第16話 俺は試されるようです

 サリナの呼び声に応えるよう、店の奥から出てきたモノに、ホーラは引きつけを起こすように、ヒッと声を上げる。


 サリナより、とても豊かな胸を惜しげもなく晒し、踊らせる。


 サリナの胴ぐらいの幅がありそうな、二の腕を強調するように、こちらに見せつけてくる。


 踵を浮かせて、エアーハイヒールをするように、シナを作りながらモデル歩きのやや腰を振り過ぎ、いや時折、前に振る意味が分からない、分かりたくない。


 剃髪のスキンヘッドは鏡のように輝き、モッコリさせた赤パンツが目に優しくないモノが近寄ってくるのを見た雄一は、泣きそうなホーラを庇いながら高らかに叫ぶ。


「チェ―――ンジでお願いします!!!」


 雄一達の前に優雅に現れてたのは、パンイチのまごうことなき、マッチョだった、そう、マッチョの漢だった。


「一品モノなので、お断りします」


 問答無用のにこやかさで、サリナは、雄一の要望を却下してくる。


 雄一は、クッと唸ると、ホーラを守るようにして身構える。


 逃げたいが、後ろにはホーラがいると自分を叱咤する。


「あら、お客様?」


 まず、ホーラを見つめてから、雄一を見つめた。


 激しく気のせいだとは思うのだが、雄一を見つめた時に頬に朱が、走ったように見えたのはきっと光の加減によるイタズラであろう。


「ミチルダさん、冒険者ギルドのミラーさんのご紹介のようです」

「ミラーの?」


 怪訝な、というより、嫌いな食べ物が食卓にある子供のような顔をしたミチルダは、再びホーラを見て、雄一を見て頬を染める。


「何故か、認めたくない現象がここにきてから、連続で2度あった気がするんだが……」

「そんな事はいいのよ。貴方達、いえ、そこのプリティボーイがアタシに用があるのよね?」


 必殺の流し目を食らって、本当に召されようとしたが踏ん張る。


 これでも雄一は身長が190cm近くあるから、可愛いと表現された事など、小学生以来である。


 目の前のマッチョは確実に2m近くあるから言えるセリフなのだろうが、凄まじく記憶からデリートしたい。


「いや、一切ないぞ? あるのは、サリナさんに……」

「そんな事はいいのよ。貴方達、いえ、そこのプリティボーイがアタシに用があるのよね?」


 なんだと、返答がループしただと? 呟き、慄く雄一は意を決して貫く。


「いや、だからな? サリナさんのふくよかなオッパイに用が……」

「そこのプリティボーイがアタシに用があるのよね?」


 どさくさに紛れて、本音が漏れたが雄一は気付かず、ミチルダに用はないと言い放つが、またもや、会話をループさせる。


 頭を抱えるホーラと頬を若干赤くさせて、腕で胸を守るようにするサリナに気付かず、これは伝説のアレかと、再び慄く。



『ねぇ、パフパフして行く?』


    はい

  ⇒ いいえ


『そう、残念ね……』

『で、パフパフして行く?』


 ……



 つまり、⇒ はい、を選ばない限り、ループする無限ループに突入したのかと、後ずさりして、ホーラの手を取り、脱兎の如く店の出口に走ろうとしたが、目の前には、あの漢がいつの間にか廻り込んでポージングをしてお出迎えしてくる。


「動きが見えなかったさ……」


 ホーラは捉える事ができなかったようだが、雄一は直前の動きだけは目の端で捉える事に成功した。


 ミチルダは、ポージングをした格好のままで横滑りするようにして、雄一達の前に現れたのである。


 雄一ですら、霞むようにやっと捉えただけで、ホーラに見えなかったとしてもしょうがない。


「そこのプリティボーイがアタシに用があるのよね?」


 雄一は額に汗を滲ませながら、男らしく、決断した。


 ⇒ はい

   いいえ


 トトランタに来てからの初黒星の瞬間であった。



「なるほどねぇ、つまり見栄えがする使える武器が欲しいのね?」

「間違いではないが、俺は、あのオッパ……サリナさんが造った武器が欲しいんだ」


 ユウ? と半眼で睨む少女こと、ホーラが全体重をかけて、足を踏んでくるが軽過ぎて痛くも痒くもない雄一は、ニヤリと笑う。


 すると、剣呑な雰囲気を漂わせたサリナがホーラに槌を渡す。


 頷いて受け取ったホーラは、雄一の足を狙って、迷わず振り下ろす。


 ドワァ! と情けない声を上げて跳び避ける雄一を見て、舌打ちする少女が2人いた。


「サリナの? 確かに、そろそろ、誰かの為のオンリーワンの鍛冶をさせる頃かな? て思ってたから、私とサリナの武具を付けるわ。ただし、条件があるわ」


 器用に綺麗にウィンクを決めてくる辺りが、このマッチョは只者じゃないと雄一は戦慄しながら「条件とは?」と問いかける。


「私が出す試験で合格する事」


 ミチルダはそう言うと、店の奥へと向かい、ある武器を持ってくる。


 その武器に物凄く見覚えがあり、びっくりする。


 とはいっても、雄一も詳しい訳ではないが、テレビを見ていたら、何かと良く見る機会があった武器が登場した為である。


 ミチルダは、その武器を雄一に手渡す。受け取った雄一は、武器から目を離して、ミチルダを見つめて口を開く。


「これは、刀か?」

「ええ、そうよ。抜いてみて」


 言われるがままに抜く。


 鞘からゆっくり抜こうとするが、一瞬の強めの抵抗を感じさせるが、それを通り過ぎると先程の抵抗が嘘のように滑らかに抜ける。鞘走りの音が鈴を鳴らすよう音色を聞かせる。

 切断面にあたる日光が虹色に輝き、抜く動作で、刃を渡る雫のように流れていく。その刃に写される刃紋は美しいが、雄一は、抜いた刀を構えて、首を傾げる。


「なんで、切断面が反対側なんだ?」


 本来の位置には刃はなく、構えた本人側に刃があった。


「これは、逆刃刀というの。これを持って、1人で北の森の更に奥の深き森と言われる場所の泉になるリンゴを取って帰ってくる事よ」

「待ってください。あの森は、3の冒険者パーティでも油断すると全滅する森に、1人で行けというは自殺行為です!」


 血相を変えたサリナがミチルダに警告を発するが、サリナに取り合わないミチルダは雄一に「どうする?」と問いかけてくる。


 問いかけられた雄一を心配そうに見つめるホーラの頭を笑顔で撫でながら、迷いのない視線を向ける。


「そんな聞き方されて、ケツ捲る奴は男じゃねぇーよ。いくさっ」


 挑まれた事を受けて立つと、獰猛な笑顔をミチルダに叩きつける。


 それに笑みを返しながら、最後の言葉とばかりに雄一に伝える。


「プリティボーイ、忘れないで、これは依頼じゃないわ。これはアタシからの試験だという事を」


 そう言われて、雄一は「オウ!」と返事するとホーラを連れて、『マッチョの社交場』を後にした。

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