モバイバル・コード

いちた

プロローグ『幼き日々と現在と』①

6がつ2にち はれ


泣きべそかいて、家に帰ったんだ


ぼくはお母さんが待つアパートに


学校でお弁当の中身が少ないってばかにされた


ゲームを持ってないってばかにされた


びんぼうってばかにされた


お母さんは朝は倉庫のしごとで


夜はお酒を飲む人たちの相手をして毎日働いてた


でも、夕方だけはぼくのご飯を作ってもらう為に


一度家に戻ってくる


お母さんは心配してたけど、ぼくはすごくくやしかったからなにがあったか言わなかった


お母さんも仕事してたのにこれいじょう心配をかけたくなかった


お父さんがいればもっと楽できるのに


大きくなったら、かならずお母さんを助けるんだ


でも、ぼくは


ばかだから決めた事をすぐに忘れちゃう


だから


日記を書く事にするんだ


このきもちがなくならないようにしないと



6がつ4にち はれ


昨日は書けなかったから、きょう書くんだ


いじめられて悔しい時は


おうちでダビングしてる アニメのビデオを見てた


ビデオテープが すりきれてすりきれて みずらい画面だけど


何度も同じ場面を見て、セリフまでおぼえてる


くやしくてなみだをうかべて ビデオを見たら


みずらい画面が なめらかになるんだ


なみだがたまって こぼれそうになると


まどの夕日を見て こぼさないようにしてまた見ていた


こうするとキレイに見れるようになる


新しいのを買ってあげるといわれても


僕はぜったいにうんとは言わなかった



ぼくはふしぎだった


お母さんは女なのに


どうしてがんばるのかわからなかったんだ


ぜったいにおかあさんは泣き言をいわないんだ



6がつ6にち はれ


おうちがもえた


アパートがもえた


ぼくはどうすればいいんだろう


ぼくはおかあさんになんて声をかけたらいいんだろう


ぼくに何ができるんだろう


しあわせって、びょうどうにもらえるものじゃないのかな


泣いているお母さんの横でぼくは書いてる


はじめてホテルにとまったんだ


ぼくは、しあわせになりたい


せめてお母さんに心配をかけたくない



だから、つよくなるってきめたんだ

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