エターナリア

たつみ暁

プロローグ:或る一人の独白

プロローグ

 彼女はいつもそこに居た。

 風渡る草原の中、座り込んで。

 晴れの日も、曇りの日も、風の強い日も――さすがに、雨の日は居たか、確かめていないのでわからないが――、とにかく彼女はいつもそこに居て、空を見上げていた。

 私はあまりに気になって、ある日意を決して彼女の傍へ近づき、訊ねてみた。

 何をしているのですか、と。

 すると彼女は、見上げていた天空と同じ色の瞳をこちらに向け、女性、と呼ぶにはまだ少女らしさを残す顔に優しい微笑を浮かべて、答えた。

「ひとを待っているんです」

 彼女は私に、隣に座る事を勧め、あまり上手じゃありませんけど、と、傍らに置いていたバスケットを開いた。

 やや不揃いなサンドイッチを手に取ると、最前まで魔力の冷却水筒に入っていてよく冷えた、レモンスカッシュの注がれたコップまで渡される。

 待ち人の為に用意したものでしょう、良いんですか、と訊くと。

「いいんです。今日来るかどうかさえわからないんだから」

 彼女は少し寂しげに答えた後、再び空を仰ぐ。

 しばし落ちる、沈黙の後。

「約束を、したんです」

 彼女は言った。穏やかな顔つきで。

「ここでまた会おうって。あの日の約束を果たす為に、ここで彼を待っているんです」

 そうして彼女は語り始めた。

 ここでこうして『彼』を待つに至った、長い長い物語を。

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