第11話 眠れる獅子かもしれません

 ホーラを迎えた次の日の朝、何やら気配を感じて目を薄らと開けると、そっと扉を開けて入りながら目を擦るアリアの姿を確認した雄一がそのまま寝たフリを続ける事した。


 すると、アリアはベッドによじ登ってこようとするのに口許が緩みそうになるが意志の力でねじ伏せる。。


 足元からよじ登ったアリアは雄一の足の辺りから侵入してくる。


 そこから、ほふく前進するアリアが目的地到達とばかりにシーツからひょっこり顔を出す。


 顔を出した瞬間、目を覚ましている雄一に気付くが、そんなの関係ない、と言わんばかりに眠そうに、にへら、と笑うと瞼が徐々に落ちていき、雄一の逞しい腕を枕にして気付けば寝息を立てていた。


 その様子に苦笑いを浮かべた雄一は、チラッと窓の外を見る。


 まだ起きるには少し早い時間のようであるが寝るには少ない時間だと悩む雄一であったが、天然のカイロ、アリアの暖かさに負けて「後、5分だけ」と言って眠りについた。





 雄一は顔を洗い、台所にくると朝食の献立を考えていた。


 朝は時間が惜しい、時間との戦いだとパンダのように左目の周りが少し黒くなっている雄一は、気合いを入れる意味でもエプロンの紐をキツ目に締める。


 正直に言おう、思いっきり雄一は寝坊した。


 だいたい、後5分とか言って、本当に起きる奴なんていない!(決めつけ)


