命短し恋せよ乙女02


「夕食になります」


 使用人が、大食堂に料理を並べた。


 山菜とキノコと獣肉。


 海藻と軟体動物と魚。


 山と海の幸がてんこ盛りの夕餉だった。


 海と山に囲まれた避暑地と言うこともあって、その素材の豊富さ、豪奢さは、ちょっと類を見ない。


「いただきます!」


 パンと一拍。


「主よ(以下略)」


 聖書圏の人間も、また祈りを捧げた。


「うまうま」


「美味しい」


 そんなわけで、瞬く間に食べ尽くす。


「…………疎外感」


 一人血を吸っているジルだった。


 吸血鬼なので、さもあらん。


 使用人は無難に対処していた。


 まず御流様信仰があるのだ。


 神秘の一つや二つは、許容できるのだろう。


「至福」


 鯛の刺身を食べて一言。


「イッツジャパニーズお刺身!」


 アルトも御機嫌だ。


「山菜美味しいねー」


 アリスもキャッキャとはしゃいでいた。


「日本酒をくれやんせ」


 玉藻御前は、料理を肴に酒を飲んでいた。


 照ノとアルトは自重。


「美味しいですか?」


「当然でやすな。料理人の誇りを感じやす」


「後で板前に伝言しておきます」


「よろしく御願いしやんす」


 パクリとタコの煮付けを食べる。


「うーん。美味し」


 使用人が、次から次へと料理を持ってくる。


 場合によっては、下手なホテルより豪勢な歓待だ。


「素材を集めるだけでも大変でやんしょ?」


「いえ、真駒家が号令を掛ければ、漁師さんや猟師さんが材料を届けてくれますので」


「愛されてるんでやすね」


「おかげで繁栄しております」


 クスッとエリスが笑った。


「重畳重畳」


 山菜のゴマ和えをアグリ。


 しばらく食事が進む。


 それからデザートを食して、茶の時間になった。


「ふい」


 ――食い過ぎた。


 一言で述べればソレだった。


 美味しすぎて幾らでも食べられて、後に反動がやってくる。


 玉藻御前以外は、茶を飲みながら小休止。


 御前は平然と酒を飲んでいた。


 地酒は、気に入ったらしい。


「後で飲みやすかぁ」


 照ノも興味を引かれた。


 神様は酒好きだ。


 やしおりの酒を、オロチが好んだように。


「お酒は宜しいので?」


「後で飲みやす」


 飲むのは確定らしい。


「とりあえずは玉露を」


 チビチビ。


「ところで、二次変換って伝授して良いの?」


「それやまぁ。文明の表沙汰に露出させなけれや」


「ふぅん?」


 バチ。


 電流火花が散った。


 エレクトロキネシス。


 雷の一現。


「おや、新顔も二次変換を?」


「でやすな」


「したりしたり」


 頷く御前。


「わらわに見せてくりゃさんせ」


「構いませんけど」


 バチッ、と電気が走る。


「雷か。魔術特性モードは何じゃ?」


 ヒョコヒョコと九尾が揺れる。


「えーと……なんでしたっけ?」


 エリスが照ノに問う。


 端的に答えられた。


「一現」


「そう。それです」


「雷の一現。業の深い物を得たのう」


「深いですか?」


「中々にの」


「神殺し……とか」


「可能じゃろう」


 軽く言ってのける。


「ふぅん?」


 エリスは半信半疑だった。


 されども何かを見つめるようで、天井に視線を振る。


「どれ、いっちょわらわが雷の何たるかを」


「やめやっせ。屋敷が崩壊する」


 存在するだけで天変地異。


 それが玉藻御前だった。

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