竜のナミダ

としくん

第1話 ナミダは雨と共に……

雨が降っている……


俺の顔を、大粒の雨が何度も何度も叩きつける。


体は動くのか?


手、足、それぞれの先を動かすと、何とか動かす事ができた。


体を、ゆっくり起こしてみる。全身を激痛が走り抜けた。だが、それが逆に鈍った意識を揺れ動かしてくれる。


時間をかけて上半身を起こす。そして、辺りを見回した。


俺の目の中に飛び込んで来た景色は、死体の山だった。


何処までも広がる平原に、そこら中を埋め尽くす程の屍達……


その場に立ち上がると、意識が朦朧とした。どうやら、かなり出血しているようだ。


俺はズキズキと痛む頭に手を添えて記憶の整理をした。


俺の名前は、トーラ。ハーディス公国の親衛兵団に最近入隊した。最近だ。その前は近衛兵団で、訓練に明け暮れていた。


どうしてこんな所に……?


俺は記憶をもう一度呼び起こした。


そうだ……親友が親衛兵団に入隊し、いきなりこの平原に駆り出されると聞いて、代わりを申し出たんだ……


どうして、そんな事を?


……そうだ、あいつ……もうすぐ子供が産まれるって。だから、俺が代わりに戦争に行くって言って……


王に直接申し出たら、了承してくれた。それで、交代して俺は戦争に。親友は街の警備になったはず……


そのはずなのに、あいつがいた……


敵ともみくちゃになっている最中に、あいつの顔を見たんだ!


その後、あいつは敵の騎馬隊の特攻に巻き込まれて……


そこまで整理して、俺はハッとした。


親友がいたんだ、いないはずのあいつが!


俺は痛む体に鞭を打って親友の名前を叫んだ。


「フェイトー!!」


叫んだ拍子に肋骨がきしんだ。どうやら、何本か折れているようだ。


「……っ! フェイト……何処だ……? 何処だーーーー‼︎」


痛みを堪えながら、、何度も叫んだ。


何度も何度も……


だけど、返事がない。四方八方に向かって声を荒げた。もしかしたら、敵に聞こえているかもしれない。だけど、構っていられなかった。


俺はひたすら名前を叫び続けたが、何も変化がない状況に次第に絶望した。そうこうしているうちに、雨は益々強く俺を打ち付ける。


俺は親友と目が合ったと思われる場所に行き、手当たり次第に掘りまくった。


あの時、あいつの顔はまともじゃなかった。


何て言うか……絶望してた……


俺は自分の指先や爪がボロボロになるのも構わず死体の山を掘りまくるが、どこを掘っても死体しか出て来ない。


どいつもこいつも酷い有様だ。頭が半分無い奴や、胴体が真っ二つになった奴……中には、相手同士が止めを刺しあったのまであった。


普通の状況なら、数秒で正気を失うはずだ。それでもまともでいられたのは、俺がもう正気を失っている証拠かもしれない。


そんな事を考えながら、ひたすら探し続けた。


どれくらい時間が過ぎただろうか……ようやく、親友と対面できた。死体の山に埋れてはいたが、奇跡的にまだ息がある!


俺はゆっくりと親友の体を抱き起こすと、何かの感触を腕に感じた。何だ? と思って視線を移すと、何かピンク色の、ドクドクいってる物が腕に当たっているのを見た。


俺は全身の血の気が一斉に引いていくのが分かった。このピンクで脈打つ物体は……


内臓……どこから出ているのか探ると……


フェイトからだった……


「フェイト……お前……」


俺が声にならない声で話しかけると、フェイトはうっすら目を開け、


「……トーラ……こ……」


「どうした?」


そこまで聞くと、フェイトの呼吸が深く、長く、やがて荒くなってきた。


「フェイト! 喋るな! 息が……」


時間がないのか? 俺はもう一度聞いたんだ。


そうしたら……


「子供に……会い……た……」


そう言って、フェイトは事切れた……


俺はフェイトの体を抱き起こしたまま、叫んだ。天に向かって。


雨はまだ降り続いている。


俺の涙は、この雨が全て持っていった……

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