命短し恋せよ乙女05
朝。
「…………」
照ノが起きたら、隣にエリスの顔があった。
彼女のはにかむような……からかうような……あるいは照れているような……そんな御尊顔がとっても貴かった。
「おはよ」
「まだ死んでやせんね」
「だぁねぇ」
サラリと返される。
「朝食できてるって。行こ?」
「でやんすな」
くあ、と欠伸。
喪服姿になって、大食堂に顔を出す。
健康的なメニューが並んでいた。
卵は取れたてで、牛乳は新鮮……海苔は薫り高く、米はつやつや……総じて真駒家の朝ご飯は美味しかった。
「今日は何するー?」
アリスはすっかり観光気分。
気分も何も観光で相違は無いのだが……それにしてもテンションの高めは彼女らしくもあろう。
「また海でしょうか?」
ツンデレコマンダーは、首を傾げていた。
「わらわはパスじゃ」
玉藻御前は、ヒラリと手を振った。
「エリスさんはー?」
「泳ぐなら付き合いますよ」
泳げはしないのだが。
ここでも少しだけ……照ノには夜の幕間での時間が想起され、顔を苦虫な……と呼べる様に変質せしめた。
「スイカジュースが美味しかったなー」
「また準備させましょう」
「アルト公は?」
「僕も、楽しいなら何でも」
「ジル嬢は?」
「サンサンの太陽の下で、海水浴なんかしたら死ぬし」
輸血パックをチューと飲んでいた。
ヴァンパイアに焼けるような太陽は……本気でシャレになっていない。
こちらはこちらで業の深いらしいにて。
「さいでやすか」
照ノは謝りはしなかった。
求められていないのは、わかりきっているので。
「お兄ちゃんはー?」
「クリス嬢の水着姿は見たいでやんすが」
「――――――――」
ジャキッと仮想聖釘。
朝食を終えて、茶の時間。
「此処で不用意に攻撃なすな」
照ノの正論は、正論らしく正しいものの、クリスには時折、通じない。
「腰が細いのでいいのでは」
くびれはある。
パイオツがないだけで。
「殺す」
「ダメだよクリスさんー」
アリスも止める。
「そも照ノには利かんじゃろ」
玉藻御前は笑った。
「痛いは痛いんでやすがねぇ……」
死なないなら、どんな扱いを受けても良い。
そんな境地には至らない。
それは地獄の再現だ。
「小生は、まぁ何とかやりやすよ」
「別行動で?」
「へぇ」
グイと茶を飲んだ後、
「ふむ」
キセルをくわえ、タバコに火を点ける。
紫煙を吸って吐いた。
喫煙特有の穏やかな気持ちと相成る。
「ちなみに何するのー?」
「観光でやすな」
サラリと答える。
殊に、明示する必要も無い。
それもまた事実。
「照ノ。お主……」
「何でやしょ?」
「分かっているのか?」
「さて」
多分、掴んでいる情報は、総量だけで言えば玉藻御前の方が多い。
「玉藻も似た意見で?」
「じゃの」
くっくと御前が笑った。
ススキのように九尾が揺れる。
「そこの大災害二人は何を考えています?」
クリスの瞳が鋭くなる。
「異国人には関係ないの」
御前はいっそ清々しかった。
「照ノも同意見で?」
「大局的に申さば」
政治的に、高度に配慮した返答だった。
「ツンデレにおかれましては御心安んじられやす様」
「ツンデレじゃ在りません!」
仮想聖釘。
ヒョイ。
何時もの光景。
「水着万歳」と書かれた扇子を広げて扇ぐ。
フーッと、吸った煙を体外に吐き出した。
「神様なんか信じてないんだからね! か、勘違いしないでよ! ……でやんしょ?」
「信じています!」
仮想聖釘。
ヒョイ。
「で、まぁ」
「話を流そうとするな!」
「海で遊んでやっせ」
照ノは、キセルをくわえてタバコを味わった。
「マッチに困らないねー」
「まこと人の世は良く出来ていやして」
アリスの感想に、胡散臭い言葉で返す火の一現を持ちし魔術師の妙だ。
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