命短し恋せよ乙女21
「ふむ。眩しいな」
「…………」
「異教徒……」
三人組が、三人組を見やる。
後者は照ノと玉藻とアルト。
前者は名前こそ知らないものの、否定派の刺客だった。
「ドラゴン……」
照ノが呟く。
わりかし分かりやすい戦力。
順にドラゴニュート、鬼切り、威力使徒だった。
「やはり協会が動きやしたか」
「では誰が誰を相手取る」
玉藻は戦う気満々だった。
バトルジャンキーではありしも、派手な喧嘩は江戸っ子の花形であり、なおしがらみのように玉藻御前を容易につかみ取る。
「小生、苦労人ではないので威力使徒を」
「では僕は鬼切りを」
「よかろう。龍人はこちらで引き受けようぞ」
「肯定派の刺客ぞな?」
龍人が尋ねる。
纏っている武威は相当な物だ。
常人なら吐き気を催すプレッシャーだろう。
ただソレすらも、お三方にとっては呼吸のようなモノで、ついでに言えば「たかがドラゴニュート」ですらあった。
「刺客というならそっちじゃろう」
ご尤もな玉藻の意見。
照ノも同感だった。
「魔導災害を糾すためです」
威力使徒がそう述べた。
理論武装で固められ、盲目なりし献身を主に誓った威力使徒の視野はあまりに狭く存知在った。
確かに一理はある。
あくまで一理だが。
「我を滅ぼすか!」
ミズチが吠える。
赫怒が声に乗っていた。
エレメンツが想起して、大気中の水分が鳴動し始め、ソレが威力的に事象へと落とし込められていく。
「御流様に於かれましては、お守りしますので出てこないでいただきたい」
アルトが諫めた。
「ほう?」
「人間でありながら災厄に抗うか」
「この度は御前がドラゴニュートのお相手をしますがね」
アルトは怯まない。
大公殿下としては、別にプライドも刺激されなかった。
そんなものに全く興味がなく……自分を自分一人以上に認め識ることをしない御仁であり、ある種の謙虚でもあるのだろう。
「さてそれでは」
パチンと、そのアルトがフィンガースナップ。
無味無臭の結界に閉じ込める。
夜空の滝元。
風景も時間も変わっていないが、四次元目にズレた異世界だ。
「良いのか? 全力を出させればそちらが死ぬぞ?」
龍人は何処までも不遜だった。
「それはまぁ急いては近くご覧じろとの事で」
サラリと受け流す。
アルトの言葉だ。
このスルースキルは照ノの不遜に匹敵した。
悪意が無い分、純真で悪辣だが。
「ほう」
少し興味を持たれたらしい。
「何者為るや?」
「さて」
「某はベル。ドラゴニュートである」
「…………」
「威力使徒」
敵の三人は三様に態度を表わした。
ドラゴニュート。
龍人とも呼ばれる。
一種の龍の擬人化で、四肢を持つドラゴンだ。
攻防共に破格で、純粋なフィジカルとしてなら最強の一角に身を処す。
まるで、
「玉藻ためにあるような戦力でやすね」
とは照ノの言だった。
鬼切りは腰に刀を差している。
和刀だ。
サムライなのだろう。
武威は少なく、気配は希薄。
だがそれ故に不気味さを感じさせた。
静かなる剣は、一種の極致だ。
照ノが相対している威力使徒も相応だった。
クリスレベルではあるだろう。
照ノが不覚を取る事はないだろうが、一般的には魔術師の天敵でもある。
ヒュン。
銀光が奔った。
仮想聖釘。
意識と同時に全員が防ぐ。
蒸発。
修正。
再生。
まず以て、一神教の威光ですら逆らいがたいのが照ノたちだ。
もはや仮想聖釘など順次の次だ。
「さて、役者は揃い申した」
照ノと威力使徒。
玉藻と龍人。
アルトとサムライ。
誰もが誰とも生半な相手ではないことを悟り、それでも全霊を以てして滅びを与え給うことを主義とする。
「血を見ずに済まないのは、何も人間だけではないでやんすか」
知性の持つ愚かしさ。
あるいは不条理。
経験と教訓のトレードオフ。
たしかに意識体は争う事から始めるのだから、
「救い難いでやすな」
それもまた事実だったろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます