最凶の荒神VS最恐の妖怪04


「でも一次変換は確かに行われたのでしょう?」


 反論するトリスに、


「つまり虚無と有意の相反性が神に求められると云ったところかな」


 皮肉で返すアリス。


「パパはどう思ってるの?」


「だから偶像だって」


 遠慮の欠片も無い。


「アリス嬢には言いやしたが、仮に全知全能が存在するとして……それはいったいどういう存在でやしょう?」


「どんなって……」


 クネリ、と首を傾げるトリス。


「インテリジェントデザインの主ではないのですか?」


「それは地球規模での話でやしょう?」


「はあ」


 ポカン。


「もうちょっと深く踏み込みやすよ」


 照ノは、ナンカレーをもむもむ。


「全てを知り、全てを能う。これが全知全能でやすね?」


「ですね」


「宇宙の広大さについて思想したことは?」


「まぁ何度かはありますが……」


「では広大な宇宙において地球の小ささについては?」


「…………」


「廻る銀河のその果ての青く輝く小さな星の……と云う言葉がありやす」


「でもそれが何でしょう?」


「よく考えやしょう?」


 照ノは言う。


「全てを知るということは全てを取捨選択することに他なりやせん。全てを能うということは全てに干渉することに他なりやせん」


「神ゆえに当然ですね」


「然りでやんす」


 コックリ。


「では聞きやしょう」


 ナンカレーをもむもむ。


「全てを知るということは全てを認識するということ。全てを能うということは全てに結果を出すこと。この広大な宇宙で量子の発生と変動と移動と回転を全て調律する能力とはいったい何でやしょ?」


「それは……」


 トリスに不利な問答だ。


 だからと言って心付けをする照ノでもないが。


「仮に全知全能の存在がいるのなら全ての事象は全知全能の御膝元。運命論における絶対現象が確立されやす」


「…………」


「トリス嬢。きさんの呼吸も便意も性欲も肉付きも全て絶対神による運命の結果に相違ありやせん」


「よくカレーを食べながら便意なんて言えるね」


 アリスのもっともな指摘に、


「あ……」


 照ノはナンカレーを食べる手を止めた。


 が、


「まぁ良かれ」


 と自己納得してもむもむ。


「小生がナンカレーを頼んだのも、クリス嬢がツンデレなのも、トリス嬢が生まれつき業を背負ったのも……そしてクリス嬢を構成するツンデリウム分子を構築し、トリス嬢の降霊憑依を量子単位で可能とするのも、全ては神の意思と云うんでやすか?」


「事実そうでしょう?」


「宇宙に煌めくエメラルドだけに唯一神が固執していると?」


「それは……でも……」


「でやんす」


 照ノは苦笑する。


 タンドリーチキンをアグリ。


「全てを知るならばそこに感傷はいりやせん。全てを能うなら悲劇なぞ起きようもありやせん」


「……………………」


「でやすから唯一神とはヤルダバオトのことでやんす」


「悪神だね」


 くっくと笑うアリスに、


「然り」


 照ノは頷く。


「餓死する子どもと飽食する大人。この矛盾を一神教はどう捉えやす?」


「それは……」


 言葉につまるトリスだった。


「唯一神が真に全知全能であるならば、絶対的な運命が……たしかにあって。ソレによって世界は回っていやすよ?」


「だね」


 コックリとアリス。


「自爆テロも……ペストも……アヘン戦争も……全て神の意思と云うんでやすか?」


「あう……」


 もはや完全にトリスは追い詰められていた。


 全知全能の存在は、絶対運命論を肯定することに相違ない。


 そして人間の業が発する悪は、神のせいと云うことでもあるのだ。


「これを悪なる神デミウルゴスと呼ばず何と言う?」


 それが照ノの結論だった。


 そもそもにして本当に唯一神が全知全能ならば、人類、皆、全て一神教を信仰しなければおかしな話である。


 だが現実として、天常照ノの様な存在が居て、幅を利かせている。


 即ち全知全能の否定。


 照ノと云う存在そのものが、全知全能に対する一つのアンチテーゼ…………と成っているのだった。


「では神とはなんですか?」


「偶像でやすね」


 特に臆することもなく照ノは答えた。


 事実だ。


 世界の全てが崩壊しても生き残れる照ノにしてみれば、ハルマゲドンなぞ考慮にも値しないのだから。


「どうでやす? 唯一神に順ずるより小生に抱かれやせんか?」


「パパのエッチ……」


「今更でやんすね」


 照ノは肩をすくめた。

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