第36話
話しているうちにだいぶ温度の下がってしまったココアをラムは喉に流し込んだ。少々粉っぽさのあるそれを味わっていると、勇者の彼女が「ん?」と声を漏らす。
「そう言えばこの街に入ってからは委員会の面々とは連絡が取れていないな」
眉目をひそめ、首を傾げる。
すぐさま彼女はギュっと目を瞑るも彼女の脳裏には何の映像も人影も見えはしないらしく、サッと顔色を青くさせた。
「な、なんで…どうしよう。見捨てられた、のか?そんな、急にどうして」
狼狽えるルチル。彼女の取った行動に釣られ、何ともなしにラムも目を瞑ろう、と、したところで「何騒いでるのよ」と郁が浮かない顔をさせて部屋へ戻ってきた。
「なーんの連絡もないわ。今回の作品にあたしは必要ないのかしらねっ」
ぷりぷりと怒った素振りを見せ、テーブルに放置していた猫のしっぽが持ち手になっている彼女専用のマグカップに残るココアを一気に飲み干した。
「どうせなら、こっちから訴えてやろうかしら…」
「おいおい、物騒な事言うなよ。て、言うか、もう物語は終わってるお前に結末選考委員会と連絡取れる手段、あるのか?」
「あら、仮にも二冊以上本が出版された物語の主人公よ?明確に続編が決定されなくとも、今後の出版に合わせてそれなりに今後の展開に使えそうな設定だとか小ネタだとかを決める話し合いを聞いたり、逆にこちらから提案したりする権利があるのよ。だから、物語の終了と共に連絡が取れなくなる短編小説の主人公とは、あたしは違うのよ」
「…なに若干ドヤってんだよ」
寧ろ短編から長編に格上げになることの方が多い結末選考委員会だというのに、とはあえて口にはせず、ラムはそれを胸の中に抑え込んだ。
半笑いをして言葉を返したラムに被せるようにして「あ、あの!」とルチルが焦った様子で声を発した。
「委員会に確認して欲しいことがある…んだ。わたしの物語は、その、放棄されていないか、どうなのか…」
「…え?何よ、あんたの話は結末は決まってるんじゃなかったの?それを遂行するために街まで彼を追いかけて来たんでしょ?」
「そ、それが…よく分からないんだが、えっと…」
「なんか目ぇ瞑っても委員会室も委員会の面々も見えないらしいんだ」
ラムが「だよな?」と確認しつつ、オロオロする彼女に代わり急に彼女へ降りかかった異変を郁に伝えてやる。郁はラムの言葉に納得したのか、すぐさま落ち着いた面持ちスッと目を閉じた。
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