第1章 砂漠化

砂漠渡りの前夜


 随分ずいぶんと長い月日が経ったものだとこよみを見返してみると、そんなに経っていないことが分かった。これが俗に言う”神様のイタズラ”なのだろうか。それとも自分だけ他のヒトとは違う時間を過ごしているのだろうか。

ルゥロは顎に手を当てた。机が部屋の中央にあるためか窓を見ても外はまったく見えない。白に近い水色が雑に塗られ、白を適当に置きましたと言うべき空は見えたが、きっとそれは遠い地方のものなのだろう。部屋からは真上の空など見えやしない。

手を顎から放すとのびをする。

ルゥロはたまに、こうやってのんびり時間を過ごすことがある。そういう時は大抵友人たちのことを考えていて、そのことを紙に書き留めていく。書くことによって改めて近状を把握するのだ。

昨日はセイテのことを考えた。

きっかけはレックの「セイテは一人で生きていけるのか?」という疑問をぶつけられたときだった。そこでルゥロは自分が弟を甘やかしてきたのだとようやく気付く。

セイテは周りから兄依存症と言われているのだが本人は自覚がない上に、ルゥロの方もこれといって気にしたことはない。

ルゥロのすることと全く同じことを当たり前のようにセイテはしていた。十六にもなってそれではやっていけない、心配したレックが呆気にとられるルゥロに畳みかけた。

「本当にそれでいいのか」「セイテを自立させろ」散々言われて有無を言う暇さえも与えられずセイテのことを考えることとなった。その結果レックは間違っていなかったとルゥロはひどく落ち込み、反省した。

「ニミルは今日も異常なしっ」

 素早く書いてふとルゥロはニミルと出会った頃を思い出した。

ネガティブとまではいかなくても暗かったニミルは明るくなった。それどころかポジティブ思考までどこからか見つけてきたのだ。元々ポジティブだったのかは分からないが、すごくうるさくなった。よく喋るし、よく笑う。

表情豊かな彼を見ているとこちらも笑顔になってくるのだが、一つ気がかりなことがある。

「あれ以来、ニミルの笑った顔以外見てないな」

出会った当初も今と変わらず、青い顔、赤い顔と様々な表情を持っていた彼はここ一・二年笑顔ばかり目にするようになった。もちろん青い顔もするのだがそれはレックが刃物を持っているときだけ。

「まだ何か心残りがあるんだろうな」

 こうやって整理していくと大事なことが見えることがある。

時計を見ると正午近くになっていた。

今日は皆でご飯を食べる約束をしていたことを思い出し、ペンを机の上に置いた。持っていく物を確認していると視界の端に先程の紙が目に入る。

ルゥロは迷った末、それを持っていくことにした。


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