エレクトロキネシス11


「むにゃ」


 スマホが鳴った。


 ラインだ。


「何でがしょ?」


 半分ほど眠りこけながら、スマホをタッチして、コメントを表示し、トクトクと文面読み上げる。


『起きてる?』


 が、その内容だった。


『今起きやした』


 コメントを返す。


 一瞬で、既読が付き、返信もマッハだ。


『勉強しようよ』


「優等生の鏡でやすなぁ」


 ボソリと呟く。


 今日は日曜日。


 もうすぐ定期試験だ。


 テスト対策は……たしかに普通は必要だろう。


 コメントは、他にもあった。


『出かけてきます』


 とアリスのラインによるコメント。


 さすがに休日まで、叩き起こす鬼畜性は持ち合わせなかったと見える。


 それはクリスも同様だろう。


「はて……」


 欠伸をして、身支度。


 いつも通りの服装だ。


 喪服に紅色の羽織……曼珠沙華の意匠が、あまりに鮮やかな、ある種の照ノのお気に入りでもあった。


 口にはおしゃぶり代わりに宇羅キセル。


 タバコを吸うつもりはなかった。


 ボロアパートを出て、隣の教会へ。


「マリア殿~」


 裏口から入る。


「あらぁ照ノちゃん」


 シスターマリアは相も変わらずぽわぽわした御仁だった。


 色々と不安になるほど。


「飯を恵んでくやさんせ」


「構わないけど。外で食べた方が美味しくない?」


「マリア殿の手料理に胃袋を掴まれおりやすれば」


「あら。嬉しい事言ってくれるじゃない」


「本心でやんす」


 そんなわけで遅めの朝食を取るのだった。


「クリス嬢は?」


「協会」


「アリス嬢は?」


「倭人神職会」


「よく御存知で」


「朝食の際に聞いたもの」


「ははぁ」


 美味しいハムエッグを、口内に放り込んで、咀嚼および嚥下することで幸せを噛みしめる。


 そこに人も神もないらしい。


「さて、それでは……」


 少し勘案する。


「エリス嬢の相手は小生一人でやすか……」


 殊更、恨みを買ったつもりもないので、そこはマイナス面の心配もしようがないものの、何となく珍しい形状ではあった。


 クリスやアリスは例外としても、照ノに学友はいない。


 偶然の産物とは言え、一緒に試験勉強……というのは、記憶に懐かしい。


「同期の桜……でやんすか」


「何の話?」


「ハムエッグが美味しゅうございやす」


「光栄よ」


 華やかにマリアは笑った。


「ジル嬢は?」


「結界に篭もってるんじゃない? 今日は、掃除するつもりだから、カーテンも全開だし。第三真祖の眷属としては、こっちに来れないで一票」


「得票率は高いでやすな」


 ハムエッグをもぐもぐ。


『市立図書館集合で良い?』


『構いやせんよ』


 食後のフレッシュジュースを飲みながら、照ノは返信した。


「今日はタバコ吸わないのね」


「学友にも迷惑が掛かりやすし」


「ふぅん?」


 マリアは、すっ惚けているのか、素なのか、曰く言い難い表情になっていた。


「馳走になりやした」


「お粗末様でした」


 ニコリと破顔。


 神職にある者の、洗練された笑み。


「これで主に操を捧げていなければ、いくらでも幸せはありやしょうに」


「好きでやっていることだから」


「小生を拝んでもいいでやすよ?」


「ま、気が向いたらね」


「フラれ申しましたな」


「照ノちゃんが嫌いなわけじゃないわよ?」


「念を押されなくとも疑っておりやせんが」


「それは重畳」


「朝食馳走」と書かれた扇子をパンと広げる。


 そよそよと風を自身に送る。


「しかし夏でやすな」


「暑いはね」


「どっかの神様が光あれって言ったせいで……」


「けれどおかげで自然法則は上手く回っているわ」


「それも然りでやすな」


 ククッと、照ノは笑った。


 彼自身も、元は太陽神だった身だ。


 なんとなく、


「カルマでやしょうか?」


 その程度の、自己矛盾は、形而上的に抱え持っている。


 とはいえ気後れしたり、自重したり……ということに縁が無いのも、彼の不貞不貞しさに一定の論拠を証明する物だったが。

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