極衣装来 ガイアニモ 第6話

荒霧能混

『大特訓! 妖怪ウサギはオモヤミー!?』

1.


どこだ、どこにいる?

 町の外れの高台から僕は夜の町を端っこから端っこまでぐるりと見回した。

早くあいつを見つけてつかまえて、それから家に帰って晩ごはんを食べなきゃ怒られちゃうよ。

(余計なことを考えちゃだめブロ。もっと意識を目に集中させれば見えるブロ。)

 僕の頭の中にそんな声が響く。この声の正体はブロッコって名前なんだけど、宇宙人みたいな妖怪みたいな、まあそういう感じの、わけの分からないやつ。なんでもブロって付けるのはどうやらクセみたいだ。

 意識を集中だって? さっきからやってるんだけどな。

 そう思ってたら、僕の顔についているゴーグルみたいなやつが、グニグニと形を変えて双眼鏡のようになる。

(手伝おうブロ!)

 ブロッコはこういうお節介なやつなのだ。

 今の僕の体には、形を変えたブロッコが頭からつま先までまとわりついている。その見た目は、小さいころに見てたテレビの変身ヒーローにちょっとだけ似てる。まあ僕の見てたやつはもっとかっこよかったけれど。そしてこの状態なら、僕とブロッコは声を出さないでも会話ができるんだ。

 フッ

 その時双眼鏡の視界のすみっこを何かが通り過ぎた。

「見えた!」

(オーケーブロ。もう見逃すなよ、ライ。)

 そう言って僕の名前を呼ぶブロッコ。言われなくたって見逃すもんか。

 さあ追いかけるぞ。高台の道路からガードレールに足をかけ、思い切ってジャンプした。

 ブロッコを着ていれば、たいていのことは痛くないけれど、高いところから落ちるのはやっぱりいつもドキドキする。

 空中に飛び出すと、すかさずブロッコが僕の腕のところからヒュッと羽を出していつもより遠くまでとべる。

 小さく見えていた家の屋根が近づいてきて、着地。ブロッコの靴はスタッと音もなく地面に触れる、んだけども。

「わっとと」

 僕はバランスを崩して二、三歩よろけた。

「大丈夫ブロ?」

「平気平気、相手が見えればこっちのもんさ、このまま突っ切る!」

 さっき見えた黒い影をまっすぐに見て一気に駆け出す。塀も柵も家も一直線に飛び越す。

(あのオモヤミー、妙な動きをしてるブロ。気を付けた方がいいブロ、ライ)

 ブロッコがそうつぶやいた。オモヤミーっていうのはあの黒い影の名前だ。僕たちは今まで何回も、オモヤミーを捕まえてきた。

 ブロッコは気を付けろっていうけれど――

「近づかなきゃどうにもならないじゃん」

 そういって僕はもっとスピードを上げた。夜の風がほっぺたに当たって冷たいけど、僕は気にせず空気をかき分けてゆく。

 ちなみにだけど、僕らがこの姿で出動するときは、他の人には見えてない。ブロッコがそうしてるみたい。ヒーローの姿を誰にも見せられないなんてちょっともったいないよね。

 僕はぐんぐんオモヤミーに近づいて、そろそろ姿がはっきり見えてきた。けど、あの形は、なにか動物に見える。丸いしっぽに、長い耳。あれはもしかして。

「ウサギ?」

(確かに、そのようだブロ)

 ブロッコにも同じように見えたみたいだ。あれは確かにウサギの形だ。学校で飼ってるウサギにはあんなに黒いやつはいないけど。

(今まであんな形のオモヤミーは見たことないブロ。なぜブロ。気になるブロ。そもそもオモヤミーは我々の世界から漏れ出した力から生まれてるブロ、我々の世界にはウサギはいないブロ。それがなぜブロ。気になるブロ~)

 うわー始まったぞ、ブロッコの知りたがりが。

「こんな時に考えてたってしょうがないだろ、きっと捕まえてみれば分かるって」

 僕はそう言って、ようやく目の前まで近づいたウサギのオモヤミーの、僕の身長の倍くらいあるおしりにとびついた。

 確かにとびついた。

 はずだったんだけど。

 ズデーン!

 僕は思いっきりズッコケてしまった。

「いってえぇー!」

(ライ、何やってるブロ。それに私が守っているんだからそんなに痛くないはずブロ)

 確かにそうなんだけどさ、気持ちの問題なんだよこういうのは。

 だけどおかしい、絶対に捕まえられるタイミングだったはずだぞ。

(どうやら、ライが飛びついたのと同時にオモヤミーが真横に逃げたみたいだブロ)

「えー、そんなのアリかよ」

 あんなに速く走ってたのにいきなり真横に飛ぶなんてズルい!

