これは恋……なんかじゃないっ!

とが きみえ

 時間は午後二時。すでに人もまばらになった学食の一角で、新田昭久にったあきひさは友人の横山が人気メニューの手作りプリンを前に鼻息を荒くしているのを冷めた目で眺めていた。


 昭久とは高校からの腐れ縁であるこの横山、よほど彼女が欲しかったらしく、大学に入学して間もなく、同じ大学(しかも同じ学部)に進学した昭久を強引に巻き込んで「人間観察・研究会」なる怪しげな集まりを立ち上げた。


 中高と異性への興味が出てくる十代前半を男子校で過ごし、まともに会話をする機会のある女性といえば母親と親戚のおばちゃんくらい。

 バイト先のコンビニで若い女の子が客としてやって来たら、それだけで注意力が散漫になり、必ずといっていいほど会計を間違える。


 そのため、いざ彼女を作ろうと思っても女の子に対してどう接したらいいのかがわからない。

 だが、女の子とお付き合いはしたい。

 そこでまず女の子の生態を知ることから始めようとこの怪しげな会をつくったのだ。


(俺は別に彼女とかどうでもいいんだけど)


 すべてのパーツが平均よりやや下回る横山に比べ、昭久はいわゆる超イケメンだ。

 幼稚園の頃からガールフレンドが途絶えたこと がなく、高校にいたっては男子校だというハンデがありながらも「新田くんの彼女になりたい」希望者が校門の前で昭久の出待ちをしていたほどだ。


 現在も数人の女の子から連絡先を渡されており、次はどの子にしようかと考えている最中で、横山のように切羽詰まってはいない。


(ていうか、最近面倒くさくなってきたしなあ)


 たまには女の子に囲まれていない生活もいいかもしれない。

 などと、横山が聞いたら激怒しそうなことを昭久がつらつらと考えていると、横山が食堂のテーブルに身を乗り出した。


「それじゃあ今から、理想の彼女ゲットのためのミーティングを始めたいと思います!」


 無駄に張り切る横山の声が、閑散とした学食に響き渡る。


「横山、声。大きい」

「そうか?」


 張り切りすぎる横山に昭久が注意すると、彼は少しだけ声のトーンを落とした。


 ちなみにこのミーティング、実は今回が初めてではない。

 昭久らの授業が昼までで終わる毎週火曜日の午後に行われており、今回でなんと六回目。


 会員は現在のところ昭久を入れて三人。

 会長の横山、副会長に任命されてしまった昭久、そして昭久の隣に座っている深浦みうらだ。

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