アルト公の想う者05
「ただいまでやんす」
「お帰りお兄ちゃん!」
ガバッと飛びつく愛らしい少女。
アリスだ。
白いロングヘアーが揺れて、小動物的な御尊顔が崩壊している……ただそれだけで貴重なモノと思えた。
「えへへー。お兄ちゃんお兄ちゃんー」
「照ノはアリスを連れ込んでいるんですか?」
「人聞きの悪い……」
「あれー? エリスさんー?」
「ども」
シュビッと敬礼。
そして休め。
「で、今日は泊まることに」
「サンピー?」
「何処で覚えやす、そんな言葉……」
「インターネット」
「さいでやすか」
情報化社会の荒波だ。
普通にスマホも有する時代ではあるので、ネットで精神が擦れて耳年増になるのも一種の普遍と言える。
「サンピー……」
「エリス嬢も本気にしない」
「えー……」
「何故不満そうでやすか」
「乙女病」
「以下同文ー」
二人の乙女は息ぴったりだった。
というのも照ノも早々に悟っているが、二人の乙女……その意思の向かう先が那辺にあるかを知っているからだ。
「デートはどうだったー」
「面白かったでやすよ?」
「照ノが格好良かったです」
「むー」
アリスの不本意そうな顔。
「何も抱いたわけではないでやす」
「こっちはウェルカムなんだけど……」
「黙りやっせ」
ボッと炎が点った。
照ノの指先から。
「では風呂にでも」
「一緒にっ?」
「別々に」
サラリと流す。
「ところでこの部屋模様は?」
「ブドウ畑でやすな」
あまり間違ってもいない。
床には遁甲の陣。
天上は赤い紐が縦横無尽に張り巡らされ、そこから短刀が伸びている。
ヒョウと呼ばれるソレには、霊符が突き刺してあった。
馬九李によるセキュリティだ。
「ははぁ」
エリスも理解したのか否なのか。
よくわからない独白だった。
「危なくないの?」
「危険域臨界点突破でやんすが」
サラリと述べる。
「ま、魔術師らしいお部屋でやすな」
あまり思うことも無いらしい。
「では先にお風呂をどうぞ」
「失礼」
ヒラヒラーと手を振る照ノとアリスだった。
「でー、お兄ちゃんー?」
「へぇへ」
「泊めるのー?」
「いけやせんか?」
「むぅ」
「愛らしいでやすな」
「だったら行動で示してー」
照ノはアリスの手の甲にキスをした。
「御機嫌伺いやす。お嬢様」
キセルを片手に持って、そんな言の葉。
「いきなりイケメンになられてもー」
「おや、評価有り難く」
「自覚無いー?」
「さすがに、自分を格好良いと論じられるほど若くはありやせん」
「三千歳だっけー?」
「未満でやすがね」
「八百万の……」
「そんな処でやしょうか」
特に、取り合わないときは……彼は徹底的に取り合わない。
彼女の方は、そうもいかないが。
「こんなに美少女に囲まれてー」
「ソレは失礼をば」
苦笑い。
「されども小生は、人間ではございやせんので」
「日本神話でもエッチはあるよー?」
「然りでやすな」
それも事実だ。
こと日本の古典は、在る意味でエロ本よりもエッチなこともある。
性交信仰が形になるのは、人間の営みでは不可避とも言える。
特に土着信仰は、その点で共通だ。
「アリスとー」
「しないでやんす」
「ケチー」
「で結構メリケン粉」
「きっとおっぱい大きくなるから-」
「ではそうなってから言ってくやさい」
「むー」
難しい注文だ。
アリスの寿命は千年。
肉体と意識の流れに時差が存在した。
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