ええいもう一回だ、って走り出そうとしたとき、突然頭の上から声が降ってきた。

「あら、なんだかうまくいってないみたいじゃない、白山しらやまライくん?」

 突然聞こえたその声の主は、僕と似たスーツを着けている同級生の鳥越とりごえサラ。うわー、もう来たのかよ。

「うわ、もう来たのかよ、って顔してるね。」

 まーた僕の考えてることを当てちゃう鳥越。鳥越のこういうところがちょっと苦手だ。

「ほんとはもっと早く来たかったんだけど、今日は華道の日だからさ。これでも思いっきり早く課題クリアしてきてやったんだから、感謝しなさいよ」

 鳥越はほとんど毎日何かの習い事に通ってていつも忙しそうにしている。そのうえこんなヒーロー活動までやってるなんて、まあ物好きだね。

(ふたりとも、なにをのんきに話してるバサ。そんな場合じゃないバサ)

 と話に割り込んできた陽気な声は、鳥越が着ているスーツの主、タバッサだ。こいつはブロッコの仲間だけど、まじめなブロッコとは違っていつもおちゃらけてる。あと、ブロッコとタバッサはテレパシーな感じで会話ができて、このふたりにくっついてれば僕と鳥越も聞こえるようになる。ケータイみたいでけっこう便利なんだよね。

「タバッサの言う通りだね。さあ行くよ、白山くんとブロッコもがんばってね。」

 そういって鳥越は、背中のコウモリみたいな翼でふわふわと飛び立っていく。タバッサを着ると飛べるようになるみたいなんだけど、前に一回ブロッコに、僕も飛びたいんだけどっていってみたら「誰にでも、得意不得意はあるものブロ」だってさ。どうやらブロッコは飛べないみたい。

「あ、遅れてきたくせにズルいぞー!」

 僕もあわてて走り出す。

 さっき、もう少しで捕まえられるところまでいったけど、オモヤミーはまただいぶ遠くまで離れてしまった。

(たしかに、話してる場合じゃなかったようだブロ)

「だいじょぶ、すぐに追いつけるって」

 走りながら答えてスピードを上げると、先にいった鳥越にもすぐに追いついた。

「さっすが速いねー、白山くん」

 相変わらずふわふわ飛んでいる鳥越が僕の頭の上からそう言った。へへん、僕とブロッコは空を飛べないけど、スピードなら鳥越とタバッサには負けやしない。

 ウサギのオモヤミーは相変わらずこっちのことなんて知らないみたいにはね回ってる。そんなオモヤミーのお尻に僕は近づいた。2回目だ、今度こそ捕まえてやる。

「それ!」

 飛びついた、けどさっきのようにオモヤミーは真横に右の方にはねた。それはもう分かってる!

 ズザザザザーッ!

 僕は左足で地面を踏みつけてブレーキをかける。そして滑りながら右側に方向を変えてすぐに走り出す。あきらめるもんか。

「三度目の正直ってやつだ、おりゃ!」

 けど、今度はオモヤミーが左に逃げる。

「くっそー! あとちょっとなのになあ!」

(二度あることは三度あるの方だったブロ)

 そういうイヤミはいらないよブロッコ!

「なるほど、これは確かにめんどうな相手かもね」

ようやく追いついた鳥越が言う。

 僕はかまわずもう一度トライ、でも今度もかわされた、と思ったら。

「ビンゴ!」

 鳥越がオモヤミーの背中をつかんでいた。逃げる方向を読んでたのか!

「へっへー、右か左にしか逃げないみたいだったからね、何回かやればそのうち当たると思ったけど、一発目で当たるとはねー」

(小回りのきくあたしの能力のおかげバサ)

鳥越とタバッサがふたりで自慢する。

(確かにタバッサのいう通りブロ。やられたな、ライ。)

「なんだよー、遅れてきていいとこだけ持っていっちゃって」

「まあまあそんなにひがまない。白山くんのおかげでもあるんだから、って、あれ、え、ちょっと待ってー!」

 急にウサギのオモヤミーが暴れだした! 背中にしがみついていた鳥越は激しく振り回されて今にも飛んでいきそう。

「やばいよ、なんとか止めないと」

(しかし、これは手が付けられないブロ)

「でも見てるだけなんて!」

 僕はオモヤミーに向かって走り出した。と同時に暴れていたオモヤミーがこっちに向かってきた。

「え、えー!うわああああああー!」

「きゃああああー!」

 僕はオモヤミーの頭突きをくらって、大きく吹っ飛ばされた。

「いっててて…」

(ブロッコ、ライ、だいじょうぶバサ?)

タバッサが声を送ってきた。向こうもどうやら無事みたいだ。

(ああ、こちらはライが痛がっているが、まあ問題ないブロ。そちらは?)

 ったく、少しは心配しろよなブロッコ。

(こっちもだいじょうぶ。ちょっと油断しちゃったかもね)

 鳥越の声だ。よかった。

(どうやらオモヤミーは消えてしまったようバサ)

(うむ、これだけ暴れたらしばらく出てこないかもしれないブロ)

「えー、マジで。負けっぱなしじゃ気分が悪いよ」

(そうは言っても、相手がいない以上どうしようもないバサ)

(タバッサのいう通り。あたしもちょっと疲れちゃった。)

「ちぇっ、なんかすっきりしないなー」

(ライ、オモヤミーはいつかまた必ず現れるブロ。だからその時に備えて、今はゆっくり休んだ方がいいブロ。)

(じゃあ、今夜は解散ってことで。おつかれー、白山くん)

(次はもっとうまくやってほしいバサ)

 鳥越とタバッサはそう言い残して帰ってしまったみたい。はあ、僕も帰るしかないか。

 右手で左の手首をギュッと握ると、それを合図にしたみたいにブロッコは僕の体を離れた。そしていつもの猫みたいな姿に戻る。この姿なら一緒にいても怪しまれないってわけだ。

