最凶の荒神VS最恐の妖怪03

 四限目の終わりのチャイム。


 昼休みと相成る。


「さて……」


 授業を終えて、だらけながら、今日も今日とて、


「進入禁止の屋上に行きやすか」


 などと照ノが思っていると、


「パパ」


「師匠」


 ニコニコ笑顔で、トリスとアリスが近寄ってきた。


 ニコニコ。


「何でやす?」


 照ノが問うと、


「今日は逃がしません」


「以下同文」


 トリスとアリスは、照ノの右腕と左腕に、抱き付いてきた。


「何の嫌がらせでやす?」


 ちなみに、トリスとアリスは、聖ゲオルギウス学園における、美少女双璧の二人だ。


 天使の記号を付与されて生まれてきた女の子。


 もっともオリジナルに近い人間アダムカドモンの女の子。


 相応の神秘的な美貌を持って、当然と言える。


 神がかりの美少女故に……愛を紡ぐ(この場合は男子女子問わずだ)生徒たちで溢れているが、二人が首を縦に振ったことは無い。


 トリスは、単純に一神教の熱烈な信者であるため、色欲が大罪とされるから。


 アリスはもっと単純で、他に好きな人がいるから。


 この場合は当然、照ノのことである。


「小生タバコを吸いたいんでやんすが……」


 おしゃぶり代わりにくわえているキセルを、ピコピコと上下させながら照ノ。


「たまには禁煙もなさってください」


「別に支障はないだろう?」


「周りの視線が痛いんでやんすが……」


 ピコピコ。


「たまには享受なさってください」


「別に支障はないだろう?」


「…………」


 ピコピコ。


「何処に行きやす?」


「共通学生食堂です」


「うへえ」


 初等部から大学部までの生徒が集まる場所だ。


 そこにトリスとアリスをはべらせて突貫するということは、照ノに辟易を呼んだ。


 かといって振り払うことも……また出来ないわけだが。


「小生の意見は?」


「駄目」


「却下」


「でやすか」


 諦めて、照ノは、トリスとアリスをはべらせて、共通学生食堂に向かう。


「ナンカレーとタンドリーチキン」


 いつもの昼食は購買で済ませるのだが、今はそれが叶わないため、照ノは学食ならではのものを頼んだ。


 トリスは黒パンと鶏カツの卵あんかけにコンソメスープ。


 アリスはカツ丼。


 そして空いている席に座って、昼食を開始する。


「で、何の用でやんす?」


 ナンカレーを食べながら照ノ。


 キセルは懐に仕舞われている。


「特に意味なんてないですが……」


 ぼんやりとトリス。


「あえて言うなら牽制かな?」


 皮肉気にアリス。


 カチャカチャと食器が鳴る。


「牽制ね……」


 嫌そうな顔をする照ノだった。


 自身に「偽悪を演じろ」と言われたも同然だからだ。


 基本的に、


「来る者拒まず去る者追わず」


 の精神だが、


「ママには付き纏っているよね」


 トリスの言論に、封殺された。


「ま、いいんでやすがね」


 そんな照ノの言葉は、負け惜しみ以上のものではなかった。


「パパも一神教に入信すればいいんですよ。そしたらママだって結婚を考えるかもしれませんよ?」


「ちと小生には難しい案件でやんす」


 タンドリーチキンを食べながらうんざりと。


「なんで?」


 トリスは不思議そうな顔をする。


 本当に、


「意味不明だ」


 と表情が語っていた。


「そしたらパパは私の本当のパパになるよ?」


「所詮、奇跡も魔術の範疇。トリス嬢には盲から覚めてほしいでやんす」


「そんなこと言われても……」


「あう」


 と困ってしまうトリスだった。


「アリスさんはどう思います?」


 トリスはアリスに視線をやる。


「無神論者のアリスにそれを聞く?」


 やはり皮肉気だ。


 一時は、神の領域にさえ届かんとしたアリスであるから『神』の何たるかを容易に想像できるのだった。


「そも神とは何だと思う?」


「崇拝の対象」


 トリスはよどみない。


「師匠は?」


「小生自身が神でやんすからなぁ……」


 ぼんやりと。


 金星の属性を持つ輝かしき神。


 転じて香香背男かかぜお


 真名を、天津甕星あまつみかぼしと云う神道における荒神が照ノだ。


「アリスが言ってるのは全知全能の絶対神のことだよ」


「まぁ偶像でやすね」


 身も蓋も無かった。


 空鍋。


 照ノは、ナンカレーをもむもむ。

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