そは堕天する人の業14


「どう落とし前をつける気でやす? これであのゴーレムが結界から反転したら軍隊でも止められやせんが?」


「破壊する」


「可能でやすか?」


「久方ぶりの手応えじゃ。このまま失うのは惜しいのう」


「……好きにしやっせ」


 それ以上言わずに照ノは喫煙に意識を割いた。


 玉藻御前の狐火とメタルゴーレムのビームが拮抗する。


 が、此度に限って言えば初手だ。


 本命は別にある。


 最恐の妖狐にして最強の霊狐である白面金毛九尾の狐……玉藻御前の金色の尾っぽが光子を纏った。


 妖しげな輝きを称えて九つの尾っぽが威力を発揮する。


「雷……」


 一本目の尾っぽは稲妻を放った。


 自然現象のソレに勝る威力の電撃だ。


 が、雷とは元来神の怒りに例えられる。


「神罰をエネルギーとする」機構を持っているメタルゴーレムには補給以上のモノではない。


「火……」


 二本目の尾っぽは炎を生み出した。


 熱量が溢れ蜃気楼を生み……まるで空間そのものが歪んだかのように照ノに錯覚させた。


 炎はメタルゴーレムに痛痒を与えることが出来なかった。


 メタルゴーレムの魔術障壁を貫通できなかったのだ。


 しょうがないと言えばしょうがない。


 元来炎はプラズマで不定形だ。


 熱の伝達さえ遮断できるのならば物的破壊は無いに等しい。


「土……」


 三本目の尾っぽは地面を操った。


 剣山刀樹と呼んで差し支えない急激かつ鋭利な針のむしろが地面から突き出てきたのだが、今度はフィジカルに身を置きすぎた。


 神性によって強化されているのは玉藻御前もメタルゴーレムも同等。


 その上で土の針がメタルゴーレムの金属のボディを貫けるは道理でなかった。


「風……」


 四本目の尾っぽは颶風を顕現させる。


 風が荒れ狂い、玉藻御前とメタルゴーレムの間合いを蹂躙すると、局所的に超圧の大気を生み出し、風のギロチンと化す。


 さすがにその威力には、魔術障壁も障子の紙で、超硬金属の鎧にも切り傷がついた。


 漸くメタルゴーレムに、ダメージらしいダメージを与えたのであるが、


「おや、まぁ」


 喫煙しながら成り行きを見守っていた照ノが感心するほどの再生力で、傷を修復してのけた。


「水……」


 五本目の尾っぽは水を生み出す。


 超圧搾されてウォーターカッターとなる五本目の尾っぽ。


 一般的な原理でも鉄やダイアすら削り切る代物。


 まして最恐最悪の妖怪が自身の尾の一本に込めた神域の代物。


 これが最も力を発揮した。


 メタルゴーレムの片腕を、肩の付け根から切り離しせしめたのだ。


 熱や火に強い反面、水や冷却にメタルゴーレムは適応していないらしかった。


「なるほど」


 納得する照ノの口が、への字に歪む。


 まるで触手のように、メタルゴーレムの本体と切り離された腕の……その肩の付け根から回路が現れ、絡み合うと、復元してしまったからだ。


 一神教異端……アルトアイゼンの技術力は、機械に再生能力を持たせることにまで成功したらしい。


 賞賛と脱力がヒフティヒフティ。


「光……」


 六本目の尾っぽは纏った光子の粒をより集めてレーザーを放った。


 容易くメタルゴーレムの魔術障壁を打ち破って本体を貫くが、小さな穴が開いただけで、それも自己修復によって無かった事にされた。


「闇……」


 七本目の尾っぽは、ミッシングマスを具現して、理解不能の質量と重力によってメタルゴーレムを叩きつぶしたが、あえなく再生された。


 これは単に玉藻御前の力不足を嘆くのではなく、メタルゴーレムの起動に際して得たエネルギーのキャパを褒めるべき所だ。


「あと二本でやんすなぁ……」


 照ノはお気楽に喫煙中。


「凶……」


 八本目の尾っぽは天高くへと昇り巨大な氷塊……流星となってゴーレム目掛け落下した。


 圧倒的な質量兵器。


 その神威は見る者全てに絶望を抱かせる。


 照ノは例外であれど、アルトアイゼンの面々は慌てふためいていた。


 おそらく玉藻御前の八本目の尾っぽが地表とランデブーしたら、巻き上がる土砂の総量はトン単位となるだろう。


 現実世界で使えば、地球の一部を氷河期に遡行させうることさえ可能な凶星。


 玉藻御前のマジカルの切り札が、そのアギトから放たれる核兵器さえ霞む狐火だとしたら、八本目の尾はフィジカルの切り札。


 ただ単純に、質量と熱と衝撃で圧倒する天災だ。


 が、玉藻御前が天災ならば、メタルゴーレムもまた天災。


 自身に向かって落下する氷塊を認識すると、超常的な熱量のビームで対象を欠片も残さず焼失させうる。


 夜天を斜めに切り裂いて、地上から発した光が、闇の帳を両断した。


「あー……」


 喫煙しながら照ノは痛むこめかみを押さえた。


 今のが玉藻御前の切り札であることを照ノは知っている。


 とても現実世界では使えない二次変換であるため、結界内でしかお目にかかったことはないが、その破壊のもたらす意味を当人の次くらいには理解していたのだ。


 それを真正面から力技で打ち破るゴーレムのビームの威力のほどがわかろうと云うものだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る