(ふむ、今日は私もすこし疲労しているようだブロ)

「そりゃまあ、あんだけ走り回ったし。」

「確かに。あれほど素早くて機敏な動きをするオモヤミーは、初めて見たブロ。」

 僕の体から離れたブロッコは声に出してそう言った。言われてみれば今までのオモヤミーはみんな軽かったり重かったり、固かったりフニャフニャだったりしたけど、あんなに跳ねて回ったりはしなった。

「でも今日はもう消えちゃったんだし、考えてもしょうがないじゃん」

「うむ、そうなんだが……ブロ」

 それっきりブロッコは黙ってしまって、話しかけても「ああ」とか「うん」しか言わないから、その日はご飯をたくさん食べてすぐに寝ちゃった。


2.


「ライー、学校行かなくていいのー」

 母さんの声で起こされた時はもうけっこうヤバい時間だった。ヤバい。

「起きてこないから、今日は学校行かなくていい日かと思ったわよ」

 あわてて着替えて台所に行くと、母さんがそう言った。あいかわらずのんきすぎる!

「そんなわけないじゃん! ちゃんと起こしてよー」

「ははは、まあ成長期だしなあ、たくさん寝るのも悪いことじゃないぞ。遅刻はいかんけどな」

 父さんはそういって、テーブルの上のおにぎりをこちらにパスしてきた。

「それ食べながら学校行って来い」

「あーもう、わかったよ、行ってきまーす」

 玄関のドアを閉めるときに母さんの「はぁ」ってため息が聞こえた。



 「っセーフ!」

 言いながら5年2組の教室に飛び込む。なんとか間に合ったぜ!

「おっせーよ、ライ。また夜更かしか?」

 って声をかけてきたのは内灘トミオ。縦にも横にもでっかくて、ずんぐりむっくりしたやつだけど力はすげーつよい。

「なになに、なんのゲーム?モンスター狩り?それとも妖怪?」

こちらは、田上ミツヨシ。この台詞の通りのゲームオタクだけど、いろいろ物知りでクイズ王って呼ばれてる。

 このふたりは家が近所で小さい頃からよく遊んでるし、僕はふたりのことをトミ、ミツってよんでる。

 それにしても、モンスターとか妖怪とか相変わらずミツは鋭いところをついてくる。まあゲームじゃあないんだけどね。

「あー、うんそんなとこかな」

僕は適当にはぐらかしたけど、最近はひそかなヒーロー活動に忙しくてゲームはあんまりやれてないんだよなあ。

「あ、そうだ、妖怪っていえばさ、最近出るんだって~」

「出るって、え? 妖怪が?」

ミツが突然びっくりすることをいいだした。

「なんかさ、6年生が見たらしいよ、黒くて大きくて、委員会の仕事でちょっと遅くまで学校に残ってて、耳が長くて、帰りはもう夕方で暗くて……」

「ちょっ、ちょっと待って、順番に話してくれないとわかんないよ」

「ミツの悪いクセが出てきたぜ、興奮し過ぎ」

「いやだって妖怪だよすごいじゃんゲームの中にしかいないと思ってたのに見たっていうんだよすごいじゃん」

すごい勢いで話すミツを見てトミと僕はあきれたけど、この話はちゃんと聞き出さなきゃいけない。だって黒くて大きくて耳が長いっていえば、ゆうべのウサギオモヤミーにそっくりじゃん。

「じゃあさ、じゃあさ、その妖怪ってどれぐらいの大きさだった……」

「んー、お前らー、その妖怪ってのは俺のことかー?」

げ、担任の谷先生が割り込んできた。いいところだったのに。空気呼んでよタニセン!

「もう始業だぞー、席につけー」

 妖怪の話は妖怪よりもっとこわいタニセンの登場で終わってしまった。

 朝礼がはじまって、僕は自分の席に座って、ズボンにぶら下げてるマスコットを握りしめた。

(なあブロッコ、さっきの話どう思う)

 このマスコットは実は、ブロッコが姿を変えてるんだ。便利なやつだぜ。声に出さずにブロッコに話しかけてみたんだけど――

(うむ、興味深いブロ)

ブロッコはそれだけ言って黙ってしまう。

(『興味深いブロ』って、それだけかよ)

(今の話ではそれ以上のことはいえないブロ)

(た、たしかにそうかもしれないけどさあ、妖怪だよ? )

(ライ、君たちから見れば、私やタバッサ、それにオモヤミーだって妖怪のようなものではないブロ?)

