エレクトロキネシス12


「遅い!」


「定期試験は逃げやせんよ」


 そのような問題でもなかろうが。


「それで要件は?」


「生理が来ないの」


「おめでとう」


 さすがに、ブラックジョーク程度は嗜むらしい。


「で、誰の子を孕んだかは別として、勉強するんでやしょ?」


「もうちょっと狼狽えてくれても……」


「さすがに手を出していない女性に都合を背負うほど、小生には甲斐性がございやせんからに」


「本気だったら良いの?」


「あまり子を為すは本気になれやせんな」


「童貞?」


「然り」


 くわえたキセルを、ピコピコと上下。


「ところでクリスとアリスは?」


 彼女……エリスは、改めてそう尋ねる。


 市立図書館。


 休日も相まって、人はたくさん存在する。


 照ノとエリスも、その範疇だった。


 そこに何時もの二人が居ないのは、なるほど不審に値するだろう。


「所用でやすよ」


「魔法関係」


「そうとってよろしいかと」


「都合がいいは……確かにその通りか」


「?」


 照ノにしては珍しい、困惑の表情だった。


 無論、表情筋は動かしていないが……乙女心か……他の陰謀か……あるいは何かの特殊性か……。


 読心術の心得もないので、ノーヒントでは察せ様もない。


「ちょっと来て」


 とエリス。


 彼女の背中を見つめながら入館。


 彼女は学生スペースの個室をとっていた。


 三、四人は淹れる広さだが、これは照ノと同行するはずだった……クリスとアリスの分まで、席を確保したためだろう。


 照ノは基礎五科目の教科書と資料を、学生鞄に入れていた。


 紅羽織は人目を惹く。


 少年でありながらキセルをくわえているのも、たしかに要注意だろう。


 ただし喫煙は――この場では――していないし、さすがに嫌煙社会に逆らって、公共施設で喫煙するほど、照ノは空気を読めないわけではない。


 あえて読まないことは多々あれど。


「それで何から勉強しやす?」


 教科書を広げる照ノ。


 エリスは、透明なプラスチック製の扉を閉めた。


 とはいえ廊下に面接する壁も、同じプラスチック製なので、人目を憚る……というには少し警戒が弱い。


「ちょっと聞きたいことがあるの」


「はあ。小生の耳に収まりやすれば」


 こんなことを真顔で言うから、照ノには友達が出来ないのだが。


「えーと……」


 彼女は、両手を肩の高さまで上げた。


 拳を握り、人差し指だけをピンと伸ばす。


 だいたい肩幅程度の距離だ。


「ふむ」


「それで……」


「……………………」


「スパーク」


 バチッ、と音がした。


 閃光が、それに先んじる。


 電流。


 それしては、電池もスタンガンも持っていない。


「これって二次変換?」


「でやすな。種も仕掛けもないのなら」


 奇術と魔術を分けるのは、まず其処だ。


 エネルギー保存則のガン無視。


 情報から事象を取り出すため、二次変換と呼ばれるのだから。


 一次変換でも、三次変換でもない。


「なるほど適性がありやしたか」


「ええと……どんな意味?」


「基本的に人類文明の観点からして、二次変換は秘匿されるべき物でやんす」


「聞いた」


 彼女にも言ってある。


「科学文明が蔑ろになる……だっけ?」


「でやす。場合によってはエネルギー問題も解決し、ついでに多くの死者がでやす」


 別段ソレは二次変換に帰属する責任では無い。


 ――拳銃で人を殺したからとて、拳銃に責任があるのか?


 そんな理論だ。


「そのため、二次変換には検閲が掛かりやす。これは世界中何処でも一緒でやすね」


「照ノも?」


「まぁそれなりに」


 ホケッと答える。


「然れども希に、二次変換に適性のある魔術師の雛も存在しやす」


「それって……」


「おんしでやすね」


「私……かぁ」


「エレクトロキネシス……でやしたか」


「だね」


「まさか此処でいきなり見せられるとは」


「ダメでした?」


「いえいえ。その才能には敬意を」


「もっと出力上げられるんだけど……」


「此処では自重やさい」


「照ノが言うなら」


 バチチ、と雷電が鳴る。


 エレクトロキネシス。


 その真髄が、見て取れた。


 ――開花が早すぎる。


 その点は、たしかに照ノも驚かされた。


 あくまでポジティブな意味合いであって、別段、狼狽もしないものだが。

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