大殿と眼鏡

生気ちまた

 越後古志の牧野領は古くから海運業で栄えてきた。日本海沿岸を往来する北前船が上方からは新しいものを運び入れ、北の蝦夷地からは海産物を運んで来るのだ。地元の百姓どもは手前で作った商品を船主に売り込み、積み荷を降ろした分だけ生まれる余地に載せてもらっていた。古志の素朴な品が上方で売れるとわかると、船主たちは競うようにして多くの品を古志津から買い入れるようになった。

 一方で信濃川の下流にあたる古志郡では上杉氏の時代より洪水・水害が相次いでいた。また飢饉もたびたび起きたため、牧野家は家祖・成元の代から借金に悩まされた。

 こうした中で大名から政を任された家老たちは、古志津の町人から上納される御用金に多大な期待を寄せるようになっていった。町人たちも敬愛する備前守に応えるべく返済されるはずのない御用金を納め続けた。しかしながら「ある時」から町内の有力者でも到底賄えないほどの金額が城方から求められるようになり、古志津の人々は大金を稼いでいながら飢えと貧しさに苦しめられるはめになった。

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