KYK・・・危険予知訓練

@kurodanuki

第1話 社長の雷

「ここ5年の業績の中で今年が最も悪い。が、しかし・・・・」

明らかに今日の社長は機嫌が悪い。私以外の全社員も同じ事を考えていると思う。

今年の夏のボーナスを賭けても構わない。恐らく賭けは成立しない。


そんなつまらない妄想に脳みそをフル稼働しているうちに次の社長の愚痴が飛び込んできた。


「業績は右肩下がりであるのに労災、特に通勤途中の交通事故は今期に入って3件だ。特に入院以上の重大な事例は幸いにして起きていないが、これでは困る。」

確かに困るだろう。ただ交通事故だけは自分さえ気をつけていればいい物でもないし、何より輸送機器関連・・・・車を作って給料を頂いているサラリーマンにとって、シャレにならない。


そろそろワンマン社長お得意の思いつき発言の飛び出す時間だろう。


「安全意識向上のため、来月より3か月間を強化月間として毎週月曜日にKYKを実施してもらう。フォーマット及び運用手順は安全委員会より職場リーダーにメールが届くので、それに沿って実施するように。」

おお、意外とまともなプランできたな。と、心の中で批評していると続けて社長の発言が続く。


朝礼の終幕も近いだろう・・・・壁の時計に目を向ける。


「テーマは交通安全に関すること。  以上。」

ビンゴ! 大当たりであるが、正直あまり嬉しくない。週の初めに無駄に運を使ってしまった後悔しか残らない。まあ、この重苦しい空間から解放されただけで良しとしよう。そう自分に言い聞かせるしかなかった。


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