ヴァンパイアカプリッチオ07
「むに」
照ノは、正午に起きた。
今日は日曜日。
休日だ。
当然、学校も無いため、昼まで惰眠を貪れたというわけだ。
「くあ」
と欠伸して、意識のピントを現実に合わせる。
「起きましたか師匠」
アリスが、ニコリと笑ってくれる。
白く長い髪が、喜色に揺れた。
「おはようでやんす」
照ノは、欠伸をしながら答える。
「昼食とりますか?」
「お願いしやす」
中略。
アリス渾身の昼食をとりながら、照ノは聞いた。
「ソル嬢は?」
簀巻きにしていたソルはおらず、簀だけが部屋の隅に置かれていた。
「朝からお姉様~って」
「神をも畏れぬ野郎でやんすな」
「まぁ一途な少女とでも思えば」
街一つ滅ぼし得るセカンドヴァンパイアを放置して、出てきた言葉がそれであるのだから、発言した者も受け取る者も、胆が太いと言わざるを得ない。
「ご馳走様でやした」
パンと一拍。
照ノはアリスと犠牲とに感謝した。
昼食を終えた後、キセルをくわえてタバコに魔術の火を点け嗜む。
「クリス嬢らは?」
「朝から師匠の魔術錠を解こうとプライドタワーへ」
「熱心なことで」
フーッと煙を吐く。
「ソルもそれに加わった形だね」
「ジル嬢は?」
「さあ?」
両手を挙げるアリス。
「レッドムーンに引っ込んでるかどうかだと」
「愚問でやしたね」
「師匠の魔術錠……アリスも挑戦してみたんだけど、術式があまりに意味不明だったよ」
「元より解かせる気の無い魔術錠でやすから。当然っちゃ当然でやすね」
「どういう原理?」
「秘密でやす」
特に秘密にすることでもない。
先述したが、照ノがプライドタワー周囲の六芒星の一角に掛けた魔術錠は、聖書の一節を用いたソレで、そこに陰陽道と密教による翻訳を必要とする。
つまり聖書と陰陽道と密教の知識を、並列して持つ魔術師にしか解けない代物だ。
「これも給料の内」
と照ノは自覚している。
天に至る御座。
宇宙エレベータを用いて高天原に至ろうとする倭人神職会の都合を優先した結果である。
ちなみに照ノ自身は、高天原出身であるため、別に宇宙エレベータを使った大規模儀式を必要とはしないのだが、一般的な神道系魔術師にとってはブリアレーオの法則に干渉されるらしいことは、認識としては知っていた。
「だからどうだ」
というわけでもないのだが。
「快楽快楽」
紫煙を吸って吐く。
「では見舞いにでも行きやすか」
「アリスは構わないけど神威装置を刺激しないかい?」
「ツンデリッターには、ちょうどいい塩梅でやす」
「師匠はツンデレが好きなのかい?」
「そりゃま、あそこまでこじらせてると可愛らしくも思えるでやんすよ」
くっくと笑う。
「なんだかなぁ」
アリスは遠い目をして言った。
「さて」
との言葉を口に出そうとして、照ノはソレを喉まで押し込めた。
急に別世界に取り込まれたからだ。
時間の反転。
昼が夜になる。
いまだアパートの一室でありながら、暗闇と赤光が支配する空間。
結界。
名をレッドムーン。
ジル……ジルベルト=アンジブーストの所有する異空間だ。
「てーるーのっ!」
「懲りない奴でやんす」
口の中だけで呟く照ノ。
「僕と良い事しよ?」
銀髪が赤い月によって同色に染まり、同色の赤い瞳が照ノを捉える。
「存外お前様も敵を作るのが好きでやんすなぁ」
心底本音だ。
少なくとも照ノにとっては。
「今なら威力使徒いないし」
「ジル嬢も威力使徒でやんしょ?」
「うん。処女だよ?」
「それは聞いていやせん」
「そう?」
パチクリと目を瞬かせるジル。
本気で、
「わからない」
と語っていた。
「そろそろアリスが神勁使って侵入してくるから離れた方が良いでやすよ?」
「3Pは?」
「無しの方向で」
「ヘタレ!」
「恐縮でやんす」
飄々と照ノは言った。
そしてくわえたキセルから、紫煙を吸って、ゆったりと吐く。
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