命短し恋せよ乙女03


「おおう」


「うわはー」


「すごいですね」


 広い浴場で、照ノたちは、感動を声にした。


 照ノとアリスとアルトだ。


 男女別に温泉が在り、男子側の浴場に、三人は入っていた。


 アリスは幼児体型なので、


「男湯でも大丈夫」


 と謎の算段。


 実際に性的な目で見られなかった。


 それが人徳と呼べるのか……あるいは単に二人がロリコンではなかったのか……そこは神のみぞ知ると言ったところだろう。


 照ノが神だが。


 身体を清めて風呂に入る。


 ――本当に家族用なのか?


 判断に困る広さだ。


 照ノとアルトは、地酒を飲んでいた。


「お酒って美味しいのー?」


「アリスにはまだ早うございやす」


「そーだけどー」


「大人に成れば分かりますよ」


 そんなアルト。


「大公も子どもじゃないですかー」


「肉体年齢は……ですけどね……」


 クイと酒を飲む。


「ところで何故こちらに?」


「避暑」


 他に無い。


「御前も?」


「あー……」


 説得力が強い。


 どう考えても絶望。


 ことさら腹に一物あるのは、玉藻御前の正常運転ではあれど、そこから波及する結果は時に、御本人の暴走以上に、タチが悪くなる。


「言って詮方なきでやんすが」


 疲労の吐息をつきながら……それでも酒を飲んで、憂き世の垢を外気に吐き出す照ノとアルト。


 クイッと酒を飲む。


 温泉の熱が、ジワリと疲労をほぐす。


「値千両でやすな」


「本当にタダで泊まって良いのですか?」


「好意に甘えやしょ」


 のべーん。


 のんびりな照ノだった。


 実際に不貞不貞しさで照ノを超える人材は……ある種の例外を除いてあまりおらず、ついでに例外もこの地にいた。


「なんならエッチなことしますか?」


「そっちの趣味は無いもので」


「えー」


「大公は畏れおおいでやす」


「ちょー嘘つき」


「でやんすな」


 酒を飲む。


「ていうか僕らはちょっと突き抜けすぎていない?」


「だから良いんでやしょ?」


「そうだけど」


「此処ならアルトも孤独を感じずにすみやす」


「照ノ兄様……」


「どゆことー?」


 アリスが混じってきた。


「アルト公は孤独でやんすよ」


「そなのー?」


「ええ、まぁ」


 英国の暗部だ。


 最後のフィクサー。


「ですから照ノ兄様に出会えたのは僥倖でした」


「?」


 クネリ、とアリスが首を傾げる。


「敵が多い身でして」


「はー……」


「結論から語れば、強い人間としか友誼を結べないんですよ」


「それがお兄ちゃんー?」


「ということになります」


「アリスも強いよー」


「御存知です」


「じゃあ友達ー!」


「ええ、仲良くしてください」


 そんな二人だった。


 実際にアリスの能力……魔術……二次変換……その破滅性は語り尽くすにはあまりに余りある。


「お兄ちゃんほど不死身じゃないけどー」


「まぁ中々いませんよね」


「おまいう」


 最後のは照ノだ。


 事実、彼とは別の意味で、アルトは不死身だ。


 絶対防御パーフェクトディフェンスと呼ばれる。


 信仰の絶対化に於ける、福次効果。


 なるほど。


 孤独であるわけだ。


「友達いっぱいー」


 アリスは単純に嬉しそうだ。


 純度の意味で最大級であり、ついでに何も考えてないアッパラパーでもありしも、清々しさは超一級。


 照ノやアルトには無理な芸当。


 楽しいなら笑って。


 哀しいなら泣いて。


 そんなことを自然とやってのける。


「いい子いい子」


「急に何ー?」


「可愛らしいもので」


 酒を飲む。


「抱くー?」


「止めときやしょ」


 その辺の自重は塩梅の内だった。


 南無。

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