口調はいたって穏やか。そしてにこやかな笑顔。

 だが、目は全く笑っていない。

 なまじ昭久の顔が整っているだけに、本気の怒りを含んだ美形の笑顔というのはものすごく怖い。


「ね?」

「…………っ」


 見ず知らずのキレイな男から発せられる、得体の知れない黒いオーラと妙な迫力に気圧されながらも、男が掴まれた手を振りほどこうと抵抗する。

 が、見かけによらず昭久の力が強くて手を振りほどくことができない。


「無駄だよ。俺、結構強いから」

「ちょ、マジ痛いって。離せよ。おい、お前らもこいつなんとかしろ……」


 男が連れの二人に助けを求めるが、関わり合いたくないのか二人ともサッと顔を逸らせた。


「え……お前ら?」

「だから無駄だって。お友達には俺からやめてねってお願いしたから」

「お前、何やった」

「別に何も。ただ、俺のに手を出したらどうなるかって教えてあげただけだよ」

「…………」


 相変わらず昭久はにこやかなままだが、すっと細められたネコ科の肉食獣のような目に見つめられ、男は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。


「そろそろ帰ってくれないかな。俺たちデート中なんだよね」


 昭久の手に力が入る。

 男の手首からみしりと嫌な音がして、男の顔色が変わった。


「や、やめるって、もう帰るから。手、離せ……っ」

「…………」

「おい!」

「どうしよっかな」

「ふっ、ふざけんな! お前が手を離さないと帰れないだろっ」

「うん。そうなんだけど、君、反省してないみたいだし」


 ほら、ごめんなさいは?と言いながら、昭久が手首を掴んだまま男の顔を覗き込む。


「嫌がってる子を無理やりどうにかしようとしてたのわかってる? 彼女、怯えてた……」

「……新田くん」


 背後からコートを引っ張られ、昭久が後ろを振り向いた。


「新田くん、もういいから。ぼ……私、気にしてないから。だから、もう行こう?」


 潤んだ瞳で深浦が昭久のことをじっと見つめている。

 深い緑色のガラス玉のような目に見つめられると、昭久が深浦に対して持っている気持ち、心の奥にある昭久自身まだ認めきれていないそれを見透かされているような気がして、昭久は深浦から目を背けた。


「新田くん」

「……わかった。深浦がそれでいいなら」

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