 あ、言われてみればそうだった。最近いつもいっしょにいるから忘れてたけど、ブロッコだって普通に考えればじゅうぶん妖怪だ。

「白山ぁ、おい、しらやまー、返事しろー」

「あ、は、ハイッ!」

ブロッコと話すのに夢中でタニセンが呼んでたのに気づかなかった! ああもう、みんなに笑われちゃったじゃん。

 そのあとも何回かブロッコをつついてみたりしたけど、それきり黙ったままだった。

 次の休み時間、真っ先にミツの席に向かった。ミツの話はあいかわらず順番が入れ替わっててよく分からなかったけど、だいたいこういう感じらしい。

 1週間ぐらい前の夕方、委員会の仕事で遅くまで残ってた6年生が、校舎の裏門から帰ろうとした時に「妖怪」を見たらしい。その見た目は黒くて、動物みたいに跳ねまわって、長い耳に丸いしっぽがあって、つまりはウサギみたいだったんだって。

「いきなりバァって跳びかかってきて最初はウサギが逃げたのかと思ったんだけどぶつかる!って思って急にでっかくなって目を開けたらもういなかったらしいよ」

 やっぱりミツの話じゃよくわからないけど、わかったことはある。裏門、あとウサギ。

 昼休みを待ってぼくは学校の裏門へ向かった。

 裏門は運動場につながってるけど普段は使われてないし、用具庫にでも用がなければ近づかないんだけど、今日は先に誰かきていた。

「あれ? 鳥越じゃん」

「あら、君もきたんだ。もしかして、妖怪の話で?」

「なーんだ、知ってたのか」

「やっぱり、気になるよね。オモ…黒い、ウサギ」

今、ぜったいオモヤミーって言いかけてたぞ。

「サラちゃん、お友達?」

 鳥越の隣に立ってた女子がそう言った、。

「あ、隣のクラスの白山くんです。最近いっしょの習いごと初めて…」

あー、そう「習いごと」ね。友達とは言わないんだ。いや別に気にすることじゃないけど。

「白山くん、こちらは6年の押水マチコさん。家が近所で小さい頃から遊んでるんだ」

「あ、ども白山っす」

「そう、白山くん。君も妖怪のウワサを聞いてきたのね」

そう言う押水さんの顔はなんか悲しそうだ。

「実は、その妖怪のウサギって、私の知ってるウサギかもしれないんだ」

「え? どういうこと?」

 僕がそう聞くと、押水さんは少し間を置いてから、話し始めた

「私ね、4年生の頃からずっと飼育委員やってるの。それでウサギの世話もするんだけど、始めてから半年ぐらいだったかな、ウサギの赤ちゃんが産まれたの。かわいかったなあ、小さくて、真っ白でね。名前もね、つけたんだ、ラッキーっていうの。私は張り切ってラッキーの世話をしてたわ。それから1年はなにごともなく過ぎて、ラッキーも大きくなって。

 それで、去年の夏休みだから私が5年の時ね、すごく悲しいことがあったの。夏休みは飼育委員が当番で毎日世話しに来るんだけど、私も当番の日に登校してたのね。ひと通り水とかエサとかのお世話が終わって、鍵をかけて帰ろうとしたときに小屋の中を覗いてもラッキーの姿が見えなかったの。でも、どこか穴の中に潜ってるのかなーって思って、そのまま帰っちゃったわ。そういうのはよくあることだしね。

 でもね、次の日、別の飼育委員が登校した時に見つけちゃったの。裏門の前で死んでるラッキーを」

「えっ、なんで?!」

僕は驚いて思わず聞いてしまった。

「たぶん、車にはねられたんじゃないかって。もしラッキーを逃しちゃったとしたら、私だよね」

押水さんはそこまで話して、うつむいてしまった。少し肩が震えてる。

「マチ姉……」

鳥越が押水さんの肩にそっと手を置いた。その手を押水さんが握り返しながら話を続けてくれた。

「サラちゃん、ありがとう。だいじょぶよ。いつも逃がさないように気をつけていたし、そんなタイミングはないはずなんだけど、それでもやっぱり、私が帰る時にちゃんと確かめておけばって思っちゃって」

 僕はなんて言えばいいか分からなくて、「んー」とか「あー」とか言ってた。でも今この話をするってことは……

「でね、マチ姉は最近出てきた妖怪が、そのラッキーなんじゃないかって思ってるの」

 鳥越がそう言って、やっぱりそうかと思う。でも、

「んー、そんなことって、あるかなあ?」

僕は知ってる。黒いウサギが妖怪や幽霊じゃないことを。だから、伝えなきゃ。

「たぶん、今の妖怪はラッキーとは関係ないよ。ウサギっていうのも見たやつが勝手に言ってるだけでしょ? それにラッキーは真っ白でかわいかったんなら、黒い妖怪とはますます似ても似つかないじゃん。」

 そう言った僕を、鳥越と押水さんが不思議そうな顔で見てる。あれ、なんかマズイこと言ったかな。オモヤミーのことは話せないから気をつけたんだけど。

「ありがとう」

 え? なんでありがとう?

「ありがとう、励ましてくれてるんだよね、えーと、白山ライ君。」

「あの、別に、なんていうか」

「ごめんね急にこんな話して。でもそう言い切ってくれて、ちょっと楽になったかな」

「押水さんは悪くないと思って……」

「やっぱり励ましてくれてたんじゃない。あと、押水さんて言いにくいでしょ、マチ姉でいいわよ、そしたらほらサラちゃんとおそろいね」

「あ、マチ姉それはちょっと」

「なんでー、いい友だちじゃない、サラちゃんとライくん。いいコンビねー」

急に名前で呼ばれてびっくりしたから、鳥越と押水さ……、ま、マチ姉の会話もあんまり聞こえてこなかった。

「あ、そうだふたりとも、ラッキーのお墓があるんだけど。いっしょに来てくれない?」

「うん、いきますいきます。ほら、白山くんもいくよ」

「お、おう」

 マチ姉についていくと、校庭の片隅に小さく土が盛られたお墓があった。

「実は最近ここには来てなかったんだけどね、妖怪の話聞いて驚いたの。ああ、私がラッキーのことを忘れたから寂しがって出てきたのかもしれないって思った。でもすっごく怖くて、一人だったら今日も来られなかったかもしれない。ふたりとも、ありがとう」

