ヴァンパイアカプリッチオ02

「いただきます!」


「父よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事をいただきます。ここに用意されたものを祝福し、わたしたちの心と体を支える糧としてください。アーゲー」


「いただきます。アーゲー」


「うまうま」


 そんなこんなで、クリスの運営する教会の裏……私生活スペースのダイニングで、夕餉が始まった。


 今日はリゾットである。


 ジルはいつも通り輸血パックだが。


「あの~」


 とこれは吸血鬼。


「何ざんしょ?」


 照ノが応対する。


「何で簀巻きですの?」


「無害化するために相違ありやせん」


 リゾットをがつがつと食べながら照ノ。


「わたくしにも血を~」


「そういや吸血鬼でありやんしたな」


「ですわ」


 ふふん、と自負の吐息をつく吸血鬼であったが、簀巻きにされた状態であるため、成功したとは言い難かった。


「お姉様~。わたくしにも血を~」


「そのまま渇きなさい」


「そんな~。お姉様~」


「誰がお姉様です誰が!」


 クリスは、まっこと不本意であるようだった。


 しょうがなくはある。


 吸血鬼は、アンチ聖書の代名詞だ。


 吸血鬼に慕われて喜ぶ使徒はいない。


「お姉様~」


「くどいです」


 それ以降、黙々とクリスはリゾットに専念する。


「そちらの可愛い吸血鬼も何か言ってやってくださいませんこと?」


「僕としては同情くらいはするけどね」


「一銭にもなりませんわ~」


「そもそも君誰? 名前は? 眷属は? 階位は?」


「「「あ……」」」


 クリスとトリスとアリスが、


「今気づいた」


 とばかりにポカンとした。


 照ノだけは、


「……………………」


 黙々とリゾットを食べている。


 少なくとも、どの真祖の眷属かは、わかりきっているのだから。


「わたくしはソルベ=ブラックモアと云いますわ。ソルと呼んでくださいまし。カーミラお姉様の眷属で階位は第二位ですわね」


「第二真祖カーミラ……」


「のセカンドヴァンパイア……」


「本当に?」


「この状況で不利になる偽情報を言う理由が無いでしょう?」


 それは確かだ。


 この教会は神威装置の威力使徒が住まう城。


 そこで吸血鬼が高位のソレだと知られることは不利にしかならない。


「それにしても……そこの冴えない男はともあれ、他は目移りするばかりの美少女だらけですわね……」


「パパは冴えなくないよ!」


「師匠は格好いいさ!」


「いや照れるね」


 照ノが苦笑する。


「わたくしはカーミラの眷属です故男に興味はありませんの!」


「然りでやんす」


 コックリと頷かれる。


 第二真祖カーミラ。


 レズビアニズム……百合百合の吸血鬼の真祖である。


 吸血鬼としての繁殖の方法は、対象の血を吸って失血死を起こすこと。


 こうすることでカーミラの眷属は増えていく。


 そしてカーミラの気質に引っ張られる形で、カーミラの眷属には、百合百合の美少女吸血鬼しか生まれない……という原則がある。


 血を吸うだけで繁殖するアルカードやノスフェラトゥとは、少し毛色が違う吸血鬼だ。


「お姉様? 吸血鬼になりましょ? 永遠の時をわたくしとともに過ごしましょ?」


「却下です」


「御馳走様でやした」


 照ノが、リゾットを食べ終わる。


 それから、キセルをくわえて、タバコに火を点け、紫煙を吸う。


 殊更ゆっくりと紫煙を吐き、


「どうしたものでやんしょね?」


 ソルの待遇に首を傾げた。


「殺す以外の道理が?」


 まったき真顔でクリスが言った。


「命は大切にすべきかと」


 本心とは裏腹に、皮肉気な声を出したのはアリス。


「僕はどうでもいいかなぁ」


 輸血パックの血を、チューと吸いながらジル。


「今のところ害もありませんし……一方的に殺すと云うのもちょっと……」


 トリスは忌避していた。


「甘いですトリス。吸血鬼とはアンチ聖書の化け物です。そこに容赦はいりません」


「さすが元十字軍」


「本当に」


 くっくと照ノとアリスが笑う。


「何か文句でも?」


 ギラリと睨み付けてくるクリスに肩をすくめて、


「ソルはこちらで預かりやすよ」


 照ノは言った。


「男には興味ないのですけど……」


「しかしてお姉様は威力使徒でやんすよ? 命と状況を天秤にかけて状況を取りやすか。まぁ別に構いやしませんがね」


「ごめんなさい。よろしくお願いしますわ」


 ソルは、あっさりと軍門に下った。


「それにしても照ノはこんな美少女たちを侍らせて何様でしょう?」


「俺様でやんす」


「わ、わ、私は侍らせられてなんかいません!」


 クリスが、真っ赤になって抗議した。


「はいはいツンデレツンデレ」


 これは照ノ。


 飛んできた仮想聖釘を、キセルで弾く。


「もうちょっと可愛らしいツンデレになってはくりゃせんか?」


「ツンデレじゃありません!」


「スーパーツンデレでやんすな」


「違います!」


「なんでやす? それ以上? ウルトラツンデレ? ミラクルツンデレ? クリス・ザ・ツンデレ?」


「どこぞの提督みたいな言い方は止めなさい!」


 仮想聖釘が飛ぶ。


 ヒョイヒョイと避ける照ノ。


「ツンデリッターも因果でやすなぁ」


 照ノは「勝気反転」と書かれた扇子を取り出して扇ぐ。


「だから違うと……!」


「ママ。それ以上は泥沼ですよ」


「ぐぅ……!」


「かっかっか!」


「やっぱり殺します!」


「やっはっは」


 そんなこんなで夕餉の時間は過ぎていった。

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