 腹を空かせた2匹の獣が雄一の部屋へと乗り込み、シホーヌにはボディープレスを仕掛けられ、跳ね起きた所を狙うようにレイアの右拳が雄一の顔を打ち抜く。


「この変態がぁ――――!!」


 そのコンビネーションにもがく雄一に2人は無情にも「お腹が減った」と騒ぎ、蹴り出されるように食事の準備にやってきたのである。


「レイアの右は世界を獲れるな……」


 ふっふふ……と笑みを洩らしながら朝から馬鹿な雄一は、食糧庫にある山芋を取り出しながら思う。


 さすがにこの山芋を食べきる前に、駄目にしてしまうかもしれないな、と思うが、どうしても山芋を一気に消費させるのは、難しいなと見つめる。


 勿論、下ろすなりして、そのまま、がっつりと生のまま頂くのが、一番手っ取り早いがそれは、この季節には少々辛いし、味気ない。


 山芋はどうしても調味料的な使い方が多い為、一回の消費量が少ない。


「朝は山芋のスライスをバター醤油でソテーして、昼は山芋のお好み焼きにして消費してしまうか」


 オーブンがあったら、山芋のチーズ焼きもいけるんだがな……と愚痴りながら雄一は山芋を片手に台所へと戻って行った。



 食事が済んで、ホーラの問題解決を図る為に、庭で相談と適性を見ようという話になり、雄一とホーラに庭へと向かいながら、今日の朝食で思った事を考えていた。


 山芋のソテーも好評で、特にレイアがもっと食べたいと、騒ぐほど受け入れられた。


「昼に山芋のお好み焼きだから、足りないぐらいがいいんだぞ?」


 と説得して、右腕に噛み跡をつけられるという代償で、引き下がらせる事に成功する。


「俺って本当に料理が上手かったんだな。誰かに作った事なかったから気付かなかったな」


 作る料理を毎回、好評で2匹の獣がどんどん凶暴になってきてるところを目を瞑るなら、正直に嬉しく笑みが漏れる。


「はぁ? ユウは、あの双子とシホーヌに、今まで作ってきたんじゃないのさ?」


 ユウ? と雄一が聞き返すと、ホーラが「ユウイチって言い難いからいいでじゃない」と、そっぽ向きながら言ってくるので「まあ、いいか」と受け入れた。


 言われてみれば、ホーラには話してなかったな……と呟くと、どう話すか頬を掻くが、説明できる自信がない雄一は事実だけを伝える事にする。


「あの3人とあったのは3日前さ、ホーラに会う前の日に初めて会った」

「え? シホーヌと夫婦で、双子はユウの娘じゃないの?」


 雄一は「違う違う」と手を振りながら、苦笑いする。


「血縁関係で言うなら、レイアとアリアだけがあるだけで、俺達はまったくの赤の他人だ」

「なら、どうして一緒にいるのさ?」


 そこなんだよな、どう説明したらいいやら、と思っている雄一は、上手く伝える言葉が分からん、と腕組みをしてホーラに困った顔を向ける雄一。


「まあ、簡単に言うなら、シホーヌにあの双子の面倒を見るのを手伝ってくれ、と言われて、報酬の前払いで行きたいところに連れて行くというモノで契約したってとこかな」


 前後が逆になっているのは一応、シホーヌに騙されてきたような感じになっているのを伏せた為である。どちらを庇ったものかは定かでなない。


「行きたい場所ってどこなのさ?」

「今いるとこだ」


 ドヤァと言いそうな顔をした雄一に、ハァ? と呟き「訳が分からない」と髪を掻きむしるホーラに「だろうな」と苦笑いする。


「やっぱり、上手く説明できる自信ねぇーわ」


 元の世界の事など、もっとできるとは思えないし、説明できないなら濁した方がいいと雄一は判断した。


「それよりも仕事の話をしよう。期限がないと言っても、なるべく早く済ませたほうがいい」


 そういう雄一の言葉に、先程の疑問を放り投げたホーラが頷いてくる。


「そこで適性というのが正しいか分からんが、まずは武器の話からなんだが、短剣を使ってたようだが使いやすいのか?」

「使いやすいというより、これしか手に入れられなかっただけさ」


 そういうホーラの言葉に「なるほど」と呟く雄一。


 ゴブリンとの戦いを思い出すが、正直、相性は悪くはなさそうだが、良くもない気がする。


 なんとなくだが、ホーラは近接タイプではないように雄一は思う。


 そう思いながらホーラをジッと見つめていると何やらデータが、自分の中に流れてくるような感覚に襲われる。


 すると、ホーラの横にウィンドウが開く。そこに表示されているものを見て、びっくりする。


 あのゲームの自分の武器適性を見る画面のようなものが表示されていた。



○ホーラ 11歳 スリーサイズ:必要ならタップしてください。


 片手剣:D 短剣:B- 投擲:A 射撃:S 簡易付加魔法:C



 これは便利だ、と見つめていると照れたホーラが「ジロジロみるんじゃないのさ!」と蹴ってくるが無視してウィンドウを見続ける。


 ホーラのスリーサイズ? 見る必要はないな、だがっ! 見れる事は覚えておこうと雄一は心に秘めた。


「今度こそ、冒険者ギルドの受付嬢に会うんだ!」

「はぁ? いきなり何を言ってるのさ?」


 なんでもないんだ……と頬を緩ませて照れる雄一を、疑わしいと半眼で見つめるホーラ。


 しかし、このステータスが正しいなら、ホーラは破格の才能を秘めている事になる。


 これが出るということはアビリティもあるなら表示されるはずだと思うが、出てこないところを見るとまだ発現してないのであろう。


 それを確認する意味で聞いてみる。


「ホーラ、投げナイフや弓、ボーガンなどを使った事は?」

「ある訳ないだろ? そんな金のかかる装備に手を出せるなら、こんな状態になってないさ」


 それはそうだ、と頷き、この検証はまた今度だな、と棚上げにする。


 とりあえず、雄一はホーラに適性を伝える事にした。


「俺の見立てだと、ホーラは投擲が得意みたいだな、更に投擲より射撃、弓やボウガンに適性アリだな」


 短剣も悪くないが、良くて中の上だなっと伝えると、渋い顔を雄一に向けて言ってくる。


「使った事ないし、仮に適性があったとして、そんなもの買う金がないのさ」


 そう言ってくるホーラの言葉は予想された事であったので、雄一は至って冷静であった。


 それについて、適性を見た時からプランがあった。それは、雄一の過去に関係する事であった。


 雄一は16歳、勿論、その年になるまで生きてきたので、そこに至るまでの年齢を重ねている。


 つまり、雄一も14歳を経験してきているということだ。


 14歳、中学二年生の雄一は、親を事故で死なせており、親族との揉め事真っ最中であった。


 気持ちの上で逃避したかったという思いが、背中を押したのもあったのだろうが、雄一は、とある病気が発症したようで、何かあった時に1人で生きていけるようにっとサバイバル技術を読み始めた。