「全然いいよマチ姉、ラッキーはかわいがってもらえて喜んでたはずだし、もし今度ラッキーの名を騙る妖怪なんか出てきたらあたしがぶっ飛ばしてやるから。ね、白山くんもそうでしょ」

「お、おう!」

「ライ君はさっきから『おう』しかいってないね」

マチ姉がそう言って笑うので、僕と鳥越も一緒に笑った。

教室に戻る途中で、僕はブロッコに声を出さずに話しかけた。

(なあブロッコ、例の妖怪、オモヤミーだと思う?)

(まあ十中八九そうブロ。お墓の周りにはかすかだがオモヤミーの気配が残っていたブロ)

(なんでオモヤミーの姿が見えたんだろう)

(おそらく出現したばかりで、その存在が不安定だったからブロ。オモヤミーは人間には見えないのが普通ブロ。しかし存在が不安定だと、こちらの世界に姿を見せてしまうこともあるブロ)

(ふーん、いまいちよく分からないけど、そういうもんなんだ。じゃあ…)

(じゃあなんでウサギの姿に見えたのかな?)

(あ、突然割り込むなよな)

(いいじゃないの、大事なことでしょ。あたしも聞いておかないと)

(生まれた場所のせいかもしれないブロ。オモヤミーは、オモヤミーの種が成長して生まれるブロ。その種が落ちた場所が偶然あのお墓の近くだったとしたらブロ)

(オモヤミーは、「思い」に反応することもあるバサ。お墓なんて、いろんな人の思いが集まってくる場所バサ。そこで生まれて成長すれば、その思いに影響を受けることはじゅーぶんに考えられるバサ)

タバッサも会話に加わり、ブロッコの説明に乗っかってきた。

(なるほどなあ、いろいろあるんだなあ)

(はやく、捕まえないとね)

(うん)

鳥越のいう通りだ。あ、それからもう一つだけきいとこ。

(なあ、ほんとに妖怪ってことは、ないよね?)

(我々の持つ知識では、そのような現象は、確認されていないブロ)

(なんだい?ライはもしかして怖いバサ~?)

(ち、ちげーよ!)

(あはは、じゃ白山くん、がんばろう)

(お、おう!)

そう言って僕たちはそれぞれの教室に戻った。ブロッコはそれっきり黙ったままだった。


3.

三日後の夜。僕は学校の屋上にいた。今夜オモヤミーが出るとブロッコがいうから待機しているんだけど、夜の町を眺めながら、僕はこの三日間のことを思い出していた。

あの日、ラッキーのお墓に行った日の夕方、学校から帰ると、猫の姿に戻ったブロッコがいきなりこんなことを言い出したんだ。


「特訓するブロ」

「特訓~?」

「そうブロ、特訓ブロ。今のままではあのオモヤミーを捕まえるのは難しいと判断したブロ」

 まあ特訓といえばヒーローもののお決まりだけどさあ、マジでやるの? ブロッコの背中に触れてテレパシーで鳥越に話しかける。

(おーい鳥越、ブロッコがなんか特訓やるとか言い出したぞ)

(ああ、ごめん、今からソロバンなんだ。あとからタバッサに聞いとくー)

 なんだい、相変わらずいそがしいやつだな。

「で、なんだっけ、特訓?」

「うむ、実はタバッサとは既に相談は済ませてあるブロ。我々としては特訓が必要だということで一致したブロ」

「特訓て、なにするの?」

「まず、その前提から話すブロ。今回のオモヤミーと我々は相性が悪いブロ。私とライは地上を速く走れるが、ウサギオモヤミーの機敏な動きには対応しにくいブロ。タバッサとサラは空を飛べて敏捷性もあるが、スピードがないブロ。」

「うーんなるほど。前と同じ事やってもむずかしそうだね」

「そこで、私とタバッサが入れ替わるブロ。」

「ええ! 僕がタバッサを着て、ブロッコはサラの方に行くってこと?!」

「その通りブロ。タバッサとライなら、空を飛べてなおかつスピードもそれなりに出せるはずブロ。ただし、サラが着ていた時のように小回りは利かないだろうブロ。そして私とサラなら地上を走りながらアクロバティックな動きについていくこともできるブロ。ただしライが着ているときほどのスピードは出せないブロ」

「うーんと、つまり、ゲームでいうと、僕もブロッコもスピードタイプで、タバッサとサラはテクニックタイプってわけだ。」

「そういう言い方もあるかブロ」

「でさ、入れ替わって、どうするの?」

「私とサラが追いかけて、オモヤミーを捕まえるブロ」

「へ? じゃあ僕いらないじゃん」

「そこなんだが、この入れ替わりには欠点もあるブロ。スピードや身のこなしについてはいま説明した通りのことができるだろうブロ。だが、新しい組み合わせでは私たちと君たちがなじんでいないから、単純な力についてはだいぶ弱まってしまうブロ」

