつつも実行する事を決める。
「じゃ、さっさと終わらせて、帰るか……とはいえ、さっきからなかなか前に進めないんだよな?」
「ユーイ? 何を困る? ユーイ、この森で一番強い。ユーイ、すぐ行けばいい」
表情は見えないが、きっと首を傾げてるのだろうな、と雄一は苦笑しながら説明する。
「実はな? 戦う訳にはいかないんだよ。戦わずに、森の奥にある泉の傍にあるリンゴ、赤い実を採りに行かない駄目なんだよ」
雄一の言葉に、ガゥ~と弱ったような声を上げるミュウの様子にきっと理解できないんだろうなと思うが、上手く伝える術が思い付かない。
「ミュウ、ユーイの言う事、分からない。敵がいない道を通りたいでいい?」
「おお、そういう事なんだけど、さっきから行く道、行く道で出会って困ってる」
分からないなりに、必死に相手の言葉を理解しようとするミュウが可愛くて、手を伸ばして頭を撫でてやる。
撫でる雄一の手を掴んで頬ずりしてくるミュウに、くすぐったいと笑いながら言うと今度は舐められて余計にくすぐったくて身を捩って「もう許してくれ」とミュウに降参する。
「ユーイ、ミュウが、泉まで案内する。ミュウ、敵がいるかいないか分かる」
「マジか? 言われてみれば、分からなかったらミュウが、この森で生活するの大変だっただろうしな」
そうだ、と言いたげに、ガゥと雄一の頭をペシペシ叩くと前方を指を指す。
「ユーイ、こっち」
「おう、頼むな、ミュウ!」
ガゥゥ、と機嫌良さげに鳴くと雄一の頭にしっかり掴まって、足をピコピコさせる足を雄一がしっかり掴まえて、ミュウに案内されるままに森の奥へと歩き始めた。
それから、ミュウにガゥと声をかけられて、指差される方向へと素直に歩いていると本当にモンスターに出くわさずに泉に到着する。
「マジで、モンスターに会わずにこれたぞ……」
ガゥガゥと誇らしげに鳴き、雄一の肩の上に仁王立ちする。
雄一は、ミュウの腰を両手で掴んで正面に下ろすと、抱き締めて頬ずりしながら髪を乱暴に撫でる。
「エライぞっ! ミュウ!!」
ミュウは嬉しそうに、大きめな声で、ガゥと一鳴きすると、雄一の肩をガブりと噛むと雄一の悲鳴が響き渡った。
雄一はミュウに噛まれた所を撫でながら、ミュウは嬉しかったり、興奮すると噛む癖がありそうだと、心に戒めたらしい。
再び、ミュウの定位置になり始めた雄一の肩にパイル○ーオンしたミュウを確認すると、辺りを見渡し、ンゴを捜すと泉の畔にあっさりあるのを発見する。
沢山、実っているので、持って帰る分以外にも、雄一達が食べる分も採る事した。
ブレザーのポケットにリンゴを1個ずつしまい、早速ということで泉でリンゴを2つ洗い、一個を肩車されているミュウに渡し、雄一も被り付くと、目の端に妙に気になるものを発見する。
苔塗れになっている石像を発見する。
近づいて見てみると、どうやら、女性をモチーフにした石像のようである。
石像といえ、女性が苔塗れであるのは可愛そうに思った雄一は、風呂敷を水に浸して、洗ってあげようと思い、水に浸そうとした時に気付く。
肩車をしているミュウを見上げると、危なかった、と呟き、ミュウを一旦地面に下ろすと、風呂敷を半分に切り、胸に巻きつける。
サラシを巻いたように見える姿になると、ミュウが嫌そうに風呂敷を剥がそうとするので止める。
「ミュウ、慣れなくて嫌かもしれないが、我慢して巻いておいてくれ」
「がぅ、どうして?」
どうすれば納得すると、音速を超える光速で思考を纏めると雄一は言葉を紡ぐ。
「ほら、俺も胸を出してないだろ? 街じゃ、服を着るものなんだ。いきなり全部着るのは辛いだろうから、ちょっとづつ慣れような?」
「がぅ、ユーイ、困ってる。分かった、我慢する」
しょぼん、としたミュウが、のそのそと雄一の背中によじ登る。
巻いた俺が、悪いみたいに心を締め付けられるが、街で住む以上、必要に駆られる事だと自分に言い聞かせる。
思い出した発端が、あの格好のまま、家に連れて帰ったら、死刑宣告を受けると恐れたとは墓まで持って行くと雄一は心に秘めた。
気を取り直して、風呂敷の残りを水に浸して、女性像を磨きにかかる。
結構しっかりこびりついていると、磨き始めて理解した雄一は、腕まくりをして気合いを入れて磨き始めた。
小一時間経過した頃、雄一は、泉で頭を洗っていた。
いきなり、頭を洗っているかというと、磨き終えて汗を掻いたというのもあるが……
「ミュウ、人の頭の上で食べ物を食べる時は、こぼさないように気を付けるんだぞ?」
「がぅ、ごめんなさい……」
ミュウが食べていたリンゴの汁が落ち過ぎて、ベタベタになってしまったからである。
しょぼくれるミュウを横目に見ながら頭を洗いながら苦笑する。
「怒ってるんじゃないんだぞ? 次から気を付けてくれって言ってるだけだ」
「ユーイ、怒ってない?」
おう、怒ってないぞ、と頭を洗う手を止めて、そちらに向かって笑いかけてやると、ガゥガゥと嬉しそうに鳴くと、泉に腰を曲げて頭を洗う雄一の背中に乗って抱きついてくる。
雄一は、ヤレヤレと苦笑しながら頭を洗うのを再開する。
自分は甘いのかな、と考えながら洗っていると、
「有難うございます。ユウイチ様」
ミュウの声とは思えない女性の声に、雄一は、頭を洗う手を止めて固まった。
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