 中でも攻撃は最大の防御という考えから、コストがほぼ0の武器で大人に対抗できるものを色々、考えた結果の1つにスリングがあった。


 これなら簡単に作れると笑みを浮かべる雄一に、ビクッとしたホーラが仰け反る。どうやら、封印していた蓋が思ったより開いてしまったようである。


 ホーラにちょっと待つように伝えると、倉庫に行き、縄を調達して厚手の布も台所で調達すると慣れた手付きでスリングを作るとホーラの下へと戻る。


 作り終えたスリングをホーラに見せる。


「これが、お手軽な投擲武器のスリングだ。使い方を見せるから少し離れてくれ」


 そう言うとホーラは雄一から距離を取る。


 雄一は、足元に転がる手頃な石を拾い、布の部分に乗せて、紐を2本握り石を布で包むようにすると頭上で廻し始める。


「目の前にある木の小さな洞を狙うからな?」


 振り回している紐を1つ離す時、以前より上手くいくような気がした。


 気のせいではなく、狙い通りと言わんばかりに洞に石は吸い込まれるように飛び、そのまま、貫通してしまう。


 チートが仕事をしたようだが、どうやら、張り切りサンである。


「ま、まあ、ホーラには貫通させる事はできないと思うが、当てられるようになったら、牽制に使って、短剣でトドメを入れるという手が使えるから問題ないだろう」


 とりあえず、やってみろ、と渡すとホーラは見よう見真似でやろうとしているのを見て、雄一は、物影に避難する。


 2回、3回……と飛ばすが正面に石を飛ばす事はできるが、木に全然当たらない。


「全然、狙い通りに飛ばないのさ」

「いやいや、上等だぞ? 俺が初めてやった時は3日かけてやっと前に飛ばす事ができたレベルだったぞ?」


 全部、前に飛ばせるホーラはやっぱり才能があるな、と頭を撫でると照れたようで、えへへ……と笑みを浮かべる。


「後は反復練習あるのみだ!」


 雄一がそう言うとホーラはヨシ! と頬を叩き、気合いを入れると黙々と石を飛ばし始めた。



 それから1時間すると、木に当たるカーン、カーンと言う音が響き渡る。


 最初から通して、ホーラは飛ばす石、全て、前方に飛ばし続けて、明後日の方向に飛ばしたモノはなかった。


 それを眺めていた雄一は呟く。


「投擲でこれなら、射撃だとどうなるか楽しみのようで、怖いなぁ」


 最初に木に当たった時に、小さくガッツポーズをする姿が見れたが、どうやらまったく納得してないようで、今も黙々と投げ続けていた。


 雄一は太陽を見るとそろそろ昼食だな……と思い、ホーラに声をかけようとした時、見つめる先で、振りかぶり、弾ける汗と笑みを浮かべたホーラが叫ぶ。


「コツを掴んださぁ!」


 迷いを感じさせない腕の振りをした石が、吸い込まれるように雄一が、貫通させた洞を目掛けて飛び込んだ。


 それを見た雄一は、拍手をしながらホーラに近づく。


「やるな、僅か1時間とちょっとで、成功させるなんて凄いぞ!」


 そう褒める雄一に頬を染めながら、唇を尖らせてぼやいてくる。


「洞の入り口に掠ったさ」

「それぐらい誤差だろ?」


 ユウは掠らなかった! と拗ねるホーラの目線に合わせて、頭を撫でながら、負けず嫌いだなと笑う。


「でも、続きは昼食の後でな?」


 雄一は空を指を差し、昼である事をアピールする。


 愚図るホーラにタオルを被せると、練習もいいが休憩を挟まないと効率が落ちると指示出しをする。


 汗まみれの顔を洗ってこい、と雄一が背中を押すと渋々、井戸のほうへと歩いて行く。


 それを見送った雄一は、2匹の獣が覚醒する前に、と台所へと急ぎ、山芋のお好み焼きの製作に急いだ。





 昼食後、再び、同じ事を延々とホーラは続けた。


 他の人が見れば、ずっと百発百中といった感じに洞に入っているが、ホーラは納得しない。


 ほんの僅かにだが、洞の入り口に掠っている為である。


 それから4時間ぐらい経ち、夕暮れ時になり、息切れも汗も凄い事になっているホーラを、そろそろ止めないと不味いな……と思い、近づこうとした時、完璧な軌跡を描き、飛ぶ石を見つめた。


 石は洞に掠らずに、飛び込む。


 それを見つめたホーラは、ガッツポーズを取ると力尽きたようで、前のめりに倒れていくのを雄一は飛び出して抱き抱える。


 気を失っているホーラの顔に滴る汗をタオルで拭きながらジッと見つめる。


「おめでとう、ホーラ」


 雄一はホーラの頑張りを称える。


 ホーラの着替えなどを、シホーヌに頼まないとな……と思いながら、優しくホーラを抱き抱えると明かりが灯る家へと歩き出す。


 雄一は微笑みを浮かべて、ホーラを見つめて言う。


「ホーラ、お前は、強くなれるぞ」


 ホーラの横に浮かぶウィンドウを見つめる。



○ホーラ 11歳 スリーサイズ:必要ならタップしてください。


 片手剣:D 短剣:B- 投擲:A 射撃:S 簡易付加魔法:C


 アビリティ:集中 New



 ホーラの才能の芽吹きの瞬間であった。

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