「つまり、どういうこと?」

「私とサラがオモヤミーに追いついても、力が弱くて動きを止めることはおそらくできないブロ」

「だめじゃん!」

「そこでライとタバッサの出番ブロ。私とサラでなんとかオモヤミーに取りついた瞬間を狙って、空中から降りてきてほしいブロ。そしてすかさず、入れ替わるブロ」

「入れ替わる、って、元のコンビに戻るってこと? しかも追いかけっこの途中で?」

「その通りブロ。そうすればふたりで本来の力を出してオモヤミーを抑え込める」

「それってかなり大変な気がするんだけど」

「だから、特訓ブロ!」

まあそんなわけで、次の日から特訓が始まった。放課後は鳥越の都合が悪いから、なんと早朝に。通学路沿いの河川敷に変身して集まることになった。

入れ替わって捕まえるなら、変身する時から入れ替わっておけばいいんじゃないかと聞いたら「装着は最初の組み合わせでないとうまくいかないブロ」だってさ。

いつもどおり僕とブロッコ、鳥越とタバッサの組み合わせで変身したあと、いよいよ入れ替わることになった。その方法は、ふたりが手をつないで掛け声を言うことらしい。

「じゃあ、よろしく、白山くん」

 そう言って鳥越が右手を伸ばしてきたので僕も鳥越の手を軽く握った。これじゃただの握手みたいでなんだか恥ずかしい。すると頭のなかにブロッコたちの声が聞こえた。

(それじゃだめブロ、もっとしっかり握るブロ)

(お互いの手首を握る感じのほうがいいと思うバサ)

ん? 手首? それってどうやるんだ?って戸惑っていたら

「ああ、こういうこと?」

って言って鳥越が僕の手首をつかむ、すると僕の手のひらのちょうど鳥越の手首のところにあった。なるほどね。僕も応えてグッとにぎる。

「うむ、しっかりと接続が効いているブロ」

「これなら移動できるバサ~」

 よくわからないけどそうらしい。そしてここで掛け声を言う、その言葉はこうだ。

「クロス・ウェアリング!」

僕と鳥越の体が、ブロッコとタバッサが光りだす。ブロッコは黄色っぽくて、タバッサは紫色っぽい。そしてその色が一瞬で入れ替わり、光が収まった。

「お、おおー! ほんとうに入れ替わってる」

僕の背中にはタバッサのコウモリみたいな翼が付いているし、鳥越はいかにも速く走れそうなシュバッとしたブロッコの姿になってる。

「ねえねえ、これマジで飛べるの?」

(やってみればいいバサ)

タバッサがそういうので、僕は思いっきりジャンプした。背中の翼がバサバサと羽ばたいて、体が上に引っ張り上られるような感じがしたと思ったら、あっという間に地面が遠ざかる。

「うわー、高い高い!」

(お~、さすがのスピードバサ。よしちょっとウチに任せてみるバサ)

「任せてみるバサ、ってどういう、わわ、わー!」

僕の体はタバッサに動かされて、空中をあっちこっちと飛び回った。宙返りしたり、スピンしたり、ジェットコースターなんか比べ物にならない。

(まあ、ざっとこんな感じバサ。早く慣れて欲しいバサ~)

「うええ、気持ち悪い。いきなりはやめてくれよ」

まだ心臓がふわふわしてる。これ、本当に大丈夫かな。

(なんか楽しそうだね~白山くん)

(うむ、じゅうぶんな速度がでているブロ)

地面ではブロッコと鳥越がそんなのんきなことをいってから、華麗にムーンサルトを決めていた。飲み込みの早いやつだな!

その日は新しいコンビになれることで精一杯で、次の日からいよいよ、動きながらの入れ替わりに挑戦しはじめたんだけど…… これがかなり難しいんだよね。

タイミングを合わせて、しかも空中から降りて行ってそのまま鳥越の手をつかまなきゃいけないのは思ってた以上に大変だった。特訓の二日目と三日目をフルに使って、成功率は3回に1回ぐらい。そして今夜を迎えたってわけ。


本当にうまくいくのかな。屋上から町を見渡しながらそう思う。

「心配ブロ?」

「そりゃあ、そうさ。まだカンペキじゃないもん」

「完璧、というのは存在しないブロ。今あるもの、できることでやらなきゃいけないことがほとんどブロ」

「なんか、じじ臭いこというよね、ブロッコって」

「それはそうブロ。なんせ私は、君の何倍も生きているブロ」

「あれ、そうなの? そういえば聞いたことなかったな、何歳ぐらいなの?」

「君たちの時間で言うと、ざっと100年にはなるのだろうブロ」

「ひえー! チョーおじいちゃん!」

そんな話をしていたら、階段をあがる音が聞こえてきた。来たかな?

「おっまたせ、って、なんかまったりしてる雰囲気だね」

「何の話してたバサ?」

「なに、くだらん世間話ブロ」

「あー、なんで教えてくれないのー。白山くん、あとで聞かせてね」

「お、おう」

白山くん、そう呼ばれて返事しながら、僕はこの三日間ずっと思ってたことを言おうと決めた。

「では、全員揃ったブロ。変身して、入れ替わって待機するブロ」

「早めに入れ替わって、なじませておきたいバサ」

そう言われて僕は立ち上がる。変身だ。

両手をぐっと握りしめて、胸の前で交差させる、そして強く叫びながら腕を水平にババっと広げた。

「変身! ガイアニモ・ウェアリング!」

「変身! ガイアニモ・ウェアリング!」

僕と鳥越の声が揃う。ブロッコとタバッサは、僕と鳥越の右手に巻き付くように姿を変え光りだす。その光は右手から胸、腰、両足、左手と広がり、最後に顔を包み込む。光が飛び散って、僕たちはブロッコとタバッサを着終わった。

そして入れ替わり、なんだけど。僕は鳥越が差し出した右手を握るのをためらった。

「ん? どうしたの、白山くん」

「それ、なんだけどさ」

「それって、どれ?」

「その、白山くんってやつなんだけどさ、やめよう。ライでいいよ。いや、だって呼びにくいだろ? シラヤマクンってさ6文字もあるし。ライ、なら2文字ですむし。その方がタイミング取りやすいと思うんだよ。だからさ、代わりにってわけじゃないけど、僕も、その……」

「うん、サラでいいよ」

「えっ」

「だって、白山く、ちがった、ライの言うとおりだもん。トリゴエ、も言いにくいよね。あーなるほどな、なんで気づかなかったんだろう。あたしも実は心配だったんだよね、本当にうまくいくのか。すこしでもやれることがあるなら、やった方がいいと思う。」

 なんだかあっさり許してもらえて、拍子抜けしてしまった。

「じゃあ改めて、よろしくね、ライ」

「オッケー、サラ!」

僕は今度こそ、サラの右手をしっかりと握った。

「クロス、ウェアリング!」

 僕らはもう一度光に包まれて、ブロッコとタバッサを交換した。ブロッコとはちがう着心地で、なんだかよけいに緊張してきたような。

「うー、なんかウズウズするね。早く出てきてくれないかなー」

「気持ちはわかるが、落ち着くべきブロ」

隣でサラとブロッコがそんなことを言ってる。ウズウズする感じ、すごいよく分かる。

「ライ、今日はヘマできないバサ~」

「またそんなこと言うんだから、3日間特訓した仲じゃないかよ、だいぶ慣れてきてるでしょ」

「最初に比べればそうかもしれないバサ、でもまだまだバサ~」

「そんなの、この作戦を考えたブロッコに言ってくれよな、こっちは大変だったんだから」

「うむ、ライとサラは十分に頑張ってくれたブロ。」

「そうだねえ、けっこう大変だったよね。でもあたしはブロッコとのコンビはけっこう楽しめたかな」

「む~、サラと一番相性がいいのはウチなんだバサ。ライ、サッサとオモヤミーつかまえてコンビ解消バサ」

「はいはい、相性悪くてすいませんでしたね~タバッサ様」

「あはは、なんだかんだであのふたりも結構いいコンビかもね」

「うむ、同意す……」

 言いかけて黙るブロッコ。

「来たバサ」

「そのようブロ」

ブロッコとタバッサがそれぞれに何かを感じ取っている。

「えっ、オモヤミー?」

「ちょっとちょっと、どこにいるの?」

僕らは屋上から周囲を見回してオモヤミーを探した。

「いたぞ、やっぱラッキーのお墓の近くだ」

「そっか、マチ姉のためにも、ぜったい捕まえる! いくよ、ライ」

「そうだね、サラ!」

 僕らはそうして屋上から飛び出した。サラは地上、僕は空中へ。

 飛び立つときに、タバッサが話しかけてきた。

(少しは緊張がほぐれたバサ?)

「えっ、あ、うん、そうかも」

(ならけっこうバサ。バッチリ捕まえてみなバサ)

 もしかして、タバッサは僕らのためにわざとあんなことを? へへっ、ありがとうタバッサ。

 相変わらず好き勝手跳び回るウサギオモヤミー。でもサラとブロッコはその動きにちゃんとついていってる。僕はいつでも飛び込める距離を保って上から見てる。

「右右左、ときたから、次は左、と見せかけて、右でしょ!」

 サラはオモヤミーが跳ぶ方向にヤマを張って追いかけているみたい。何度か外したけど、今度は……

「捕まえた!」

サラがオモヤミーの背中に飛びついた。けれどオモヤミーは激しく跳ねて、サラを振りはらってしまう。これじゃあ入れ替わるタイミングなんてないよ。

 それでもサラはあきらめずに繰り返している。そして、何度か目に振り払われた時、オモヤミーの動きが止まった。

「えっ、なんで止まったの?」

サラが戸惑って立ち止まった時、オモヤミーはゆっくりと後ろを振り向いた。その方向にはもちろんサラがいる。あ、これはまずい!

「サラー! 突き飛ばされるぞ!」

「えっ、えー! ちょっとまってー!」

 サラに向かって猛スピードで走り出すオモヤミー。サラは必死でにげだした。さっきまで追っかけてたのに逆になっちゃった。ああもう、入れ替わるのはお前とサラじゃないんだよ!

 それでもサラはその素早い動きでオモヤミーに追いつかせずに逃げている。でも、これを長く続けるわけにいかない、どうすればいいんだよ。

「ライ、落ち着くバサ。特訓を思い出すバサ。特訓は嘘をつかないバサ。」

 タバッサがそういうけどあの特訓が今すぐに役立つのか? サラはまだ逃げてる、なんとかしないと。ウサギオモヤミーは、サラがジャンプすればジャンプ、右に行けば右、ときちんと追ってきてる。特訓、特訓。あっ。

 ひとつ、思いついた。

「サラ! あの場所、僕らが特訓した場所まで逃げて!」

「河川敷の……はぁ……はぁ……グラウンド?」

「そう! そんなに遠くない、がんばって」

「わかったよ、ライ!」

さすがのサラもだいぶ疲れているみたい。これははやく決めないと……!

サラは方向をグイッとかえて、川の方へ向かった。僕は直線で特訓場所まで急行する。うん、やっぱりあった。グラウンドのすぐ近く、川を渡ってる大きな橋。この橋の下のスペースは、大きなウサギオモヤミーが跳ねて通るには狭いはず、だから!

「サラ、サラ、グラウンドの向こうに橋があるだろ、そこに向かってきて」

「うん」

「僕が合図したらジャンプして、橋を飛び越えるつもりで」

「わかった」

 橋の上空で羽ばたいている僕は、サラがこちらに向かってきているのをしっかり見てる。オモヤミーもちゃんと連れてきてくれた。さすがだぜ!

「いくよ、3、2、1、ハイっ!」

「はっ!」

 気合いを入れてジャンプしたサラ。オモヤミーもそれを追ってジャンプ。僕はサラと合流するために急降下した。この状況でサラの手をつかむのはほとんど無理だ。だから……

「たのむ、ぶつかってくれ」

僕は腕を大きく広げた、サラは僕の右の二の腕あたりにぶつかって、すかさず両手で引き寄せた。サラを抱えたかっこうのまま、地面に向かって急降下。

「ライ、何を」

「今は僕に任せて!」

 地面が近づいてくる。なんとか足を下にして着地。そしてすぐに横へ。地面スレスレを飛ぶ。草が顔に当たるけど気にしていられるか。橋の下をくぐり抜ける!

「なるほど、そうか」

サラは何をしようとしてるか気づいたみたい。やっぱりさすがだよ。

「うん、着地点にいく」

 僕とサラは橋を通り過ぎて上を見た。オモヤミーがまだ宙にいる。さっきまで追いかけていたサラを見失って戸惑っているかはわからないけど。空中なら自由に動けないだろ、どうだまいったか。

 オモヤミーが落ちてくる場所に先回りして、着地。そして改めて、サラと、手を、つなぐ。そして叫ぶ。

「クロス・ウェアリング!」

 光に包まれ、僕の体にブロッコが戻ってくる。体中に力があふれるのが分かる。それはサラも同じで僕らは一瞬目を合わせて、空を見上げた。

 オモヤミーが落ちてくる、僕らはそれを受け止める。もう逃がさない!

「いまブロ!」

「いまバサ!」

ブロッコとタバッサがそういう。

「ガイアニモ・ルミネス・サーチ!」

 僕とサラの頭の部分にある、ブロッコとタバッサの目の部分がまぶしく光って、オモヤミーを照らす。その光はオモヤミーの体の中まで届いて、その一か所を映し出した。オモヤミーの種だ。

「エイミング!」

 そう言うと広く照らしていた光が、種に向かってまとまって、ロボットアニメのビームみたいになる。そしてそのビームが核をつらぬいた。

 ジタバタしていたオモヤミーはおとなしくなって、その表面にたくさんのスジがあらわれて、折り紙のようにパタパタとたたまれて、核だけが残った。

 僕とサラはオモヤミーを受けとめた体勢のまま、しばらく動けなかったけど、種が落ちてきてやっとわかった。捕まえたんだ、終わったんだ。

「やったー!」

「はあ~~~、つかれたー!」

「ふたりとも、素晴らしかったブロ」

「まあ、ライにしてはよくやった方バサ」

「あいかわらずタバッサはライに厳しいねえ。いやでも、すごかったよライ。よく思いついたね」

「うん、なんか、必死だったからよく分からないけど、よかった。ほんとよかった。」

「あはは、でも、いきなり抱きしめられて、びっくりしたよ」

「わー、ごめんごめん」

「いや、いいよ、あれが一番いい方法だったとあたしも思う」

「同感ブロ」

「それならいいんだけどさ。でもさー、つかれたなー」

「いいんじゃない、あたしは楽しかったけど?」

「うん、僕も」

そういってサラの顔を見たら目が合って、なんだかおかしくなってふたりで笑っちゃった。

「じゃあ、帰るね」

「おう、おつかれ、サラ」

僕がそう言って手を挙げて手のひらを見せると

「ナイスファイト、ライ」

サラはそう言ってハイタッチしてくれた。パン! という乾いた音が、夜空に吸い込まれていった。

その音は僕の胸につっかえていたものも一緒に消してくれた気がした。


だから僕は、その時ブロッコがオモヤミーの種を見て難しい顔をしていることにも気づいていなかったし、その表情にどんな意味があるのかもまだ知らなかった。


(第7話『遠足! 家に帰るまでがヒーローです!?』 につづく?)

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極衣装来 ガイアニモ 第6話 荒霧能混 @comnnocom

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